前科2 栗見さんとコンビニ強盗
「どどどどうしよう、お父さんのコレクション、間違えて学校に持って来ちゃってた……」
ガチ日本刀を隠すように抱きかかえ、顔を真っ青にして栗見さんが震えている。
泣きそうだ。励ましてあげたい。
「大丈夫! バレなきゃセーフだよ!」
嘘だよ。アウトだよ。
「とりあえず、見つかる前に帰ろうか」
「うん……。ごめんだけど、代わりに傘さしてくれない?」
「え!?」
相合傘するってこと!?
「あ、嫌だよね。ガチ日本刀女と一緒に帰るの。一人で帰るよ……」
「違う違う! 全然大丈夫!」
「そう? じゃあお願いしていい?」
クラスの女子と、それも飛びっきりの美少女と相合傘なんて。僕的にはこっちの方が大事件だ。
「うぅ〜、なんで間違えちゃったんだろ〜」
雨の中を並んで歩みながら、しょんぼり肩を落とす彼女を横目で見る。
半泣きなのを差し引いても大きな瞳。顔面蒼白なのを考慮しても真っ白な肌。程よく膨らんだ胸。その間に挟まるガチ日本刀。
なんだろう、さっきから胸の高鳴りが止まらない。
「
え!? 聞こえてる!? 恥ずかしい!
「わたしも、すごいドキドキしてる」
まさか栗見さんも、僕を意識して……?
「ガチ日本刀持ってるとドキドキするよね」
ガチ日本刀ッ!
***
「ごめん栗見さん、そこのコンビニで傘買ってきてもいい?」
相合傘は心臓に悪すぎる。もう限界だ。
栗見さんは僕の肩に視線を向けると、ハッとしたように目を見開いた。
「わわっ、布里須くんビショビショだね!? ごめんね、気付かなくて! 狭かったよね!? でも——」
続けて、自身の体を見下ろし、少しだけ頬を赤らめてポツリと呟く。
「——わたしは全然濡れてない」
そして、輝かしい、ひまわりのような笑顔を向けてくれた。
「どうもありがとう」
その笑顔を見ていると、なんだか心の奥がポカポカ暖かくなってくる。
「ガチ日本刀が錆びないように気を遣ってくれたんだよね!」
そうじゃないんだけどなァ。
まぁ栗見さんの笑顔が見れたしいいか!
「布里須くん、わたしが傘おごってあげるよ!」
傘おごるってあんまり聞いたことないね。
「悪いよ。傘忘れたの僕だし」
コンビニの傘って地味に高いしね。
「大丈夫! 口ふ……」
口封じって言おうとした?
「じゃくて、口ど……」
口止めって言おうとした?
「でもなくて……そう、友好の印だから!」
友好の印かー! なら欲しいなー!
「これ持って待ってて!」
ガチ日本刀持たせないでほしいな。
有無を言わさず押し付けられ、栗見さんはコンビニへと走って行ってしまった。
うわぁ、僕、ガチでガチ日本刀持っちゃってるよ。
色んな意味でずっしり重い。確かに凄いドキドキする。
「ってか、カッコ良すぎでしょ……」
思わず溜め息が溢れてしまった。
刀身はもっとカッコいいんだろうなー。抜刀してぇ〜。抜刀してぇよぉ〜。栗見さんもこの誘惑に耐えていたのだろうか。
やば、柄を握るとさらにドキドキしてくる。ちょっとくらいなら抜刀してもいいよね……?
いざ引き抜こうとしたその時。
「お待たせー!」
早っ。もう戻ってきた。
慌てて柄から手を離す。だけどドキドキが止まらない。
「傘あったよー」
軽やかな足取りでこちらに向かってくる栗見さん。ビニール傘を片手に満面の笑みで。
その姿はとっても可憐で。雨の中でも輝いて見えて。心臓の高鳴りが止まらない。ガチ日本刀を持つ手が震えてしまう。
……あ、そうか。
僕、栗見さんのことが好きなんだ。
「どうかした? 顔赤いよ?」
「う、ううん。なんでもない」
この張り裂けそうな胸の高鳴り。間違いない。僕は、栗見さんに恋をしたんだ。
そう自覚した途端。急に恥ずかしくなって、彼女の顔を真っ直ぐ見られなくなる。
「はい傘!」
「あ、ありがとう」
栗見さんからのプレゼント。家宝にしよう。
ふと持ち手を見ると、『七百円』の文字が。やっぱり地味に高い……。
申し訳なく思えてきた。お返しと言っては足りないけど、ジュースでも買ってあげたいな。
「僕もコンビニ行ってくる! ちょっと持ってて!」
「えー! ガチ日本刀持ちたくなーい!」
僕だって持ちたくないよ。
ぷくぅ、と頬を膨らむ栗見さん。なんて可愛いんだ。
少し心苦しさを感じながらもコンビニへ。
店内に入るなり、レジにいる店員達の会話が聞こえてくる。
「さっきの女子高生、めっちゃ可愛かったな」
「わかる」
わかる。
「綺麗な黒髪で、ポニテもめっちゃ似合ってたな」
「わかる」
わかる。
「胸もちょうど良いサイズだったな」
「わかる」
わか……見るな。栗見さんを性的な目で見るな。
「でもさ」
「うん」
「あの子、お会計してなくない?」
え。
「やっぱそうだよなぁ? ナチュラルに傘持って出て行ったよなぁ? 新手の万引き?」
「通報した方がいいよな?」
え。
栗見さんが万引きする訳ないよね? 焦って忘れちゃっただけだよね?
「ちょい通報してくるわー」
レジの奥へ引っ込んで行こうとする店員。慌てて財布を取り出し、カウンターに駆け寄る。
「あ、あの!」
「うわ、なんすか」
「あの子、僕の連れで! 僕が払いますんで!」
「え? そーなんすか? 連れなんすか? チッ」
今舌打ちした?
「んじゃ傘代、千円になりまーす」
ぼったくるなよ。でも栗見さんのために払っちゃう。
「あざーしたー」
ともかく通報は回避できたようで一安心。そうして会計を終え、レジから離れようとしたその時。
コンビニの自動ドアが開かれ、慌ただしい声が聞こえてくる。
「ごごご、ごめんなさぁ〜い! わたし、お金払うの忘れちゃってて〜〜!!」
「ガチ日本刀持ってコンビニ入って来ちゃダメだよ栗見さん! しかもなんで抜刀してるの!?」
===
本日の罪状:強盗未遂罪(5年以上の有期懲役)
判決:ちゃんとお金払ったのでセーフ(アウト)
ギリ犯罪だよ栗見さん 鍋豚 @nbymnbt
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