第三面 男の場合
「これは、失敗作だよ、きみ」
男はある少年の母親を踏みつけて言った。
「どうしてですか、とても良い母親です」
少年は散らばった母親をかき集めながら男に問いかけた。男は鋭い視線を少年に向ける。
「これは君の思想に寄りすぎているね。美人で、何事も許す母親。母親とは優しいだけか? しっかり時間軸での母親の役割を考えたか? 基本は知っているだろう」
少年は怯えた目を男に向けた。
「確かに、基本の本を読みました。でも、僕にはこの母を壊すことができなかったのです。僕が幸せならそれでいいとはいえませんか?」
何を言うか、と男は怒鳴った。そして悲しんだ。
「君が幸せを感じる母親など、一時の幻想。母親の心は崩れ、いずれ君に不満をもつようになり、君は大好きな母からひどい仕打ちをうけるようになるだろう。母とはそういうものなのだから」
どこかぼんやりとした、同じ記憶がこの二人にはあった。それは誰かの、辛くも幸せな記憶だった。
「君が母親を創るように」
男は少年の頭を撫で、微笑んだ。
「私たち成功者も、君を創らねばならんのだ」
少年はこの言葉に、自分の時間が来たことを理解した。
「タイムリミットですか」
そう言うと同時に、少年の頭はバラバラに弾け飛んだ。
「母親には成功したというのに……子供は難しい」
男は少年だったピースを拾い集めると、静かにその場を去っていった。
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