第7話 試験
強固な石の壁によって囲まれ、多くの人々が暮らす中規模都市ヘルテイ。
ここにこの辺りを管轄とする冒険者ギルドが設置されており、この辺りの冒険者は皆このヘルテイを拠点として活動している。
「皆さんには今から冒険者になる資格があるか、それを見極めるために試験を受けていただきます。主な試験内容は面接、そして実技となっております」
冒険者ギルドの奥にある会議室で俺達、冒険者志望生は試験の説明を受けていた。
今回、このこの試験を受けるのは俺を含めて約30人といったところか。
俺と同じくらいの子は5人程で、他は大体18歳から20代前半といったところだろうか。
杖を持っていたり、剣を持っていたり、槍を持っていたり、中には武器を持っていない者の姿も見える。
「番号をお呼びしますので、呼ばれた方は同行をお願いします。それでは1番の方から」
俺の番号は6番。それほど長く待たされるという事は無いだろう。
周囲の様子を見てみると、予想はしていたが殆どは仲間同士では試験を受けに来ているようで、既にグループが出来ていた。
……というより、俺以外全員仲間がいるようだ。
それほど長い時間ではないはずなのに、呼ばれるまでの時間が酷く長く感じる。
特に誰かと話すでもなく、話しかけられる事もなく、ただ頬杖をついてぼーっと虚空を眺める。こういう経験はレイとしてはしたことがないはずだが、何故かどこか慣れているような感覚がする事に前世の俺がマトモな人間だったのか少し不安になる。
「6番の方ー」
「あ、はい」
立ち上がり、係員の案内で別室へと移る。
中には3人の人が座っており、2人は男の人間。もう1人は女のエルフのようだ。
「どうぞ、おかけになってください」
「はい」
案内してくれた係員は部屋を退出し、促されるまま俺は席に座る。
「ええと、まず冒険者という仕事はどの程度把握されていますか?」
「そうですね。まず命の危険と隣り合わせである仕事という事。それから――」
俺の中にある冒険者という職業の知識を話す。
それを聞いていた3人はそれぞれ時折頷き、一番年上らしき男が口を開く。
「この職業は概ね君の認識の通りで間違いはない。しかし、魔物とは言え殺生を嫌う人がいるのも事実。英雄的な側面も確かにあるが、同時に悪として邪険に扱われる側面もある」
「理解はしているつもりです」
「ふむ……分かった。君は誰かと一緒に試験を受けに来たのかね?」
表情と声色から察するとそれほど重要な質問でもなさそうに思える。
下手に見栄を張る必要は無いだろう。
「いえ、自分1人だけです」
「ソロでの活動を考えているのか?」
「そうですね……今のところは」
「仲間の有無というのは仕事の成功率、そして生き残れるかという点において非常に重要な要素である。というのは理解しているのかね?」
「はい。だからと言ってむやみやたらに組めばいいというものでもない……と私は思っています」
「一応こちらの制度で任意ではあるが、ソロの冒険者に同じくソロで仕事をしている冒険者を紹介する。というものがあるのだが、どうかね?」
「私としては誰かを紹介していただいても、誰かに紹介していただいても構いません」
「ふむ、ありがとう。面接は以上だ」
「ありがとうございました」
俺は一礼し部屋を出る。
その後案内された控え室で再び長い虚しい時間を過ごす事になったが……語る必要はないだろう。
「みなさまお待たせしました。面接試験は全員合格ですので次の試験へと移ります」
実技試験は面接と違い複数の会場で同時に行うようで、俺は一人、小闘技場へと通された。
「あんたが今回の試験のソロ枠か。これまた随分と若いねえ」
闘技場の中心に立つ女性が俺を見るなりそう言い放つ。
彼女は自分の体と同じくらいはあろうかという大剣を担いでおり、俺の事を若いとは言っているが、彼女もまだ20代半ばかそれくらいのように見える。
「よろしくお願いします」
「おう。とりあえず試験の内容だが……ま、アタシとあんたのどつきあいだ。分かりやすいだろ?」
「どつきあいですか……」
「勿論刃を潰してある訓練用の得物を使うし、一応何かよく分かんねえ魔法がかけられてっから死ぬ心配はない。安心して本気で殴り合えるってこった」
「本気で……ってそんなのボッコボコにされません? 僕」
「うだうだ言うヒマがあったらさっさと準備してこい、落とすよ?」
「んな横暴な……」
更衣室へと移動し装備を用意されたものへと変更し、武器庫から盾とロングソードを持って闘技場へと戻る。
最初に入ってきた時と同じように食い気味に彼女は俺に向かってこう言い放った。
「そんじゃ、先手くらいはくれてやる。やろうか」
「では遠慮なく――!」
知覚と筋力を強化して地面を蹴って彼女へと肉薄する。
彼女の中心を狙ってまずは突きを放つ。だが、恐らくこれは回避されるだろう。
「素直でいいねえ」
「そこ!」
彼女が軽く体を捻って突きを避けるが、その方向へと向かって剣を振るう。
あくまで突きは置くものであって、本命はこの切り払いだ。
「っと、バカ正直な攻撃かと思ったらそうでもないか」
何度か斬撃を繰り出すが彼女に当たる気配はなく、どれも簡単に躱されてしまう。
「それじゃ、こっちもちょいとやってみようか」
ステップで僅かにこちらの間合いの外に出たその瞬間。彼女は剣を軽々と片手で振るった。
俺は盾で受けようとガードの体勢を作り、彼女の一撃を盾で受ける。
「んなっ!?」
凄まじい衝撃と共に俺は吹っ飛ばされていた。
どうにか受け身を取って体勢を整えるが、彼女は既に次の一撃を繰り出していた。
「こんのっ――!」
「ははっ、根性あるねえ君」
まともに受けていたらガードの上から殴り殺されそうだ。
盾の角度を使ってどうにか攻撃を逸らし、小さい攻撃でどうにか牽制する。
「クソッ……」
知覚と筋力だけではなく魔力も強化すれば、もう少し相手を苦戦させる事は出来そうに思える。
しかし、魔力の強化は自分の魔力量はそのままに出力を上げるものである為に、燃費がかなり落ちる。
かと言って筋力を削れば運動性と威力が落ち、知覚を削れば相手の動きを見切れなくなってしまう。
「さて、君の実力はこんなもの――じゃあないみたいだね」
俺は盾を投げ捨て、剣を両手に握りしめる。
彼女は一度警戒を解いたように思えたが、俺の行動を見て構えこそ取っていないが、再び警戒し始めた。
どうせ盾で受けた所で意味はない。であれば少しでも身軽にしてスピードを底上げして全部避けつつ、その隙間に攻撃を挟み込むのがいいだろう。
「いきます!」
「来い!」
相手の目の動き、初動を強化した知覚で読み取り、それに対する答えを強化した筋力によって行動で示す。
彼女の斬撃を紙一重で躱し、肉薄する。
「もらった!」
そう思った俺だったが、明らかに今までよりも早く彼女は体を回転させたように見えた。
――俺の記憶はそこで途切れる事となった。
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