第4面 老人の場合

 一人の老人が、夏の鮮やかな夕焼けを見て佇んでいた。年老いたその体はもうあまり自由が効かないようであった。老人は夕焼けの中で自分の人生に思いを馳せる。

 ある日自分が存在してから、母を創り子を創ってきた。成功する度に次は何を創るのかと、そればかりを考えてきた。老人は夕焼けから部屋の床に散らばったパズルに目を向ける。指はもう昔のようには動かない。最後のパズルを完成させたくても、もうできないのではないかと感じていた。

 今まで、タイムリミットを前にしても成功させてきたが、それももう終わりかと老人は考えた。とあるピースの色を変えたい気持ちもあるがそれもやる気になれない。

「……眠ろうか」

 老人は眠気にもう勝てなかった。これまでに感じたことのない眠気だった。床に横になった老人の瞳に映るのは、パズル、パズル、パズル。自分は一体何を創るのだったかさえ、老人はもう思い出せずにいた。

 目を閉じる時、老人の脳裏に不思議と何かが浮かんできた。それは誰かに酷く裏切られどこかに逃げ込んだ、古い老人の記憶であった。誰かと祈り、誰かがその祈りを受け入れていた記憶。そして自分が新しくなった、遥か昔の記憶だった。

 老人には時々考えていたことがあった。何故こんなにも、脆い世界に自分はいるのだろうか、と。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る