第18話 内側へ

 俺達はジャイアントアントに奇襲された場所に訪れていた。

 周囲は不自然に穴が開き、彼らの残骸がチラホラと見受けられる。


「アイツらの姿は無さそうやな」

「どこかに移動したのか巣の巡回中でたまたまいないのかは分かりませんが……行きましょう」


 俺とアルヤはスコップを取り出し、巣穴へと向かって突き立てる。

 穴は簡単に広がり、人が通れるほどの大きさの穴になるまでにそう時間はかからなかった。


 アルヤは松明に火をつけ、穴の中に放り込む。

 3メートルほど落下した松明は、淡くその周囲を照らしていた。


「レイの予想通りそれなりに広そうやな。ほな行くで」


 穴の中はそれなりに補強されているようで、よほど派手に暴れない限りは崩れてしまう心配はなさそうだ。

 俺達はランタンに明かりを灯し、アルヤを先頭に穴の中を進んでいく。


「この先におるな」


 アルヤがそう言い、耳を澄ませてみるとアリの関節がギシギシと軋む音が微かに聞こえた。


「打ち合わせ通り、先手必勝で行こか」

「そうですね」


 巣を駆逐するとなれば、残党を残す理由はない。

 クイーンを潰せば繁殖できずに勝手に駆逐されてくれるとは思うが、道中の雑魚を無視して、クイーンを相手する時に増援として来られても困る。というのもあるが。


「行くで!」

「おう!」


 俺も前へと出てアルヤと共に音の方へと距離を詰める。

 ランタンの明かりに照らし出されたありの数は5匹。彼らが俺達を認識した時には既に3匹になっていた。


「ウチは右のやるからレイは別の頼むで!」

「任せろ!」


 普通なら片方ずつ対処するところではあるが、ここは少し攻めてみてもいいだろう。


「くらえ!」


 後回しにする方のアリへと思い切り盾を投擲する。

 一撃で仕留めるとまではいかずとも、金属と木で出来たそれはそれなりの質量を持ち、ダメージを与えて動きを鈍らせる事は出来る。


 両手で剣を握り締め、渾身の一撃を片方のアリへと浴びせ、体勢を立て直される前に残った方のアリへと間合いを詰め、再び剣を振るう。


「滅茶苦茶な事すんなあ」

「不格好でも勝てればいいんですよ」


 アルヤの方も片付いたようで、彼女はアリの体液を拭いつつ俺を見て苦笑いしていた。


「せや、さっき地味にタメで話してくれたやろ」

「あー……そうでしたっけ?」


 思わず素が出てしまったような気がする。


「ま、ウチらは気にせんから気軽に話せるってなったらタメで話してくれればええで」

「はは、ありがとうございます」


 巣穴は非常に入り組んでおり、何度も行き止まりに当たってしまう。

 彷徨っては兵隊アリを倒し、行き止まりに当たれば引き返して別の道へ。ひたすらそれの繰り返しだ。


 何度繰り返しただろうか、ユーリに地図を書いてもらっていたおかげで巣の全貌が明らかになりつつあった。

 各個撃破出来たおかげで討伐個体数はかなり多かったが、消耗はかなり抑えることが出来た。

 俺達は外周の端っこに当たる部分で一度休憩する事にした。


「これで外周と思う場所は埋まりましたぁ……」

「後は内側に向かって進むだけやな」

「そうですね。でもまずは体勢を整えましょうか」


 俺もアルヤも完全に無傷というわけにはいかなかった。

 ポーションを使用して体を癒す。武器も簡単ではあるが手入れをし、若干鈍った切れ味を回復させる。


「なあ、レイ」

「ん、どうしました?」

「あー、いや。この仕事終わったら言うわ」


 アルヤは軽く笑みを浮かべつつ武器に砥石を当てている。

 無事に休憩も終わり、それぞれ武器を手に立ち上がる。


「っしゃ、ほないくで!」


 アルヤを先頭に巣穴の中心を目指して進む。

 外周部は土壁だったのだが、徐々に周囲の壁に何か粘膜のようなものが目立ち始めた。


「なんやこれ、ジャイアントアントってこんなんしたっけか?」

「これは恐らく……卵ですかね、孵った後の」


 そう言うとほぼ同時に芋虫のようなものがうぞうぞと奥から這い出して来た。

 世話をしていたと思われる成虫の個体も顔を覗かせたが、どうにも他の個体よりも重厚な殻を持っているような印象を受ける。


「わ、私もそろそろ……!」

「いや、まだ温存でお願いします」

「あうぅ」


 所詮はジャイアントアント、ここまでで多くのアリを倒してきたこともあり手こずりはしないだろう。


「っしゃ、幼虫共々蹴散らすで!」

「やりましょうか!」


 俺とアルヤは今まで通り、それぞれ駆け出した。

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