第5話 スキル習得
今日も宿の裏手にあるやや広めの空間で鍛錬をしていた。流石に本格的な模擬戦を行えるほどの広さはないが、素振りくらいはできる。
「ハァッ!」
1年間毎日500回ナイフを振る鍛錬をしていた。その当時ケビンのパーティに入ったばかりで戦闘を強いられ、いつもボロボロだった。だから、少しずつでもいいから強くなりたかった。
俺はスキルを会得するためにナイフを獲物に鍛錬していた。
ナイフに限らず、剣や槍といったものを振って突いたりして鍛錬をしていけば、いつか『
『天恵』はある条件を満たせば天の声がアナウンスと共に必ずスキルを習得でき、数多の『天恵』が存在するがその多くの習得条件は解明されていない。強力なスキルほど習得条件はより厳しいものになっていく。
また、ダンジョンからごく稀にドロップする『スクロール』を使えばスキルを手に入れられるが、とても高価な代物で俺の稼ぎでは到底買えない。
『スクロール』は不思議な紋様と難解な術式で描かれた魔法紙で、一定確率でスキルを得ることができる。人工的に製作できるように数々の研究者や魔導師が試みてきたが、非常に困難であり人工スクロールの数は少ない。
しかし、『天恵』で戦闘系武術スキルを手に入れられたら何倍も強くなれるだろう。この先、冒険者ランクを上げていくにはどうしても戦闘スキルは必要不可欠だ。
いつかスキルを手に入れられると信じて俺はこの習慣を続けていた。
「495、496、497!」
ーー気づけば、かつてないほど集中してナイフを振るうことができて、周囲に光の粒子が満ちていく。身体が何者かに操られてるかのように、身体が勝手に動いて段々とナイフの振る速度が上がっていく。
「498、499!」
その時、ナイフに大量の光子が取り巻き、身体の奥底から力が湧き出てくる。
「500!」
一瞬の溜めの後、一気に加速して空間を薙いだ斬撃は空気を切り裂きながら数メートラルほど飛んで消えた。
今のは……『剣技』……
《ディラン・ヘンストリッジが《剣術:LV1》を習得しました》
《ディラン・ヘンストリッジが称号 《見習い剣士》を取得しました》
《ディラン・ヘンストリッジが《初級剣技》《ウェーブスラッシュ》《ヴァードガント》を習得しました》
一気に頭に雪崩れ込んでくる情報。
天の声がアナウンスした瞬間、自身の体を温かい光が包み込んだ。
これが『天恵』……
さっきとは比べ物にならないほど、ナイフが羽のように軽く感じられた。
「これは凄いな……」
俺は感嘆で胸がいっぱいで思わずそう呟く。
試しに振ってみるとさっきよりも数段早いスピードで振ることができる。十回程素振りをしてその効果を実感できた俺は、『剣技』の確認をしたくなった。
恐らくさっき発動した斬撃を飛ばす『剣技』は《ウェーブスラッシュ》だろう。接近戦を強いられる、ましてやナイフが獲物である現状において、中距離攻撃できるその技は有用であることは間違いないだろう。
なので、まだどういった『剣技』なのか分からない《ヴァードガント》を試してみたくなった。名前からは想像できないので、どういった技なのかワクワクしてくる。
構えて心の中で《ヴァードガント》の起動を意識する。
集中すればするほどナイフに光子が集まっていき自然と力が湧いてくる。感覚が研ぎ澄まされていき、その一撃は放たれた。
「ヴァードガント!」
俺の体は自然とナイフを振り上げて風を切る音を発しながら上段から斬り下ろした。その斬撃は光の尾を描きながら地面に少しばかりの損傷を与えた。
「ふぅ……」
俺は構えを解いて疲労からドサっと座り込み思いを馳せた。
一年近く燦々と降り注ぐ雨の日も、体に猛烈に雪が吹き付ける冬の日も欠かさず毎日続けて、やっと今日それが実った。
ついに俺も戦闘系スキルを手に入れることができた。自然とナイフを握る力が歓喜でギュッと強くなった。
そういえば、後一つ天の声がアナウンスしたものがあったな。
そう思い立って俺はステータスボードを確認した。
「ステータス・オープン!」
ーーーーーーーーーー
ディラン・ヘンストリッジ
17歳 男
LV:2
HP:25/25(+10)
MP:10/12
筋力:31(+10)
忍耐:25(+5)
魔力:0
知力:33
敏捷:23(+6)
運:6
スキル:《栽培》
《剣術Lv:1》
称号:《見習い剣士》
SP:5
ーーーーーー
《栽培》
高速成長:LV1
《剣術》
初級剣技:ウェーブスラッシュLv:1
ヴァードガントLv:1
ーーーーーーーーーーー
ステータスボードを眺めていると《称号》と言うものが追加されていた。
どういったものなのか良く分からなかったが、ステータスの横にに(+)があるのに気づいた。
「これ、なんなんだ?」
昨日の夜、こんな物は無かった筈だ。だから、今日の朝に変化が起きたのだろう。
ステータスを強化するというスキルを聞いたことはあるが、《剣術》はそういった効果はない筈だ。
ーーつまりは。
「称号によるもの……か」
俺はそう結論づけた。
称号は本来多大な功績を残したものに天の声が贈るものだ。
何故、俺が称号を得ることができたんだ……?
しばらくの間考えていたが埒があかないと思い、思考の海から抜け出した。
「……まぁ、冒険者として活動していけば分かるかもな」
俺はそう結論づけステータスボードを消した。
少しばかりの休憩を終えて起き上がると、近くにある建物裏の井戸へ向かった。上の方を見ると煙突から煙が出ていた。
エマが朝食の準備をしているみたいだ。
本当に早起きだなっと思いながら、井戸にバケツを放り込んだ。
彼女は宿屋を営む両親のロビンソン夫妻よりも早く起きて、早朝から宿泊している客に振る舞う朝食を作っている。風に乗って美味しそうな匂いが鼻腔を刺激してきて、空腹感をより意識してしまう。
俺は井戸から水を汲み上げ手で掬って、長い鍛錬で汗を流したおかげで感じる喉の渇きを潤した。
顔を洗いさぁ部屋に戻ろうと振り向いた時ーーー。
「おはよう、ディラン」
「うおっ!?」
エマがタオルを持って後ろに立っていた。
「そんな驚かなくてもいいじゃない、はいタオル」
「うっ、ごめん」
不服そうに呟きながら彼女はタオルを手渡してきた。しばらく俺はボーッとしていたが、顔が濡れているのを思い出してタオルに顔を沈ませた。柔らかい触り心地のいいタオルで顔を拭き終わると、タオルをエマに返した。
「ありがとな、エマ!」
俺はエマに笑いかけると、何故かエマは顔を赤くして顔を逸らす。
「そ、そう。どういたしまして……」
エマがボソボソと呟くので、疑問符を浮かべて彼女の額に手を当てる。
「大丈夫か?風邪でもひいた?」
「い、いいえ!大丈夫よ!」
真っ赤になったエマがやけに大きな声で否定してくるため、渋々納得した。
「今日はどうするの?」
「ああ、ダンジョンに行くよ」
「そう、ならいっぱい朝ご飯食べてね」
エマはにっこり笑ってそう言うと、裏口から中に戻っていった。
1人残された俺は依頼の事について思い返した。
現在、『春の草原』は『
しかし、俺は自身の頬を叩いて気合を入れた。
「俺は強くなる!これからずっとだ」
その時、ナイフの柄が光ったような気がした。
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