離(はなれる)_終
――朝。寝覚めは予想通り最悪、固い床の寝心地は思った以上にストレスでまともに眠れなかったが、それ以外は問題なかったのは不幸中の幸いか。夜通し焚火を燃やし続けた甲斐あってか頭も痛くないし熱っぽくもない。が、別の問題で頭が痛い。巻き込まれた形とは言え約束を破った事実に変わりなく、よって俺は何とかしてシトリンとアイオライトの機嫌を取らないといけない。きっと怒っているだろうなぁ、特にシトリン。
そう言えばこの前、ローズ達と一緒にプレゼント渡したけど、アレ……最後まで取っておいた方が良かった。首輪をプレゼントというのは地球の常識からしたら有り得ないという気持ちはあったけど、何だかんだで意外と喜んでくれたからご機嫌取りがてらもう1個くらい贈っておこうかかな。
『うーん。おはよぉございまぁす。』
何とも気の抜けた声が後ろから聞こえた。君は何も悩みが無さそうで羨ましいね、本来なら俺と一緒にこの後どうやって姉妹達のご機嫌を取るか頭を巡らせ……だから一々抱き着くな、甘ったるい声を耳元で囁くな、柔らかい何かを押し付けるな。相変わらず記憶が無かろうがあろうが行動にブレが一切ないのは一体どういう事なんだ。
※※※
アメジストが袋から取り出した非常食を口に放り込みながら外の様子を窺えば、降りしきる雨は昨日までとは違い小降り程度にまで落ち着いていた。濡れるのは確実だが身体が冷えるという事は無いだろう。当て所なく森を歩き続ければ昨日と同じ目に合うのは明らかだが、幸いにもこの島には途轍もなく目立つ物がある。超巨大な神樹。都市はその周辺にある訳だから、先ずはソレが見える位置にまで移動できれば……
――ズシン。
何だ、今の振動は?不意に起こった地震のような現象に驚いた俺は隣のアメジストを見たが、彼女はゆっくりと少しずつ口に運んでいた非常食をポロリと落して少しばかりご立腹と言った様子だった。相変わらずマイペースだな。と、今はソレよりも振動の原因を……
――ズシン、ズシン。
何だろう、嫌な予感がする。猛烈に嫌な予感だ。それはこの振動が原因で、俺はは心なしかこの独特な揺れを何処かで経験した記憶がある。そう、コレは……俺は脱兎の様に洞窟の外へ飛び出すと振動の元へと走り、そして最悪の光景を見た。巨人だ。しかも一体だけじゃない。何体もの巨人が一直線に、ゆっくりとした歩調で迷いなく突き進んでいる。しかも、ソレだけならまだしも見たことが無いヤツまでいる。地球とは比較にならないサイズの狼や蛇、その他色々。そいつ等は総数も多くないし巨人よりも随分と小さいが、それでも人を丸呑みに出来る程度には大きい。そんな化け物が迷いなく一直線に何処かへと向かっている。
いや、場所は分かる。目的地は
『え?そんな強引な、でも私……アナタがそう望むなら……』
頼むからちょっと黙ってくれねぇかなぁ?あと余裕あるなら走れ。
『私、余りそう言うのは得意じゃないみたいで。だから代わりにこうしてぎゅーっとしてあげますね。』
せめてもっと役に立つことをしてくれと、後そもそも今が緊急事態だって分かってる?俺はそう愚痴りながら、一方で必死に足を動かした。一刻も早く、少しでも犠牲を減らす為に。あんな化け物が何匹も侵入したらどれだけが犠牲になるかわかったもんじゃない。
『は、早い!?。凄ーい。え?ホントよ?まるでお馬さんみたいですねー。』
そう言われて悪い気はしない……が、冷静に周囲の景色を見てみれば確かに周囲の景色が猛スピードで後ろに流れていくのが分かった。今の今まで全然気づかなかったのがちょっと悲しい。いや、違うな。単に精神的な余裕が無かっただけだ。
(そうだぞ。君の体内で発芽した種は今や君の身体能力を極限にまで引き上げているのだ。)
昨日からずっと続くの悲惨な境遇を嘆いた直後、神様の野太い低音が頭に響いた。見てたんならもっと早く連絡してくれ。そうすればなんとかできたろう?
(まぁそれはともかく、気を付けた方が良いぞ。)
何がだ?いや、先ずそもそも今それどころじゃないから抽象的な助言は止めてくれ。もっとはっきりと……
(敵がいる。)
何?敵?敵って何だよ?と、神様の言葉の意味が分からず混乱していたが、程なくその意味が分かった。視界の奥に小さな人影が映った。ローブを纏っていて少なくとも男か女の判別がつかないが、でも確かに人がいる。どうする?逃げるか、それとも応戦するか。だがこんな状況で正しい選択を即断出来る筈も無く、だが迷う間にもみるみる人影は近づき、やがて言葉がはっきりと聞こえる程の距離になり……
『ハハハッ!!死にたくなければ黙って言う事を聞けィ。貴様の身柄は人類とぶばぶべらっ!!』
ごめん。迷ってたら轢いちゃった。
(少しは話を聞いてあげた方が良かったんじゃないか?何か重要な事を言いそうだったのに。)
今はそれどころじゃなかったでしょ?だけど少しだけ悪いことをしたかも知れない。そんな事を考えつつ後ろ目で様子を窺えって見ると、ソイツがきりもみ状態から地面に激突、ピクピクと痙攣する光景が視界の端に映った。生きているのは間違いなさそうだ。なんか物騒な言葉が聞こえたから悪人だろうけど、とにかくホントゴメン。後で拾いに戻るから。
『ンもう。ちゃんと私だけを見ないとダメ。』
直後、視界が強制的に前方を向いた。次に視界に映ったのはアメジストの不満そうな顔と、その下で揺れるたわわな膨らみ。が、何度も言うけど先ず状況を理解しろ。
『あぁ、私……とても幸せです。』
俺は全然幸せじゃないんですけどね。後、だから今はそんな状況じゃないだろ……ってダメだな。俺はそれ以上を諦めた。彼女の顔を改めて見れば、お姫様抱っこ状態にご満悦過ぎてさっきまでの不満顔は何処へやら、見事にだらしない表情に変わっていた。あぁ、なんでこんな状況になってるんだ。胸の辺りの柔らかい感触が無ければとっくに放り投げているぞ。
※※※
走って走って走り続けて、漸くここまで来た……なのに、これ以上進めない。視線を上げれば都市のシンボルである神樹の姿がはっきりと見える。そして目の前には石造りの橋。俺達が昨日川に転落した場所まで漸く戻ってこれた。が、肝心の橋は崩落していて向こう岸に渡れない。しかも助走から一気にジャンプしても届くかどうかという程度には離れている上に今はお荷物を抱えている状態。
流石に化け物が迫っている状況で記憶喪失のアメジストを放置する訳にはいかない。と、そんな風に考えた俺は彼女の顔を見下ろすが……コイツ、やっぱり全然状況を理解していない。走ってないんだからしがみつくの止めろと言うのに、止めないどころか熱っぽい視線で俺を見上げていたかと思えば、その次には何か周囲をキョロキョロと見回し始めた。ホントに状況見えてる?
『おーい。聞こえるかァ?』
ン?今の声は……何処かで聞き覚えのある声が突然聞こえた俺は驚きながらもアメジストと同じく周囲を見回した。と、次の瞬間。目の前を小さい何かが横切った。最初は俺達の周囲をグルグルフワフワと飛び回っていたソレは、やがて俺の目の前に止まるとイヒヒッと無垢な笑みを浮かべた。
『
だよね。だとすると……俺は
『よぉし。先ずは言い訳から聞こうかァ?』
言動と口調から間違いない。ルチルは確実にそうだし……
『俺達に黙って何勝手なことしてんだ。ホントに毎度毎度、フォローするコッチの身にもなってくれよ?』
アイオライトも言葉こそ丁寧だが確実に怒っているのが伝わる。当然だ。
『オレとの約束よりもソッチ優先したツケは後で払ってもらうぞ。』
ン?ちょっと雲行きが怪しくないか?シトリンの言葉は明らかに
『そうですね。とりあえず何からやってもらいましょうかね?』
おかしい。ローズの話もかなり怪しい。いや、仕方ないのは理解するけど半分以上はコイツのせいだろ……と、再び視線を胸元に下ろせば、アメジストが不機嫌そうな顔をしている。君、ホントに気楽で良いよね。
『酷いです。私というモノがありながら、3人と浮気しているなんて!!』
もうお前ちょっと黙っててよ。これ以上話を拗れさせないでくれ。
『ちょおまて。ソイツ、記憶ないのか?』
アメジストの呑気な台詞を聞いたルチルの驚くような声が
『道理でオレ達見てもなぁんにも反応しない訳だ。ハァ、何となく予想してたけど頭痛いなこいつは。』
『なら後ろのアレ、どうします?姉さまなら軽く一掃できるんですけど、私達がするんですか?』
『仕方ねぇだろ?アイツ、多分今まで以上にポンコツになってるぞ?』
『それ自体は別に何の問題も無いだろう?それよりも、無事で何よりだナギ君。さて、そうなると残った問題はこの騒動の首謀者への説教位だが、どうする?』
『そもそもさぁ、ホントに記憶喪失なのか?そのフリしてるだけって可能性は無いか?こんだけ私達引っ掻き回しておいてタダで済むなんて思ってないだろ、流石にさ?』
『そうですねぇ……』
あの人達、余裕だな。後ろから巨人やら何やら化け物の群れが目視出来る場所にまで迫ってるのに、目下の話題が記憶喪失のアメジストとは恐れ入る。
『ナギ様。』
不意に
『贈り物の首輪、ありがとうございます。でも、出来れば私にだけにして欲しかったですわ。シトリン姉さまとルチル姉さまにまで贈るなんて……なので今度お詫びにこの首輪、私に嵌めてくださいますか?』
"私に嵌めろ"って、1人で出来る事をどうして俺に頼むんだ彼女は。後、なんで詫び?別に世話になっているから贈っても問題ないだろうに。いや、やっぱり贈るべきではなかったのかもしれない。普通に考えて首輪ってどうしたってペット扱いだしなぁ。だがそんな事よりも一番気になったのは……なんで今そんな事を伝えるんだ?と、そんな疑問が頭を過った直後、胸元に微かな震えを感じた。視線を崩落した橋の向こう側に立つローズから少しだけ下に傾けると、涙目のアメジストがプルプルと震える姿が映った。いや何事?
『ひ、酷い!!私、そんなの貰ってない!!』
……ほぉ。君、記憶ないのになんで貰ってないって言えたの?
『嘘ついてるな、お前?』
俺に続いて間髪入れずシトリンが記憶の件を追及すると、アメジストは途端に焦り出した。
『あ……あの、ソレはホラ……ね?』
『やっぱり嘘だったのね。』
『どうせ嘘つくなら一時的な記憶操作とか色々あるだろうに、なんでベタに嘘つくだけなんだよ?』
『いやぁ。この場合は使わなかった方が良かったと思うぜ。だって簡単に馬脚現してくれたし。』
しどろもどろになるアメジストを他所に、ローズ、ルチル、アイオライトの3人は仲良く呆れた。が、そんな3人とは対照的な反応をする人が1人いまして……
『オイ。聞こえるなァ?』
台詞と口調ではっきりと分かる位にシトリンはキレている。さしものアメジストも真顔に戻っている状況を見るに、普段は温厚な彼女を怒らせるのは相当にマズいのだろう。
『は、はい!!』
『今すぐナギから離れて後ろのアレ何とかしろ。』
『え?もしかして私をどかしてその隙にオヒメサマ抱っこを?』
相変わらず何をどうしてその結論に着地したんだい、君?
『違う……よ。』
が、どうも様子がおかしい。橋の向こうから俺を見つめるシトリンは呆れ半分といった様子で顔に手を当てているが、その口調にさっきまでの怒りを全く感じなかった。どうしたんだ?
『オイ。なんで自信なさげなんだよ?』
『そうよ。私もして貰いたい!!』
『ローズ。頼むから話を拗れさせないでくれ……』
君達さぁ、ちょっと落ち着こう?ね?
『酷いッ、ココは私専用よ!!』
『『『『お前は早よ離れろ。』』』』
『じゃあ、行きまーす。そぉれ、
アメジストは俺の前に立ち、両手から魔法陣を展開し、そして聞いただけではどんな効果かさっぱり分からない言葉を呟いた。直後、灰色の曇天に途轍もなく巨大な魔法陣が浮かび上がり、更にソコから真っ白いレーザーが地面に向けて撃ち出され、見渡す限りの全てを一瞬で焼き払った。いやいやいや、ちょっとやり過ぎじゃないか?化け物は確かに消え去ったけど、森とかも完全に跡形も無く消え去ってるんだけど……
『お前ッ、加減しろよ!!』
『これ、まーたオレが元に戻さないといけないパターンじゃないか!!』
『ホントに加減だけは絶妙に下手ねぇ。』
三者三様にアメジストを責めるのは致し方ない話。彼女は俺が必死で逃げてきた森を含む眼前の全てを焼き払ってしまったからだ。いや、コレはちょっと凄すぎて閉口してしまう位には凄まじい景色だった。鬱蒼と生い茂っていた草木の緑は上空からの一撃を受けて完全に消失、辺りは焼け野原同然に裸の木々と立ち昇る煙だけが残る惨状。またそんな有様なので、当然ながら生物らしい生物も跡形もない。
……そう言えば、俺が吹っ飛ばした人間が居たような気がするが、この状況で生きてるかな?
『まぁまぁ、取りあえず危機は脱した訳だし。後はそうだな……下にはアイツ等に対応する為に一時的に離脱したって事にしておこう。というかそうしないとナギ君に余計な嫌疑が掛かってしまう。』
どうやら他人の心配をしている余裕はないみたいだ。アイオライトの言葉から察するに、俺の評価がなにやら不味い事になっているらしい。まぁ、その辺は彼が何とか纏めてくれると信じよう。俺としては上手く収まるなら文句ないです。"俺は"ね。
『まぁ、コレで問題は解決したわけですし。終わりよければという地球の諺もありますし……これでこの件は終わりましょう、ネ?』
終わる訳ないだろ……アメジストの楽観的で呑気な言葉に俺を始め全員が呆れて何も言えなかった。何をどうしてそう結論したのかは知らないが、一度キッチリ叱られた方が良いと俺が突き放すと、彼女はこの世の終わりみたいな表情で俺を見つめた。そんな風に見つめられても助けられないし、そもそも俺も被害者なんだよなぁ。
『あぁぁああ。だから見せたくなかったのにぃ。』
違う。俺が言いたいのはソッチじゃない。いや、確かに驚いたけど化け物一掃した件には寧ろ感謝してるから……と、言おうと思ったが止めた。俺の言わんとすることを理解したアメジストの表情がぱぁっと明るくなった。君、反省って言葉知ってる?
『じゃあ一杯褒めてください!!』
はいはい。説教が終わった後でね。
『はいッ、じゃあ何時もみたいに部屋に行きますね。』
"勝手に"ってのが抜けているし、説教がある事も完全に忘れている。何処までも我が道を進む彼女の言動は何時も通りで、だから安心した俺は緊張の糸が切れ、更にそれまで溜まった疲れが一気に噴き出した。ガクンと膝から力なく崩れ落ち、直後に視界が暗転する直前、何やら姉妹達の叫ぶ声が微かに聞こえてきたが、その内容までは分からなかった。
※※※
――朝。豪奢なカーテンの隙間から聞こえるのは何時もの小鳥の囀りではなくザァザァと降りしきる雨の音、そしてここ半年の間ずっと身体を休めるのに使っていたベッドの感触……じゃないなコレ。
何時もとは違う違和感に気づいて疲れの取れない身体に鞭打ってい起き上がると、ソコに広がる景色は少なくとも俺が今まで使っていた来賓室とは違っていた。豪華で整理と清掃が行き届いているという点は同じだが、一番の違いは部屋の壁4面中2面をびっしりと隙間なく埋める本棚にギッチギチに納まったの本。何が書いてあるかさっぱり分からないが、少なくとも娯楽系とは思えない分厚さの本はどれもこれも重要そうだし高そうな印象も受ける。しかも、よく見てみれば部屋の端に置かれた大きな机にも乱雑に積み上げられているし、床に捨て置かれたりと粗雑な扱いを受けている物まである。
だがこの本まみれの部屋、何処かで見たことがあるような無いような気がするのだが、未だボケっとする頭では所有者の名前と顔が思い出せない。とは言え、誰の部屋にせよ勝手に入ってしまった訳だから早々に立ち去るべきだろう。まだ眠いが致し方ないと俺はベッドの毛布を引っぺがして……思い切り後ずさった。
人がいた。しかもアメジストじゃない。少なくともこんな荒唐無稽な真似をするのは彼女位しか思いつかなかったのだが、ベッドの毛布をめくったソコには彼女ではない誰かがいて、しかも気持ちよく寝息を立てていた。道理で何時もとは違ういい匂いがすると思ったら……と、まぁそれよりも一体誰だ?ソコにいたのは10代前半位に見える銀髪の少女。いやいやいや、こんな知り合い俺は知らないぞ。しかもこの年齢は非常にマズい。この世界もこんな小さな子供に手を出した(と思われたら)人生お先真っ暗じゃないか。
『う……ン?あぁ、おはよう。』
マズい。少女が目を覚ました。どうしよう、コレはマズい、非常にマズい。このままではロリコンの汚名と共に人生が終わる。嫌だ。死ぬのは嫌だけどこんな死に方はあんまりだ。
『ン?どうした……あぁそうか。この姿を知らないんだったな。ワシだよ、ワシワシ。シトリン。分かる?』
その名前を聞いてあぁ、と今更ながらに理解した。そうだ、確かにココは彼女の部屋だ。が、済みませんが本当にシトリンですか?何か色々と……具体的には身体の大きさが明らかに違うし一人称も何か変わっているんだけど。まぁソレは置いておき、確か大陸に渡る為に必要な諸々の準備とか用意する書類とか、そんな話を聞く為にこの部屋に一度来た事があった。で、確かその時に余りにも整理されていなかったから次いでに部屋の掃除と片付けもした記憶がある。アレから数日でまたグチャグチャになったようだけど。
『部屋の事はまぁおいておいて。ワシの身体、昨日アメジストが無茶苦茶しやがった森を治す為に頑張ったせいで今こんな風になってるのさ。で、君がこの部屋にいる理由だけど……情けない話、アメジストを君の部屋に向かわせないようにするのは不可能って結論になって。ならアイツが行きたくないと思う場所に来てもらうのが精神衛生上良いだろうという話になって、最終的にワシ等姉妹の部屋に順繰りに泊めようって決まったんだよ。』
成程。順繰りに……いいのかソレ?
『別に誰も嫌がってないし、寧ろ大なり小なり悪いと思っているからこういう結論になった訳だから気にするな。ソレに暫くの辛抱だ。大陸への出航準備はコッチで粗方済ませておいた。あと数日もすれば大陸行きの船の上だ。』
成程。彼女達もアメジストの暴走には随分と苦労しているらしい。勿論、俺も苦労しているが。
『という訳で、当面の護衛は頼むぞ。』
は?護衛って何?
『ワシの魔導は割と全能とか万能に近い反面、一度使うと反動で暫くこんな状態になっちまうんだ。で、その間の護衛を君に頼みたいという訳さ。』
いや、"訳さ"ではなく……いや、まさか……
『君の知らない間に色々と話が進んでね。具体的には君がぶっ飛ばしたローブの男、"人類統一連合"絡みさ。で、その件でアイオライトと一緒に大陸に行くことになった。ン?どうした?まさか、嫌とは言わんよな?』
いいえ、嫌じゃないんですが……なんか口調と性格、違いませんかね?後、アイツ生きてたんだ。ところで人類統一連合って何だろう?
『まぁ、その辺は追々教えてあげるさ。で、そいつの身柄護送とか他にも色々用事も出来たんで私も大陸に渡ることになった。当初の予定とはちょっとだけ変わっちまったけど、まぁよろしく頼むよ。』
シトリンはそう言うと楽しそうに笑みを浮かべた。なんだか妙な話に巻き込まれている様な気がしなくもないし、そんな状況に一抹の不安が頭を過る訳だけど、彼女の機嫌がやたらめったらに良いのでそれ以上は語らない事にした。ソレにアイオライトも同行するんだ。滅多なことでは問題は起きないだろう。俺はやけに上機嫌なシトリンにもう少しだけ休むと伝えるとベッドに横たわった。来賓室と同じベッドだけど、むさ苦しい俺とは違う良い匂いが仄かに鼻をくすぐるベッドに包まりながら俺は再び意識を……
『じゃあワシも。』
意識を手放そうとした次の瞬間、そんな声と同時にシトリンがモゾモゾと毛布の中に割り込んできた。いや、なんでさ?その突飛な行動と不敵な笑みに俺は血の繋がりを感じずにはいられなかった。もしかしてこの姉妹、大なり小なりこんな感じなのか?何か先行き不安な思いを胸に抱えながらも、取りあえず睡魔に逆らえなかった俺はそのまま瞼を閉じた。
大陸編に続く
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