第19話 歌う大人なアイドルは、お勉強。「歌わさせていただきます!」 みたいなのを、「さ入れ言葉」っていいます。何が、さ入れか、わかりますか?

 「…ちょっと、時代を、変えよう」

 「そういう作戦?」

 「意外性、狙い?」

 「ウタダとかアユは、古い。かえって、良いアピールになるかもよ?」

 おお。

 もう、ウタダもアユも、古いっていうことになっちゃうのか。

 「レイカ、いける?」

 「うん。お母…うちの母親が、キッチンとかで、何度も歌ってたし」

 「そうなんだ」

 「良いね」

 「世代なんだよ」

 「そっか」

 「なるほど」

 「…アユ歌いながら、鮎を焼いていたときには、笑えたけれど」

 「…それ」

 「ま?」

 「ウソです」

 「きた」

 「レイカ、言うねえ」

 「レイカは、動画配信で、聞いてたの?」

 「そ、そ」

 このとき、レイカのこの一言で、ちょっとした勉強。

 「私、歌わさせていただきます!」

 この、言い方って…。

 こういう、歌わさせていただきますのような言い方を、「さ入れ言葉」っていう。正しくは、こうだものね。

 「歌わせていただきます」

 さ、いらない。

 させていただくの言い方は、フツーに、広まってきた。

 こんな言い方をする人も、出てきた。

 「受賞させていただきます」

 ちょ…。

 「させていただく」の言い方は、丁寧に、聞こえる。これが、広まった理由?

 丁寧に、自分たちをガードして、他人とはちょっと距離を置こうっていうスタイルの言い方なんだろうね。

 「一見して、軽くて、丁寧。でも、私。ガードが固いんですよ!」

 でもね。

 いや、だからこそ、こんな感じでも思われるんだけど。

 「させていただく?この人って…何様?」

 「お高い人?」

 「意識、高い系?」

 「なんか、高ビー」

 「遠いなあ…」

 たとえば、友達に、菓子を焼いて持っていってあげたとする。

 「菓子、焼いてきた。どう?」

 すると、友達に、こう言われたとしよう。

 「ありがと。じゃあ、食べさせていただきます」

 …どう?

 「あなたって、お高い系?」

 みたいに、思いません?






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