新しい試み

 渡瀬は立花に憐みの眼差しを向け、そしてその視線を生徒たちに向け、発言しようとしたその時、立花が弱々しく言った。

「だが、応援歌練習は今も多くの卒業生たちに支持されている。それをやめたとなればこの高校はパニックになるぞ」

 半ば負け惜しみだった。だが、渡瀬は顔色ひとつ変えなかった。

「その可能性もあると思い、同時に応援そのものには価値があると思いましたので、ここで生徒の皆さん全員に新たな提案をしたいと思います。」

 一呼吸置いて渡瀬は力強く宣言する。

「私は、今の応援歌練習を廃止すると共に、新しい応援歌練習を開催することをここに提案いたします。」

 会場全体がどよめいている。

「現在の応援歌練習は廃止しますが、先ほど、高世さんもおっしゃっていたように応援そのものには大いに価値があると考えています。応援をなくしてしまうと、少なからずこれから大会等で活躍される選手の皆さんと学校で彼らを待っている生徒の皆さんが心を通わせづらいとも考えました。ですので今回このような提案をさせて頂きました。新しいとは具体的に申し上げると今まで歌ってきた時代感漂う応援歌を現在の時代に合うように大部分を刷新し、そして先輩後輩問わず心を通わせられるような、みなさんにとって心地よい行事にしたいなと考えています。」

「多少の反発はあるかもしれない。でも反発を恐れては改革はできません。その反発する方達の意見も全部受け入れてこれからの応援歌練習を私は作り上げていきたい!」

 高世や生徒会メンバーたちも驚いているが、表情を見る限り嬉しそうだ。渡瀬は生徒に問う。

「皆さん、自分の心のままにしてください。私と一緒に新しい天下高校を作るために力を貸してくれますか?」

 渡瀬が言葉をきった次の瞬間、まばらな拍手が聞こえ、それはたちまち、さざなみのように広がり、いつしかとびっきりの拍手に変わっていた。渡瀬は涙を流しながら次のように言った。

「みなさん、ありがとうございます。これから天下高校は大きく変わっていきます。この高校の主役は私たち生徒です。私たちで未来に引き継げられる天下高校を作っていきましょう!」

「おぉ!!!」

 生徒たちによる掛け声がアリーナ全体に響き渡った。もはや立花は何か言う気力もなく、ただ打ちひしがれている。生徒たちのやる気に満ち溢れる光景を見て高世は舞台側から涙を流しながら何度も頷き続けて拍手するのだった。

「よかったな!紗雪!!」

 隣にいた翔が涙目で語りかける。

「あぁ!本当によかった…!大変なことがもう数えきれないほどあったけど、ここまで達成することができたんだ。こんな嬉しいことって…ないよな…」

 高世は人目も憚らず号泣している。

「翔!!俺たちにとってはここからが本番だ。この先も共に頑張ろうぜ!!!」

 涙を拭うことなく、高世は笑顔で言った。

「おう!!もちろんだぜ!」

 翔も力強く頷く。冬の寒さに反して天下高校は熱気でいっぱいである。

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