ナミダ

 気づいたぼくは食堂?で目を覚ました。ぼくは横になっている。胡乱な意識で周りを見やる。フィッツジェラルドと呼ばれる男と、イヴと呼ばれる少女。そして、多くの人間が目に映る。


well, well, weeeellこれはこれはこれは……Good morningおはよう、職員諸君、いつもと変わらぬ職務ご苦労。無事に明日のモーニングも食べたければ真面目に仕事をすることだな」


 ごつい銃を片手にゴーグルをクイッとを上げるフィッツジェラルド。食事をしている職員はくすくすと笑い声をあげる。


「いちいち意味わかんない格好つけてるんじゃないわよ。ミスター・フィッツジェラルド?だいたいあんた、もともと純粋な日本人じゃないの。なに無理にウィットに富ませようとしてんの」

イヴがフィッツジェラルドに突っかかる。


「Huh……うっさいんじゃボケ。第二の人生くらい好きなようにやらせてんか」


「っちゅうか、イヴ?それ言うたらお前も元は韓国人のおっさんやんけ」


「やめなさい。それ以上言うと殺すわよ」


「だいたいなんでそんなに髪伸ばしてるのよ。邪魔じゃないの」


「なんでや。かっこええやろがい。長身の顔面端正なイケメンやぞ。長髪合うやろ。かっこええやろ」


「俺らもお前と同じや。なんや、お前は普通の人の形と違うし言葉もしゃべられへんし。大変やろうけどな」

 フィッツジェラルドがこちらに駆け寄り語り掛ける。


「あなたはね。一度死んでるのよ」

 続けてイヴが僕に語り掛ける。

「ここは死んだ体の魂を掬い上げる施設。ウケザラ。あなたはそこで転生したの。」


「Guh……」

 僕は頭を抱え、声をあげる。


「いうても、お前見た目強そうやし、なんやかっこええで。俺が名前つけたろか?」


「ねぇ、あなた。あいつに名前つけさせるのはやめときなさい。あたしがつけてあげるわ」


「──マッスルナックル、とかどうや!?」

「――ナミダ、とかどう?」

二人が同時に言葉を発する。


 ここでふいに元?の自分のことを断片的に思い出す

――名前は四十万十兵衛しじまじゅうべえ

コンビニ業務が得意なフリーター……


 ……んー……他の選択肢はないのかな。

 これって言ってみれば転生ってやつだよね。

 ぼくは何か選べないのかな?

 ねえ神様、ぼくに言葉をください。


 しかし、僕は気づいた。

 字は書けるということに。

 爪で床に字を書いた。


I need time時間をくれ


 ジェラルドとイヴが顔を見合わせて安心した様子を見せ、笑う。

「はははは!!!すまんすまん!そうやろな!そうやろ!」

「あはは!!そうよね!クソみたいな名前を付けられるのは嫌よね!」


「あなたが知性を持っていると分かった以上、それ相応の対応をしなければならないわ。見ている限り、衝動的暴力性は備えていない。文字も書ける……」


「まあ、最低限の社会性を備えて顕現したようやな新人。ファーストステップはクリアしたがこれからが大変やで」


 死ぬほど面倒くさいけど何かやるしかないんだろう。Grrrrと唸っていると声をかけられた。


「どうぞこちらへ」

 笑顔を浮かべた白衣の女性に声をかけられる。


 分厚い紙の束を携えていたので、きっと本当に面倒なことがあるんだろうという直感がよぎる。ぼくがこくりとうなずくと白衣の女性は笑みを浮かべ通路に手をやる。


──名前とか何とかも大事だけどさ……早く鏡を見たいなあ……

そう思いながらついて白衣の女性についていった。

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ウケザラ施設67号 マツムシ サトシ @madSupporter

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