第8話 試験の結末
文字や画像が表示される光る板に、それを小さく持ち運べるようにされたもの。
モニターにスマホだ。そしてモニターに繋がれているものはパソコン、それらを繋ぐものはケーブル。これは確かに俺の記憶だ、しかし今いる世界には存在しないはずのものだ。
「――イ、――レイ!」
「ハッ!?」
俺の名を呼ぶ声に思わず飛び起きる。
先ほど戦った剣士と年老いたエルフの女性が俺の傍にいた。
老婆は俺に手を当てており、そこからは温かい流れのようなものが感じられた。
「いやあ、よかったよ。初の死者になるかと」
「ったく、死にゃあしないだろうけど加減ってもんがあるだろうバカタレ」
「いって! 何すんだこのババア!」
老婆は剣士の後頭部を勢いよく叩き、剣士は頭をさすりながら老婆を怒鳴る。
「何があったかは覚えてるかい?」
「ええと……確かやっと一撃当てられると思った所で……」
「いやあ、アタシの読み通りに動いてくれて助かったよ」
「やっぱり読まれてましたか……」
「初心者相手にぶっ放す技でもないだろう」
「いでっ」
再び老婆に剣士が小突かれる。
俺が避けた一撃はフェイク。いや……それですらないようで、彼女がとった行動は超大振りの力任せな一撃を叩きつけたものだった。
老婆は俺の方を見て問いかける。
「レイ、どうして避けた?」
「彼女の攻撃は重すぎたので、とても受けるのも……受け流すのも難しいと思いまして」
「ふむ、概ねその考え方は正しいさね」
老婆は俺が投げ捨てた盾を手に取り、正面を見せる。
盾は大きく損傷しており、もう何度か受けていれば壊れていた事だろう。
「ただお前がやられたあの一撃、あれは避けちゃいけないやつだ」
「避けてはいけない……?」
「あれはあくまで予備動作。威力が無いとは言わないけれども他の攻撃に比べちゃあ大した事のないもんさ。まあそれを見切れ。って言うのも酷なもんだけれどね」
やれやれと言った様子で剣士を睨む老婆に剣士が肩をすくめる。
「避けなきゃいけねえって思わせたアタシの勝ちだろ?」
「勝ち負けじゃねえつってんだろうが! お前は今試験官なんだぞ!」
「そういやそうだったか。いや悪いな6番」
「ったく、こんな技引き出された時点でお前の負けだよチェイス」
「ところで……あの初段って僕でも弾けたんですか?」
「ん? そうだな、そこそこ重いとは思うけどお前なら弾けたと思う。そうなってりゃ一撃は貰ってただろうな……ま、それじゃあアタシは倒れないだろうけど」
とんでもない人だ。思わず苦笑いしながらその場を流す。
「これ、試験の結果って……」
「問題なしの合格さ。何ならチェイスにここまでやらせるようなヤツなんだから実力は主席なんじゃないかね?」
「お前今いくつなんだ?」
「14です。試験が受けられるようになったので受けに来ました」
「14でこんだけ動けんだったらいい剣士になれるぜ! 魔法は使えんのか?」
「エンハンスの魔法だけですが……」
「大丈夫大丈夫。アタシなんか何も使えねえから!」
この人はあれか、肉体がアホなタイプか。脳筋という言葉があるが、まさにそれと言ってもいいんじゃないだろうかこの人は。
背中をバンバンと叩かれながら俺は無意識にため息をついていた。
「コイツの研修はアタシが担当したいんだけどいいよな?」
「げ……マジ?」
「はぁ……レイ、腹を括りな。一応私もあんたの研修に付き合ってやるさね」
「マジ? ババアも?」
「えっと、お名前をお伺いしても?」
「そういや名乗ってなかったね、私はリムってんだ。得意なのはソーサラーとコンジャラーの魔法ってところさ」
よく見れば老婆の指には指輪が嵌められており、他にも魔力を底上げしたり消費量を抑えるような装飾品がちらほらと目に入る。
「その中でも特に炎魔法が得意……ですか?」
「おや、よく分かったね」
「それ、業火の指輪でしょう?」
業火の指輪というのは炎属性の魔法を強化する指輪だ。店売りされているものではあるものの、その値段は非常に高く、所持しているだけでもそれだけ稼げる実力があると言う証明になる。
「剣士なのによく知ってるね。コイツとは大違いだ」
「小さい頃に何の魔法が使えてもいいように本を読んでいたので……」
「チェイス、油断してるとすぐにこの子に追い抜かれちまいそうだね」
チェイスはそれを聞くと豪快に笑って見せた。
「そいつぁ構わないさ。何ならアタシの技術も全部教えてやる」
「意外ですね……そういうのって隠すもんなんじゃ」
「まあ教えたがらねえヤツは多いな、でもアタシはそうじゃない。だからと言って追い抜こうとされても簡単に追い抜かれてやるつもりはないけどな」
それだけの自信があるのだろう。実際、彼女の力は本物だ。
いつの日か彼女の本気を引き出して、全力でぶつかり合ってみるのも悪くはないだろう。
「そろそろ報告に戻るとするよ、チェイスも準備しな」
「うぇーい」
「レイも着替えな、明日から早速研修スタートだから気を引き締めときな」
「はい!」
こうして俺の冒険者としての生活が幕を開ける事となった。
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