『変わり者』の本音

「まだ、十川家が財閥として経済の一柱となっていた頃、当時の当主は社会の理不尽に大変不快感を覚えたそうです。そこで当主はこれからの子供たちにはその理不尽に負けず、生き抜いてほしいと願い、天下高校を創設しました。応援歌練習もその一環だったのです。初代は子供たちのことを第一に考えるとても良い人物だったそうです。しかし、初代が病気で亡くなると、しばらくの間、初代の従兄弟の家系が天下高校を管轄するようになったのです。しかし歴代の従兄弟の家の当主はとても欲深い人で子供のことには目もくれず、ただただ、金のことだけしか考えてませんでした。戦後になり、子供から訴えがきてもまともに取り合おうとはしませんでした。そしてそれから数年後、天下高校は私立から公立に変わり、従兄弟の家の当主も亡くなり、今の宗家になりました。今の当主元徳は宗家が天下高校を管轄するようになってから子供第一の精神を貫くことをモットーとしていました」

 会場にいる全員が初めて知る真実だろう。渡瀬は続ける。

「ですので、私は直に話をしに行きました。この生徒総会において生徒の信を得ることができたその時は、天下高校の伝統をなくすことをお伝えするために。当主は笑ってこうおっしゃいました。『それが皆の望みなら承知した』と。」

 渡瀬が自分のポケットから何かの書類を出し、高らかに掲げて言った。

「これが当主が承認したという証拠です。」

そこには『誓約書』と書いてあり、最後の欄に直筆のサインと捺印がある。立花は崩れ落ちた。

「そういうことですので、立花先生はどうぞご安心ください」

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