第6話 諍い
それから俺は朝食を食べ、宿屋を飛び出してFランクダンジョン『春の草原』に向かっていた。
日が昇って各々外出し始める人も多いため、大通りはガヤガヤと大勢の人で賑わっていた。
道端には、行商人が各地地方を練り歩いて仕入れたであろう地方の特産品の露店を開いていたり、焼き鳥や川魚の串焼きなどを売っている屋台などが並んでいた。
「おじさん、これいくら?」
気づけば、俺は焼き魚の匂いに誘われて屋台の店主に話しかけた。
「らっしゃい!兄ちゃん、銅貨2枚だぜ!』
安いな、でも無駄遣いは出来ないが……
さっき食べたばかりだが、腹の虫がひどく騒いで目の前の串焼きを欲している。
「一本買うよ」
「おう!ありがとな、兄ちゃん!」
皮袋から銅貨2枚を取り出して店主に渡すと、焼きたての串焼きを受け取った。
「まいどあり!」
その声を背に早速焼き魚に齧り付くと、鼻腔を貫く芳ばしい香りで目を見開いた。脂がたっぷりとのった白いホクホクの身が絶妙な塩加減のおかげで非常に美味しい。
川魚特有の泥臭さも微塵も感じられずどんどん齧り付いていきあっという間に食べ終えてしまった。
「美味かった……次も買おう」
夢中になって食べてたせいか、いつのまにかダンジョン前の広場についていた。都市内で数少ない低難易度ダンジョンなので、広場内は駆け出しの冒険者で溢れていた。
広場への入り口の近くには冒険者ギルド直営の雑貨屋があり、そこで『治癒魔法薬』、いわゆる治癒ポーションと呼ばれる魔法薬やマナポーション、魔道具を購入する者で溢れていた。
魔道具とは、具体的に言うと『転移石』と『魔光灯』などといった、魔力を流すことで有用な効果をもたらすものだ。ダンジョン攻略の上で必須というべきと言えるほど、それらは役に立つ。
ーーただ高価なので、ある意味それが欠点だったりする。
金を貯めたら何かしら買っておくか…
俺はそう思案しながら、辺りに目を向ける。
広場の隅には、臨時パーティのメンバー募集のために声を上げている姿が大勢見られた。
「前衛なら誰でもいいからいないか!?」
「魔法使いを募集中だ!」
「腕のいい盗賊を探している!」
十人十色な冒険者がそれぞれ有能な人材を求めて鋭い目で互いを牽制しつつ周囲に目を巡らせている。
ーー俺がそこを素通りしようとしたところ……
「おいおい!弱虫のディランじゃねぇか!」
背後からの声に顔だけ振り返ると、そこにいたのはDランクパーティ「獅子の牙」の面々だった。リーダーのドンクを筆頭にニヤニヤと嘲笑を浮かべ、醜悪な眼差しを向けてくる。
「スライムすらも倒せない雑魚がまだ冒険者やってんのかぁ?いい加減諦めてママの乳でも吸って寝てろよ、無能くん!」
コイツらは冒険者登録をしてパーティを結成した時に受けることができる講習で、ケビンの手解きを受けていた。俺もその時居合わせたのだが、それからというもの、すっかりケビンの腰巾着と化して事あるごとに散々痛めつけてくれたのだ。
「…………」
俺は内心の憤りを抑えながら顔を戻すとコイツらを素通りした。無視された奴らは最初はポカンとしていたが、すぐにカッと顔が赤くなり怒号を上げてきた。
「おい!待てや、コラァ!」
ドンクが追いかけてきてガッと俺の手を掴んできた。俺はそれで漸く立ち止まって声を上げた。
「何か用か?」
嘲りの笑みを浮かべて返すと、奴らはバカにされていると気づいた途端に罵声を浴びせてきた。
「てめぇ、舐めてんのか!」
俺の手を掴んできたやつが捻り上げようとしてきたが、びくともしなかった。俺はそれを思いっきり振り解いたら、奴は面白いほどに間抜けに転がっていった。
「……クソ、調子に乗ってんじゃねぇぞ!おい、てめえら、やっちまえ!」
「「おう!!!」」
不利を悟ったドンクはパーティメンバー全員に号令を出して一気に畳み掛けてきた。
「ウラァァァ!」
「よっと」
最初に剣士の男が素手で右のストレートを俺の頬を目がけて叩き込んできたが、それを受け止めその勢いを利用して思い切り投げ飛ばして地面に叩きつけた。
「ぐはぁ!?」
「次は俺だぁ!!」
間髪入れずにその身の丈に合わない素早い動きで、重戦士の男が下から組み付きにきた。
「おらぁ、捕まえたぞ!!」
男はその筋骨隆々の巨体を生かして俺を持ち上げ、地面に叩きつけた。
「オラァァァ!」
背中から地面に強烈に叩きつけられてしまった。鈍痛を背中に感じる。
「どうだ!思い知ったか、無能!」
男は地面に転がった俺を見て、勝ち誇ったようにそう言った。
ーーだが、男の顔色はすぐに変わった。俺が何事も無かったかのように立ち上がったのだから。
「な、何故立てる!?」
「……その程度か?」
俺は男に獰猛な笑みを浮かべた。
……確かにさっきの一撃は効いた。しかし、称号によって底上げされたステータスによって、その威力は軽減された。
数日前の俺だったら、最初のドンクの締め上げで関節を外されていただろう。だが、今の俺は力の種によってパワーを上げ、レベルアップと称号のおかげて防御力も上がっている。
俺はこれまでのやり取りで自身の成長を感じた。
「くそったれ!おいてめぇら!武器を抜け!」
ドンクが苛立ちを隠しもしないで叫び、あろうことか奴らは武器を抜いて獲物を俺に向けた。
ドンクは恨みがましい目で俺を睨みつけてきた。
「ぶっ潰してやる……」
奴がボソボソ呟いたのを俺は聞き逃さなかった。奴らは本気で俺に武器を振るうつもりのようだ。
「無能風情が思い上がるな!」
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