ギリ犯罪だよ栗見さん

鍋豚

前科1 栗見さんと銃刀法違反


 放課後。雨。

 傘を忘れた僕は、昇降口にて肩を落としていた。


 止む気配の無い大雨。

 灰色の曇天を見るともなく眺めていると、背後から弾むように明るい声が聞こえてくる。


「あれー? 布里須ふりすくんじゃん!」


 振り返ると、そこには太陽のように眩しい笑顔が。


「あ、栗見さん」


 栗見くりみなるさん。

 とっても美人で、スタイルも良くて。それでいて誰にでも優しい、元気溌剌なクラスの人気者だ。

 僕の名前も覚えていてくれたんだ。ほとんど話したこと無いのに。


「布里須くん、傘忘れたの?」

「あー、うん」

「じゃ、わたしの貸してあげるよ!」


 可憐な笑顔と共に、水色の折り畳み傘が差し出される。


「え、栗見さんはどうするの?」

「わたし、置き傘あるから!」


 下駄箱の横に置かれている傘立て。その中に鎮座する一本を、栗見さんは自信満々に指し示す。指の先にあったのは、日本刀のデザインの大きな傘だった。


「その傘、栗見さんのだったんだ。ずっと置いてあったから気になってたんだよ。本物の日本刀っぽくてカッコ良いよね」

「へへ、お父さんから借りてるやつだけどねー」


 お父さんのやつ置き傘にしちゃ可哀想だよ。


「これ大人の男の人用だから、開く時の迫力が凄いんだー」

「あ、分かる。傘開く時のバサァ!って音、良いよね」

「お、気が合うねぇ〜」


 栗見さんと気が合った。些細な事なのに、それだけで何だか嬉しい気持ちになる。


「じゃあ、傘開くよー?」

「わくわく」

「えいやっ!」


 ジャキン!


「……じゃきん? なんの音?」


 金属を擦るような音がした。


 音と同時。栗見さんは目にも留まらぬ速さで動き、後ろ手に傘を隠してしまう。

 顔は青ざめていて、汗はダラダラ。視線を泳がせ、気まずそうな苦笑いを浮かべていた。


「布里須くん……」

「なに?」

「……これ、ガチ日本刀だった」


 ガチ日本刀!?


===


本日の罪状:銃刀法違反(20万円以下の罰金)

判決:模造刀だったのでセーフ(アウト)

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