幕間 悪夢

4話における夢パートです。



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 またあの日の夢だ。

 俺はずっとこの悪夢に取り憑かれている。

 胸が張り裂けそうなほど忌まわしい。

 あんなことが起きさえしなければ……


ーーーー


 薄暗い巨大な地下空間をほのかに光る沢山のクリスタルが照らし、下には湖が広がっている。奥には巨大な紫色の石が浮かんでいて浮世離れた幻想的な光景だった。


 そんな場所に似つかわしくない激しい剣戟音が響き渡っていた。


 「ハァァァァァァ!!ヴァードスプリガ!!!」


 3人の子供を背に長身の男が黒い影と戦っていた。フェイントを混じえながら次々と連撃を放ったが、黒い影は素早い動きで撹乱してきて攻撃が当たらない。


 『……フン、その程度か……拍子抜けだな』


 奴は男の連撃を躱しきると同時に、サーベルを男の肩に突き刺した。

 

 「くっ!?抜かせ!」


 男は苦痛の声を上げながらも振り払うと、牽制の意味を込めて横薙ぎに切りつけ、続け様に足払いをかけた。


 しかし、奴はバランスを崩したかのように思われたが、奴は空中で体勢を整え人並外れた力で男の顔を蹴りつけた。


 「ぐはぁ……!!」


 鼻が折れる嫌な音と共に男の体は一瞬で吹っ飛び、男はなんとか受け身をとって体勢を整えた。が、奴は間髪入れずに上から上段の斬撃を降らしてきた。


 「危ねぇな!!」


 男はそれをスレスレで躱すと同時に。


 「ソルナブレイド!」


 長剣に眩い青白い光を纏わせ地面ごと奴を切り付けた。


 『……グゥゥゥ』


 男の渾身の一撃は奴を白光の斬撃の中に包み込みこの薄暗い地下空間を白に染めた。


 「はぁはぁ……やったか?」


 男は土埃が舞う中、一片の油断もしないよう周囲を警戒した。途方もない時間がたったかのように思うほど、張り詰めた精神の中土埃が散るのを待った。


 恐らくだが、2分ほど経ったときやっと土煙が晴れた。奴の姿はどこにも無かった。


 「どこに……行った?」


 男は周囲を余すことなく見渡した。だが、男は一瞬の瞬きの後、耳元に奴の囁き声が聞こえた。


 『……良い一撃だった……だが、これではまだ届かない」


 「ッ!?」


 異常。男は《気配察知》スキルを使っていたのにも関わらず、奴はそれを掻い潜って男の背後に立っていた。


 「らぁぁ!!」


 男は振り向きざまに剣を振るったが、奴は超人的なスピードで躱し後ろへ下がった。


 男はそろそろ限界だった。MPを9割ほど消費し長時間の戦闘で男の身体は血を流しすぎて疲弊し切ってしまっていた。


 『……もう限界なのではないか?そろそろ退いては貰えないか?』


 「黙れ!俺の命に変えてもコイツらは俺が守る!」


 『……無理だな……お前が弱いからその子たちは助けられない』


 憎悪と蔑み、愉悦の籠った声が男の耳を貫く。

 途端に黒い影から悍ましいオーラが放たれた。猛烈な勢いで男目掛けて飛んできて瞬く間に包み込んでしまった。男の心の中心に黒い何かが入り込んできて、心を食い荒らしていく。


 「あれ……?なぜ動かない……」


 男は困惑を隠せない声色で呟き、体を動かそうとした。


 『……お前はもう終わりだ……ここで死ぬ』


 黒い影は男に冷酷に告げた。


 「動け動け動け!」


 男は焦りを顕にして悲痛な叫びをあげ始めた。


 『……ふむ……期待外れだったようだな……お前ならこの技にも耐えられると思ったのだが』


 「クソ!動け、動け、動けよぉ!!」


 奴はもがく男の元にやってくると男を抱きしめ耳元で囁いた。


 『……未熟なお前には何もできない……誰も助けられない』


 肉を切り裂く音。血が噴き出る音が響き渡った。


 ゴトッと何かが落ちる音が響き、俺はそれを見てしまった。


 ーーそれは、男の生首だった。虚な瞳で俺を見つめていて、何かを呟いていた。


 「「「***兄!」」」


 子供たちの悲痛な叫びが轟いた。


 ーー途端に、心拍数が上がっていく。ドクドクッと痛いほど心臓が脈打ち視界がぼやけていき、身体が硬直して地面に倒れてしまった。


 「…………」


 いつの間にか俺のそばに奴が立っていた。


 『……次はお前の番だ』


 奴は俺の眉間に指を突きつけ哀しみと歓喜の声でそう呟いた。


ーーーーーーーーーーーー


 「うわァァァ!!」


 俺は大声を上げながら跳ね起きてしまった。身体は冷や汗で濡れており心臓が激しく脈打っていた。


 「クソッ……」


 俺はテーブルの上にある水差しから水をコップに注ぎ、一気にそれを飲み干した。その一杯では足りず、更に2杯3杯と続け様に飲み干して4杯目でようやっと衝動が治まった。


 俺はベッドにドッと座り込み、頭を抱えた。

 未だに見たくも無い、聞きたくも無いあの夢を見てしまう。


 そして、毎回見るたびに俺の心は摩耗していく。あの出来事は俺に深刻なトラウマとして心に深い傷跡を残した。


 まさに、あの夢は俺にとって正真正銘にして最悪の悪夢だ。


 俺の脳裏に奴の顔を思い浮かぶ。

 憎くて憎くて仕方ない、あいつの顔を。


 「……いつか、お前を見つけ出して仇を取る!」


 俺は行き場のないドロドロとした怨念にも近い復讐心を燃やした。



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