第6話 初戦

 ゴブリンの足跡から推測すると、数は3匹くらいだろうか。

 出来るだけ木陰に隠れながら、足跡を追いかける。


 普段は気にならない草を踏む音、何気ない鳥の鳴き声が妙に気になってしまう。

 無意識のうちに聞き耳を立て、全神経を集中させてゴブリン達の気配を探す。先にこちらが気付くことが出来れば有利に事を進められるはずだ。


「……いた」


 そこには4匹のゴブリンの姿があった。どうやら鹿を仕留めたようで、その死骸に齧りついている。

 彼らの体はそれほど大きなものではなく、身長はせいぜい120センチもあるかどうかといったところだ。

 地面には彼らの武器と思われる棍棒や弓、そして人から奪ったのか刃こぼれをした剣も置いてあるのが確認できた。


 俺は全身に魔力を流し、自らの筋力、そして知覚を強化する。

 腰に下げた剣を抜き、木陰から飛び出して一気にゴブリンとの距離を詰める。


「ホギャッ!」


 一匹のゴブリンを盾で殴り飛ばし、そのままの勢いを乗せて一匹のゴブリンを深々と斬りつける。


 まず1匹。


「ギャッ!? ギャギャッ!?」


 突如としての襲撃に武器を拾おうとするゴブリンの手を踏みつけ、首元へと剣を突き刺す。


 2匹。


「っとと……」


 盾で殴り飛ばしたゴブリンが俺に飛びかかってきたが、盾を突き出して殴り落とす。

 もう1匹は武器を拾おうとしているようだが、この隙に体勢を崩したコイツの首筋へと刃を押し当てて切り裂く。


 これで3匹。


「ギャギャ!」

「何言ってんのか分かんねえや」


 剣を手に握りしめて渾身の一撃をお見舞いしようと俺へと距離を詰めるゴブリンだが、知覚を強化した俺の目はその動きをハッキリと見切る事が出来た。

 ゴブリンの刃を躱し、大振り過ぎたせいでバランスを崩したゴブリンの背中から深々と剣を突き刺す。


 4匹。終了だ。


 ゴブリンから剣を引き抜き、ポーチから布を取り出して血を拭う。


「中々いい動きだったな、ビビってるかと思ったが」

「正直怖かったよ。力み過ぎたかなって思ったけど……」

「まぁ確かに力んではいたな。それに気を抜くのが少し早い」


 父が木陰から姿を見せる。

 こうして見るとやはり存在感のある父だが、知覚を強化していたにも関わらず、戦っている時に父に見られているという感じは一切しなかった。訓練で剣を交える時も感じていたが、思っていた以上に彼の実力を感じさせられる。


「もう少し気を抜いて戦った方がいいな、集中しすぎていると不意打ちに対処出来ん」

「善処するよ。命に関わりそうだし」

「まあ、ゴブリン程度なら知覚を強化しておけば不意打ちには気付けるとは思うけどな。ほら、片付けるぞ」


 父がスコップを地面へと突き刺す。

 このまま放置した場合、アンデッドとして再び動き始める可能性がある。

 地中に埋めてしまえば大地の魔力によって分解され、それを防ぐことが出来るのだそうだ。


「戦いよりもこっちの方が疲れそうだよ」

「ま、アドレナリンももう出てないだろうからな。つべこべ言わずにやるぞ?」


 地面を掘り返し、ゴブリン達の死骸と鹿の死骸を穴に埋める。

 こうして魔物を倒した後の処理は完了する。依頼であればこのまま依頼主の元やギルドへと行き、達成報告をする形となる。


 ちなみにだが、いちいち埋めずとも死骸をバラバラにしてしまうというのも一つの手だ。

 しかし、この方法は道徳的に問題があるとされている為、滅多にとられる事は無い。


「それじゃあ帰ろうか、試験の為の勉強の仕上げもしないといけないだろう?」

「そうだね。今日はありがとう。父さん」


 実戦も経験し、ついに冒険者試験の本番を残すところとなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る