エピローグ


 総会から三ヶ月が経とうとしている。年が変わり、冬から春に移り変わる間、さまざまなことが起こった。まず、天下高校は今回の件を受けて、教育目標を根本から見直すことになった。また、教務主任の立花は、渡瀬の証言によって生徒脅迫の疑いがかけられており、教育委員会の調査が始まり、同時に教務主任の職も辞することになった。そして渡瀬が掲げた新しい応援歌練習は骨子が固まり、早ければ来年度から実施が決まりそうだ。3月上旬、3年生は無事に卒業した。その後、高世は久しぶりに渡瀬に会った。

「あ、会長!」

「もう会長じゃないよ。」

 渡瀬は優しく微笑んだ。そう、新年があけた後、渡瀬は会長の職を辞したのだ。もう一度生徒の視点に立って、学校全体を見る、それが渡瀬の新しい目標なのだ。

「いや、俺にとっては貴方はいつまでも会長ですよ!」

「やれやれ…」渡瀬はそう言ったが、まんざらでもなさそうだ。

「高世さん」渡瀬は改めて言った。

「今回の件協力してくれてありがとう。本当に君のおかげだ。」

「いえいえ、そんな…。会長の決心があったからですよ!」

 高世にしては珍しく恐縮している。渡瀬は微笑んだ。

「僕が決心することができたのは、君の存在があったからだよ。一度は君の提案を退けたのに君は諦めなかった。最後の最後まで己の信念を曲げずに貫いたんだ。その気持ちが僕を動かし、生徒会を動かし、学校全体を動かしたんだ。信念を最後まで曲げないで貫き通すってことは難しいね。

…実を言うと、僕も君に提案される前から君と同じようなことは考えていたんだ。ただ、難しいと思っていたから僕は実行しようと本気には思えなかった。」

 渡瀬の口からの本音を高世は驚いたような顔で聞いていた。

「君がその難しさを知って僕を訪ねてきたのかはわかんない。まぁ、君の顔を見てたら何となく答えがわかったけどね。フフッ。とにかく、君は今回本当に素晴らしかった。もう、今はそれをはっきりと君に伝えたい。これからは僕も君を見習って自分の信念を、信じる道を突き進めるよう、日々精進しようかな!」

「それでこそ会長です!!もう、俺感動です!!」

 高世は涙目だ。渡瀬はそれを見て大笑いした。最後に渡瀬はこう告げた。

「今回のことで君も大いに満足してると思う。でもね、これで終わりじゃないってことを忘れないでね。君にとってはここからが本番だ。君の信じる道を全力で突き進め!」

「はい!!」

 高世は元気よく頷いた。まだ3月中旬なのに、高世には桜が風で流れていくような感覚があった。そう、高世にとってはまだ折り返し地点にも到達していない。高世の高校生活は…これからだ。冬の厚い雲に差し込んだ日差しを高世と渡瀬の二人は目を細めて眺めている。

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