第3話 6歳
何の変哲もない日々が過ぎ、俺は6歳になっていた。
俺の部屋には本が積まれ、練習用にと買ってもらった短剣が棚にかけられている。
前世の記憶がある状態で異世界へと転生。漠然とではあるが、これは勝ちの方程式だとどこか確信していた俺だったが、結果はあまりいいとは言えなかった。
剣を振れば案山子に思い切り弾かれ、魔法を使おうと力んでみれば出たのは屁だった。
「何事も練習よ、練習」
母にはそう慰められたものだが、いい大人がドヤ顔をしてイキった結果がこれだと分かっている俺は、数日間は立ち直れなかった。
「チクショウ……どうすりゃいいんだ……」
ベッドに突っ伏しながらモゴモゴと呟く。
銃について思い出したあの日、俺は早速手元に銃と弾丸を出せないものかと奮闘したものだ。しかし、それは魔力不足なのかそもそも不可能なのかは分からないが、出来なかった。
ならばそれまでに魔法や剣の才能を開花させて、剣術良し、魔法よし、そして奥の手で銃。という最強のワンマンアーミーになろうと思った結果がこれだ。
一応、魔法に関しては本で読んだところによればまだ使えるようなほど成長できていない可能性があるし、剣も肉体的に未熟であると言えるだろう。
ただ、問題なのは銃だ。
試しに図面に書き出してみようと思ったのだが、外観は書くことが出来るのに対して内側の機構に関しては何も浮かばなかった。
大雑把なメカニズムは予想できないわけではないが、どうにも違う気がするし、合っているような気もする。
「ドワーフ……こいつらに協力してもらえれば……ってところか」
部屋の中に積み上げられた本の中からドワーフに関する本を引っ張り出す。
ドワーフとはムキムキマッチョを小さくデフォルメしたような見た目をした種族だ。ドワーフの女性は非常にかわいらしく、一部のマニアがいるらしいが、下手にそういうのとは関わらない方がいいだろう。
彼らは豪快で力持ちなのだが、意外にも手先は器用で繊細な作業も簡単にこなしてしまう。
それ故か、彼らのが鍛えた武具は高価なものが多く、廉価版仕様のものでも他と比べれば性能が良いと言われる。そんな種族だ。
「……大丈夫かなぁ」
知識として持ち込めたという点はいいのだが、これでもしも銃を作れたとしても弱かったら本末転倒だ。
最悪、この知識を利用した小説家か吟遊詩人になるという道も浮かぶが、それがウケるのかどうかは正直分からない。今のところ銃がこの世界に存在するとう文献は見ていない為、まだ希望はあるとは思う程度だ。
「それにしても……普通に勉強って楽しいんだな」
子供の頃は勉強嫌いで、成績はお世辞にもいいと言えない俺だったが、今している勉強は素直に楽しい。
俺が覚えている知識と食い違う所もある為、全てが流用できるわけではないだろうが、それでもこれとこれを組み合わせると何が起きるのか。といったものを予想してみるのは好奇心がくすぐられる。
「魔力が使えるようになる平均年齢は8歳……か」
今の俺の歳でも使える奴はいるようだが、俺が使えないのだからそこを考えても仕方ない。
今のところ余程何かがない限りは10歳には魔力が使えるようになるそうだ。
「魔力が使えるようになるまでは……勉強か」
ちなみにだが、この世界に学校は無い。正確に言えば今俺が暮らしている地域にそういった概念の物は無い。あくまで親の教育、周囲の環境といったところから文字の読み書きや言葉を覚えるのだそうだ。
そのおかげで自分のペースで、自分のやりたい分野を勉強する事が出来るおかげで個人的には大助かりなものだ。
しかし欠点として、嫌いでもどうしても必要になる部分や、親が苦手な部分に関しての知識が浅くなってしまうという点がある。
さらに親や周囲の環境が劣悪だった場合、読み書きどころか言語すらも話せないという子が出てきてしまうというのもある。
ふと考えてみれば勉強は好きになったが、だからと言って商業的な計算だとか細かい文法だとかを覚えるのを好きになったのかと言われれば否だ。
算数はどうにか前世の知識のおかげなのか問題なく出来るが、もしその知識が無ければ俺はもしかしたら簡単な足し算引き算すら出来ない子だったのかもしれない。
「ま……いっか」
とにかく覚えるべきはこの世界の常識、特に前の世界で物理学と呼ばれていた部分は把握しておくべきだろう。
この世界にも物理学は存在するが、俺の中にある記憶と噛み合わない節もあり、そういった場合の大半はこちらの本の方が正しい。
ある意味で前の世界の記憶。と呼べる部分が弱点になりうるかもしれないのは今後の注意点だ。
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