第9話 初日の朝

「さっさと起きないと支度が間に合わなくなるよ!」

「は、はい!」

「私はチェイスを起こしてくるから、先に朝食を済ませとくんだよ」


 朝の6時、俺はリムに叩き起こされていた。

 顔を洗い装備を整え1階へと向かう。


 冒険者ギルドは酒場であり宿屋だ。とは言っても宿の部分は基本的に冒険者が利用するものとなっているのだが。

 冒険者はギルドを自宅のように扱う事が多く、その理由としては冒険者であれば宿泊や食事に割引されるという特典が一番大きいだろう。


「リムさんに叩き起こされちゃった感じですかね?」

「えぇまあ……」


 俺にそう声をかけてきたのは人間の女の人だ。


「という事はあなたがレイさんですね。私はエベリナ、どうかお見知りおきください」

「レイ・プレストンです」


 軽く自己紹介をして、食事を注文する。


「担当はチェイスさんだったと思いますが……リムさんが絡むとこうなりますよねえ」

「彼女についてお伺いしても?」

「えぇ。彼女は非常に腕の立つ魔術師で、彼女の指導をしっかりと受けた彼女の弟子もまた大成している人が多いですね」

「へぇ……」

「ただ……やはりというべきか、非常に厳しく彼女の元から逃げ出してしまう人も少なくはありませんがね」

「はは、そんな感じはしますね」

「チェイスさんは何と言うか豪快な方で……今回が初めてですね、彼女が指導役になるのは。とは言っても……いえ、何でもありません」


 苦笑いするエベリナから朝食のプレートを受け取る。

 実質リムが乗っ取るような形になっているような気がしているが、恐らく彼女が言いたいのもその事だろう。


 席について先に食事をとっていると、大きなあくびをしながら階段を下りてくるチェイスの姿が目に映った。

 彼女はこちらに気が付くと目を擦りながらモニョモニョと何かを言っているようだ。


「おぁよー……ったく、こんな時間に叩き起こす必要は――」

「あはは……気持ちは分かりますよ」


 先に席へと着くと、少し遅れてリムが階段から降りてくる。


「早起きする必要はない。っつーのは間違いではないさ」

「え……じゃあ何で」

「ただ、早起きをする事で得する事だってある。まずは食堂が空いてるって事」


 リムとチェイスが朝食を手に席に着く。

 二人は朝食に手を伸ばし食べ始める。どうやら「いただきます」という概念は無いらしい。


「まぁ……空いてるのは確かに楽ですけれども……」

「ま、こんな程度じゃ早起きする理由にはならないのは分かってるさ。ジョークだよジョーク」

「つまんねー事言ってないで本当の利点を教えてやったらどうなんだ?」


 チェイスが不機嫌そうな表情を浮かべながらリムを見る。


「そうだね。依頼を好き勝手に選べるっていうのが一番だね。チェイスくらいの実力になれば早い者勝ちって事も少なくはなるけれども、特に駆け出しの内は旨い仕事はすぐになくなっちまう」

「実際、アタシも駆け出しの頃は助かったからね。これは信じていい」


 依頼のリストが更新されるのが6時、12時、18時となっている。

 冒険者は仕事が自由という事もあってか、昼間から仕事に出るという人も少なくないと言うが、そういった依頼はやはりマズイものが多いようだ。


「ま、今はまだあんたは依頼を受けられるわけじゃないがね。クセをつける為にもこれからはこの時間に起きてもらう。」

「ええと、了解です」

「さて……私から言う事はこれくらいさね。後はチェイス、お前が教えな」

「もうちょっとゆっくりしていたかったけど……仕方ないか」


 コーヒーを飲み干したチェイスの顔は寝ぼけているそれではなかった。


「とりあえずレイ、お前は剣士……それも盾を使うタイプの剣士を目指すんだろ?」

「えぇ……まあ、最終的にはちょっと考えてる事もあるんですけれども」

「考えている事?」


 チェイスは首を傾げながら顎に手を当てる。


「実は一つ作ってみたい武器があるんです。でも俺じゃ作れないのでドワーフの知り合いを作るところから……なんですけどね」

「ほう、中々面白い事言う子じゃないか」


 リムが意外といった表情を浮かべながら食いついてきた。


「どんな武器なんだ? よかったら聞かせてくれよ!」

「えーと、武器に一度魔力を移すか、弾丸に魔力を込めるという方法で――」


 気が付けば俺はペラペラと銃について知っている限りのことを話していた。

 チェイスは時々食いつくように質問をしてきたが、リムはただ黙って俺の話を聞き続けている。

 一通り話し終わった後、リムが口を開いた。


「なるほどね。発想は面白いけれども……課題は多そうさね」

「自覚していますよ。だから俺一人じゃとても形にする事すら出来ない」

「それでドワーフ……なんなら他にも仲間が集めたいから冒険者にって感じかい?」

「そうですね。単純な好奇心や憧れもありますけれど」

「ドワーフについては私が声をかけてみよう。でも取り合ってくれるかどうかはお前さんの実力次第になるとは思うがね」

「話を聞いてもらう為にも実力をつけるつもりですよ」

「っし、ならアタシがガンガン鍛えてやるから期待しときな!」


 チェイスは任せろと言わんばかりに胸を叩き、胸を張っている。

 俺達は席を立つと、訓練の為に街の外へと出る事となった。

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