第7話 激闘
都市郊外とはいえ、街中にも関わらず似つかわしくない熾烈な戦闘が繰り広げていた。俺たちの周りにはガヤガヤと観衆が集まっていた。
「死んどけぇぇぇ!!」
剣士の男、サイモンが光の尾を描く上段からの斬撃ーー《ヴァードガント》を繰り出してきた。
容赦なく振り下ろされたそれは、空気を切り刻みながら俺の額めがけて降ってくる。
「ハァァ!」
俺はナイフを抜き放ってそれに応じるように思いっきり力を込めて受け止めた。辺りに耳をつん裂くような金属音が響き渡り、鍔迫り合いをしているナイフから嫌な音が溢れる。
「ぐ、ぐぐ……クソ!なんて力してやがる…!」
サイモンは苦虫を噛み締めたような顔で呟く。
俺は更に力を込めていき、それを打ち払った。ステータス値頼りの力技。サイモンにとってそれは予想外だった。
「うぉ!?」
「ハッッ!!」
剣を上に打ち払われ腹を曝け出したサイモンの脇腹に向かって渾身の回し蹴りを打ち込んだ。
「ぐはぁッッ!?」
サイモンは苦悶の声を上げながら地面を転がり悶えている。当分起き上がっては来られないだろう。
「ーー隙ありだ!」
突如背後から声が聞こえたと同時に、俺は前方へ身を投げ出した。
「やれやれ、後ろからは卑怯じゃないか?」
俺は立ち上がって悔しげな表情の重戦士、イアンに向かって軽口を聞く。
「ふん、戦いに卑怯もクソも無いだろう」
イアンは自身の獲物である右手に大楯を前に構えて、左手に剣を横に添える。
「確かにそれは言えてるな」
俺はナイフを後ろ手に構え相手をジッと見据える。
数秒後、俺は足に全力を込めて地面を蹴り飛び出した。
「クッ!?早い!」
一気に奴の懐へ潜りナイフを奴の膝の関節目掛けて突き出そうとした時ーー。
「そうはさせない!」
奴がかなりの重さがあろう盾を間に挟み込み防いだ。俺が衝撃でよろめいたところをすかさず剣を左下から切り上げた。
「チッ!」
俺は身体を逸らして軌道から外すと同時にバックステップで奴から距離を取った。
コイツは硬いな……どうすれば……
「じゃあ、今度はこっちから行くぞ!」
イアンがそう叫び、その見た目からは想像できないほどの速さで猛進してきた。大楯を構えて突っ込んでくる様はまるでオーガが猛スピードで走ってくるかのような迫力がある。
どうする……奴には生半可な攻撃は効かない。あの大楯で防がられてしまう。
その時、俺は奴の死角に気づいた。盾の右上から飛び出た棘の形状から奴の左の視界は塞がれているのだ。
ーーそうだ!これであれば、もしかしたら……
思い浮かんできた案を試そうと判断した後、瞬時にある構えをとる。剣に眩い光が包み込んでいく。
そして、右に思いっきり跳んで奴の足元目掛けて横なぎに振り抜いた。
「ウェーブスラッシュ!!」
風の斬撃は強烈な風鳴り音を響かせながら、急速に接近して奴の足元で着弾した。
「グォォッッ!?」
奴は足元からの衝撃に虚をつかれた声を上げ、その衝撃は奴の巨体を空中へと跳び上がらせた。
「ハァァッッ!!」
俺は奴に飛び上がって剣先に光を集わせる。剣先から溢れた光は尾を描く。
「ヴァードガント!!」
俺は奴の首元に斬るのではなく叩きつけ、鎧の上から衝撃を伝わらせた。
「ぐ……ガ……」
奴は呻き声を上げながら地面に落ち、身動き一つすらしなかった。
「ーークソが!!使えない奴らめ!」
俺はその声に振り向き、顔中に血管を浮き上がらせたドンクへ声をかけた。奴は、格下だと思っていた俺にパーティメンバーがコテンパンにのされ、身の丈に合わない自尊心を傷つけられたのだろう。
「それで?お前は来ないのか?」
「黙れ!どいつもコイツもクソッタレだ!!」
奴は頭を掻きむしって狂ったように怒号を上げる。
そうしていると、突然奴はギロッと血走った目を俺に向けた。
「……てめぇは調子に乗りすぎた……絶対に殺す!楽には死なさねぇ!!」
奴は俺に怒気を孕んだ殺気を突きつけてきた。
ーーと、同時に。
「うらぁぁ!」
ドンクが猛烈な勢いで俺に接近してきて、自身の獲物であるサーベルを思いっきり俺の喉元目掛けて突き出してきた。
「お前本気か?こんなことしたらただじゃすまないぞ」
それを身を翻して躱しながら俺は奴に問いかけた。
冒険者ギルドは基本的には冒険者同士の争いには介入しない。殆どの場合は殴り合いの喧嘩で済むため冒険者ギルドも静観してるといった感じだ。
しかし、武器を抜き放って相手にそれを振るう、となれば話は変わってくる。殺し合い、ましてや雑踏の中それが起きたら冒険者ギルドの威信に関わる。
そのため、冒険者ギルドは街の至る所に監視の目を張り巡らせている。
そう、まさにこのダンジョン広場においても。
奴もそれは知っているはずだ。
ーーだが……
「ーーそんなこと知ったことか!ギルドがどうこう言おうが関係ねぇ!」
奴は狂ったように叫ぶと、再び攻勢に出て突きの連撃を繰り出してきた。
「食らえぇ!ヴァードトライストライク!!」
喉元、詳しくは喉仏を最初に狙い、次に左の胸の心臓を狙い最後に鳩尾を正確無比に突く3連撃技、中級剣技 《ヴァードトライストライク》を放ってきた。
奴は腐ってもDランクパーティを率いる冒険者。
冒険者の登竜門とも呼ばれるDランクにもほど近い実力を持っていた。そんな奴の技は研ぎ澄まされており、俺に容赦なく襲いかかってくる。
「ッッ!?」
いきなりの大技に俺は少しばかり反応が遅れてしまった。
なんとか最初の突きをナイフを咄嗟に抜き放って受け流そうとするが、体制を崩し重い一撃が頬の表皮を掠めていく。
体制を整える前に、続け様に鋭い雷鳴のような突きが降ってきた。
ーーその時、俺は死を前にして辺りの時間の流れが遅くなったかのような錯覚に襲われた。
奴の攻撃は徐々に俺の胸へと動いている。
そんな中、俺は思考した。
クソ……避けるのは無理だ……ナイフで受け止めるのもダメだ、隙が生まれてしまう……
ーーならば!!
「ハァァッッ!!」
俺は奴の剣身へと手を伸ばして掴み上げ横に逸らした。その勢いを利用して体制を立て直す。
だが、勢いを殺すことは出来ず、俺の手の平は容赦なく切られてしまう。掌に襲う激痛に耐えながら奴の剣先を上に向け、胸を晒させた。
「グッ!?な、何ぃ!?」
ドンクは驚愕の声を上げ咄嗟に手を離して後ずさろうとするが、すかさず俺はもう片方の手を振るった。
「これで、終わりだァァァ!!」
俺は気合を込めた拳で奴の鳩尾へ叩き込んだ。
「ぐ、は……」
奴は強烈な衝撃で体内を破壊されたのか血を吐き出しながら、奴の身体は吹っ飛んでいった。
「はぁはぁ……」
俺はそれを見届けて、力が抜けてその場にへたり込んだ。
「勝った……のか……」
疲労の中、紡ぎ出された呟きは空へと消えた。
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