第16話 不意打ち

「村での被害は表の馬、それから家畜も少々……といったところです」


 朝を迎えた俺達は、狩人のアルボに話を聞きに行っていた。


「この村の人間を襲い始めるのも時間の問題かもしれませんね……」

「なるべく早く解決せんならんな……んで、実際に見た場所とかないんか?」

「幸か不幸かそのものを目撃はほとんどしておりませんが、彼らの物と思われる痕跡をいくつか見つけています」


 そう言うとアルボは地図を取り出し、いくつかの地点に印をつけていく。


「恐らく巣はこの辺りにある……と思いますけれども、申し訳ありませんが確証はありません」

「ここまで調べてもらえているとは……驚きですぅ」

「はは、獲物を追う為にも情報を拾う能力は狩人に必須ですから」


 基本的にはこういった情報も自分たちで集める事になるのが冒険者だ。

 しかし、今回はアルボのおかげで手持ちの情報がほぼ完璧な状態であると言えるだろう。


「それじゃ、そろそろ行きましょうか」

「せやな。ササーっと終わらしたるで!」


 村を出て森へと向かう。


 森の中はよく整備されており、見通しはかなり良い。もしも何かいれば簡単に見つけられそうな気がするほどだ。

 アルボが見つけたという痕跡もすぐに見つかり、巣がありそうな箇所へと俺達は到着した。


「なんつーか、こうもサクサク行くと調子狂うなあ」

「楽でいいんですけれどもね、まぁ駆け出し用の依頼でしょうから」

「ここまで楽なんはー……何回かあったな、ウチらも」


 あくまで腕っぷしさえあれば大丈夫。そう思いたい所ではあるが、こう楽だと後に何かあるのではないかと勘繰ってしまう。


「範囲が絞れたとは言っても……意外と広いですね」

「まー、これ以上贅沢言うてもしゃーないやろ!」

「分かれて探索しますかぁ……?」

「いやいや、誰か1人だけになってまうがな。まぁレイがそうしたいってんならええけど――」

「集団行動でお願いします」


 もう少し合流しやすいだとか、まだ情報が殆ど揃っていないなら考えたところではあるが、今別行動をするメリットはほぼ無いだろう。


「とりあえず地道に探してみますか」


 感覚強化の魔法を使い、周囲を注視する。

 ジャイアントアントの足跡は杭を刺したようなものである為、比較的見つけやすい部類にはなるのだが、いざ探してみると草木に隠れてしまっていたり、他の動物の足跡で消されてしまっていたりと意外と見つからないものだ。


 しかし、感覚を強化すればそういった痕跡も比較的楽に見つけることが出来る。


「こっちの方に数匹移動していますね。行ってみますか」


 俺達は森の奥へと向かって歩みを進めていく。

 徐々に彼らの痕跡も増え、素人目でも分かりやすいものとなってくる。


「あのぉ……」

「こりゃ……ウチらの手に負えるんか?」


 30分ほど歩みを進めてみると、もはやそこは枯れた土地となっていた。


 地面は禿げあがり、至る所にジャイアントアントの足跡がある。白骨化した動物の死体がところどころに転がっている。


「大規模な群れですね……」


 数は30匹は超えそうだ。普通初心者の依頼となれば多くても6匹ほどが相場だとは聞いている。

 ここは一度ギルドへと報告しに戻るのが正解だろう。


「一度引き返して――」

「危ない!」


 アルヤがそう警告するとほぼ同時に、俺の足元が盛り上がった。

 咄嗟に飛び退いたその場所には、巨大な挟みのようなジャイアントアントの顎が見えた。


「あわわわ……囲まれてますぅ!」


 次々と地面からジャイアントアントが這い出してきた。

 すぐ近くに這い出そうとしてきた個体は俺とアルヤですぐに処理出来たが、少し離れた位置に出てきた個体の処理までは出来ない。


 多少のバラつきはあるが、大きさは大体1メートル前後ほどだ。


「こりゃもう腹くくった方が良さそうやなあ、レイ」

「そうですね……何か作戦とかあります?」

「いやぁ、もう感覚しかないやろ!」


 アルヤは二本の短剣を握り締め、ジャイアントアントの群れへと向かって駆けだしていた。


「ユーリさん、俺から離れないでください!」

「わ、分かりましたぁ!」


 ユーリは魔力を矢のようにし、こちらへと近付くジャイアントアントへと向かってそれを放った。

 アルヤとユーリで対応しきれない箇所のアリを俺が引き受け、力任せに剣を振るう。

 数は多いが1体1体はそれほど強くなく、1回か2回斬れば倒せる程度の相手のようだ。


「ユーリさん、もう少し抑えてもいいですよ!」

「は、はいぃ!」


 彼女達もあまり味方と連携するという機会は無かったのだろう。俺が処理しきれるような場面でも、自分の身よりも俺の事を気遣っての魔法が飛んでくる事がある。

 確かにそうしてもらえれば俺が引き受けていた場所は楽になるのだが、彼女が抑えるべき箇所が手薄になり、そのカバーに俺かアルヤが動かなければならなくなってしまう。

 そうなれば俺がいた箇所が薄くなり――という連鎖を生み出してしまう。


「2人共! 突破口は作ったで!」

「そこから脱出しましょう! ユーリさんが先行してください!」


 どうやらアルヤは一点突破を狙っていたようで、彼女がいた位置のアリは全て倒されていた。


 俺とユーリが駆け出したのを見ると、アルヤは先頭に立って脱出を始めた。

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