第17話 報告
「ぜぇ……ぜぇ……どうやら追いかけては来とらんみたいやな」
「あうぅ……もう魔力殆どありませんよぉ……」
「一回村に戻りましょう……事情を説明してギルドに報告するのが一番ですよ……」
「せやな……それが良さそうや」
数はかなり削ったはずだが、依頼である巣の掃討をするとなると不可能かと言われればそうではないだろうが、俺達のランクでこなすべき依頼かと言われればそうではないだろう。
俺達よりも1つ、2つ上のランクで受ける依頼の内容と推測できる。
村へと戻り、村長に報告をし、そのまま帰る形になる。
そう思っていたのだが。
「それほどまで数が増えておると……」
「ええ。ですから一度ギルドに報告し、僕達よりも実力のある冒険者に――」
「いや、無理を承知であなた方に引き続き依頼をお願いしたい」
村長は俺達にどうにかして欲しいという意向だった。
「しかしですね……」
「勿論報酬は増額致します。既に家畜が被害にあっており、それだけの数のジャイアントアントがいるとなれば猟も出来ず、村人への被害もそう遠くないうちに出てしまう。それだけは避けなければならないのです」
彼らの事情も分かるが、俺の勝手で引き受けていいものではないだろう。
どう返すべきか迷っている中、アルヤが一歩前に出た。
「そういう事ならウチらに任しとき! でも条件があるで」
「条件……ですか」
「ギルドに連絡をする事や。ウチらが行って解決出来りゃええけど、それが出来へんかった時に目も当てられん事になるのはイヤやからな。それから村長さんの勝手で言うとる事や、責任はあんたが持つんやで」
村長は数秒考えたようだが、すぐに答えを出した。
「分かった。その条件であればあなた方は受けてくださると」
「ま、ほんまに無理ってなったら悪いけど退散させてもらうけどな。無駄死にせぇってのは流石に呑めへんからな! 正直ウチらで対処出来そうって思ったから今回は言うとるだけやし、基本的にはウチもそこのレイと考えは同じや」
「確かにやれそうな気はしないでもないですけれども……数日に分ける必要はあるかもしれませんよ」
「ワシらとしてはそれでも構いません。引き続きお願いします」
「おう、任しとき!」
アルヤが俺の手を引きつつ、借りている彼女達の部屋へと連れ込まれる。
「さて、悪かったな。レイ、ユーリ」
「いや……まぁいいですけれども……」
「あう……気にする必要は無いですよぉ」
彼女はドアを閉めるとほぼ同時に俺とユーリへと頭を下げた。
「こういう依頼の変更ってのはレイは……まあ初めてやろな」
「えぇ、まぁ」
こういった依頼内容の変更というのがある。というのは予想できなかったわけではない。
もしそうなれば依頼を断ろうと思っていたところなのだが、アルヤが引き受けてしまったという形になる。
「ウチが勝手に言うたわけやし、もしアレやったらレイ達は先に戻っとってもええで。報酬は勿論3等分や」
「いえ、付き合いますよ。でも無理そうだと思ったら引きずってでも帰りますからね」
「はは、おおきに」
アルヤがこれを引き受けた理由を説明してくれたのだが、彼女は村長の想定が当たると思ったからだそうだ。
もしも自分たちがこれでギルドへと戻り、依頼を受ける者がいなければ多少なりとも被害が出るだろう。そうなる前に国の騎士団が動くとは思うが、後手に回ってしまうのはほぼ確定だ。
「ここから先、あの量のアリを蹴散らして巣を叩くとなると……感覚だけで動くのは厳しいですね」
「あう……」
俺はユーリの方をチラリと見たが、彼女はそれだけで萎縮してしまったようだ。
「ユーリさんの魔法は頼りになりますが、あまり連発出来るものではないでしょう?」
「そうですね……雑魚なら1発で倒せますが……親玉クラスとなるとそうもいかないでしょうしぃ……」
「ユーリさんは基本的に何もせず、僕とアルヤさんで雑魚は相手しましょう」
「数日に分けてやればユーリも火力に回ってええんちゃうか?」
「それは雑魚の数次第ですかね、あまり日数をかけても卵が孵化して――なんてループも考えられますし」
「なるほどな、気持ち的には一日で決めるくらいで思っといて良さそうやな」
巣がどの程度の規模なのか、そして卵がどれほどあるのか、この辺りが分からないのが正直怖い所だ。
「作戦考えとかんとアカンな。多分あの辺に巣があるんやろけど」
「洞窟か何かでしょうかぁ……」
「もしかしたら巣はもう見つけられてるのかもしれませんよ?」
「ん、どういうこっちゃ?」
ジャイアントアントは基本的には地上で行動するが、巣は地面や洞窟を削って地中にある事が多い。
そしてあの場所で俺達は地中から這い出てくるジャイアントアントに遭遇した。それが意味するのは――。
「アイツらが飛び出して来た穴、あそこから入れば巣に繋がっているでしょう。多少入り口は広げてやらないといけないかもしれませんがね」
「中はどうなんや?」
「あれだけの数が通れるだけのスペースはあるんじゃないですかね、なかったら周囲を探索するしかありませんが」
「そうなるとぉ……ランタンや縄梯子は必須になりそうですぅ」
「そうですね。アルヤさんか僕が先頭と殿をする形になると思います」
「ほんならウチが先頭を行こか、多分クイーンおるんやんな?」
あれだけの数のアリがいる巣だ。彼らを生み出す存在であるクイーンアントもいると見ていいだろう。
大きさはジャイアントアントの中でもトップクラスだが、強さという意味では最底辺と言われる繁殖に特化した個体だ。
「細かい作戦を決めて、今日は休むとしましょうか」
こうして俺達は巣の掃討作戦へと向け、夜遅くまで話し込む事となった。
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