第5話 森へ
「レイ、どうやらかなり努力したみたいだな」
「これくらいしかする事もないしね、出来れば父さんについてって街で暮らしたいよ」
「悪いな、引っ越せるだけの稼ぎがなくて」
「そういう意味で言ったんじゃないよ」
14歳の誕生日を目前に控えた俺は、父と剣の稽古をしていた。
あれからと言うもの、俺の使える魔法の種類が増える事はなかった。幼い頃に考えていた遠近万能のワンマンアーミーこそ難しいものとなったが、逆に剣に集中できるようになったおかげか、父からのお墨付きをもらえるだけの実力を身につける事が出来た。
「そろそろ実戦を体験しておいてもいいだろう。どうだ?」
「いいの?」
「冒険者試験を受ける前に実戦を経験するっていうのは珍しい事でもないからな。ただ、俺が一緒についていくのが条件だが」
冒険者になる為の修行として魔物退治に出かけ、そのまま手に負えない事態となって命を落としてしまうというのは珍しい話ではない。
その為、実戦を経験しているという人は、俺のように家内に戦いの経験が豊富な人がいるというケースが多い。
「折角だしお願いするよ。でもいい場所あるの?」
「この辺りの森ではゴブリンが良く出るからな。それを狙ってみるとしよう」
父は付近の地図を取り出し、比較的よくゴブリンが目撃されると言う場所に印をつける。
距離はそれなりにあり、ここからなら徒歩3時間ほどと言った所だろう。
「結構遠いなあ」
「これくらいで弱音を吐いてちゃ冒険者は無理だぞ? 徒歩数日なんて珍しくもないからな」
馬を借りればかなり楽にはなるのだが、駆け出しの冒険者にそんなものを借りるだけの余裕はない事が多い。
「頑張るよ。一応体力には自信が……あると思うし」
「変なところで自信がないなお前は」
前世の記憶では移動はかなり楽になる乗り物があった気がする。ただ、それが何なのかも分からないし、存在だけあやふやに浮かんでもかえって苦しいだけなのだが。
翌日。朝食を済ませた俺と父はそれぞれ装備を身に纏い、家を出た。
俺の装備はロングソードにカイトシールド。鎧は革を金属で補強して急所を守るといういかにも駆け出しと言った装備だ。
それに対して父は大きなバスターソードに国の紋章が入った銀色に輝く金属鎧。いかにもなパワータイプの剣士だった。
「しかし盾か、俺の子がそっちの道に進むとはなあ」
「はは、まぁ今は試しにってくらいだしさ」
「まあ、悪いとは言わないけどな。実際盾を持っていて強いヤツはゴロゴロいる」
盾は防具として見られがちではあるが、これも立派な武器だ。
盾での殴打は隙が小さい上に、盾を向けている面には攻撃が通らないおかげで起点を作りやすい。
もっとも、こちらの視界を塞いでしまうというデメリットも持ち合わせている為、やはり一概にいいとも言えないのだが。
それぞれの思う武器談義をしながら目的地を目指し、気が付いた時には森の前までやってきていた。
「さて、街道ではあるがここから先は注意して進む必要がある」
「一応途中で道を外れるんだよね?」
「あぁ、でもそれまでに盗賊の類が襲ってくる可能性もある。その時は俺も加勢するとしよう」
こういった森の中を進む街道は絶好の襲撃スポットだ。
俺が読んだ【よく分かる初心者冒険者講座】の本にもこういった場所は何も起きない事もしばしばあるが、そうでない事の方が圧倒的に多い。と書かれていた。
しかし、結論から言えば目的地までに何かが襲ってくるという事はなかった。
恐らく父の装備が一番の理由だろう。国の正規兵相手に喧嘩を売るゴロツキは命知らずにも程がある。魔物であっても関わってはいけないタイプの人間くらいは理解していても不思議ではない。
不意に父が足を止め、その場に屈んで地面を眺め始めた。
「このまま進むと数匹ゴブリンがいるな」
「分かるの?」
「あぁ、こいつを見てみろ」
最初はよく分からなかったのだが、父の説明を聞いてみるとうっすらとその輪郭が見えるようになった。
「試験が受かれば研修で教えてもらえるとは思うけどな。先に覚えておいて損は無いだろう」
「結構原始的っていうか……魔力とか使うわけじゃないんだね」
「まぁそういう系統の魔法が使えないヤツもいるしな。それに知識として身に着けておけば魔力の節約も出来るから覚えておくといい」
「なるほど……」
「一応魔法で探知する場合……いや、レイみたいな身体強化の場合は知覚を中心に強化してみるといい」
試しに魔力を使ってみると、足跡の輪郭がハッキリと見えるようになった。なるほど、これは便利だ。
「まぁこの類が一番得意なのは
魔力そのものの反応を感じ取ったり、魔力を矢として撃ち出したりと、一番魔法使いらしい魔法を使える人をソーサラーと呼ぶ。
他にも
「出来れば俺も使えるようになりたいんだけどなあ……ソーサラーの魔法」
「こればっかりは祈るだけだな。ある日いきなり使えるようになったって話もあるし」
父は俺の背中を軽く押した。
「さて、こっから先はお前が一人で行け。ヤバくなったら助けてやるから安心しろ」
「分かったよ。行ってくる」
俺は出来るだけ音を殺しながら、森の奥へと歩みを進めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます