エピローグ

――そして、現在。

あの出来事からちょうど1年ほどが経過しようとする夏。

高校3年生となり、進路を気にする歳にもなった。

日花里(ひかり)の事は正直、今でも全く忘れてないし引きずってないと言えば嘘になる。

それでも、彼女の存在を俺の中でマイナスにしたくないし、せっかく彼女のお陰で前を向けたのだ。

このエネルギーを他にぶつけようと考えた結果、将来の夢として教師を目指そうと考えた。

彼女のように人を導けるようになりたいと考えてのことだ。


正直、日花里(ひかり)と会えた事自体が奇跡みたいなもんだった。

それに状況も異常過ぎた。

ただ、日花里(ひかり)に出会えたのが色々な要因が重なった結果だった。

その一つにこの”未来予知”の能力も入っている。

どういう条件下で発動するのか未だにわからないが、この能力のお陰もあるのなら持っておいてよかった。

素直にそう思えた。



色々と思考しているが、現在俺は家から少し離れた所にある大型な本屋へと向かっている最中だ。

大学進学を決めた俺は夏休み初日から参考書を選びに来たのだ。

去年の自堕落な生活と比較すると、今の自分でもびっくりしてしまう。


「暑っ……」


同じところといえば、相変わらずの暑さである。

早く到着して、中でゆっくりと散策し涼んで帰ろう。

そう考えると、歩くスピードが少しだけ早くなった。


「――――ッ!?」


不意にそんな俺の足を止める出来事が起こった。

……視界が歪む。

この感覚だけは未だに慣れない。

しかし、今回は”未来予知”によるものではなかった。


「…………は?」


驚きを隠そうともせず、ばっ後ろを振り向く。

居るはずがないもの脳ではわかってる。

気の所為なはずなんだ。


それでも――――俺が日花里(ひかり)を見間違えるはずないんだ。


そう考えついた時には足は動き出していた。

思考なんてまとまらず、状況も全然理解も整理も出来ない。

でも、今絶対にやらないといけないことだけは体も頭も理解している。

だから、自然と体が動き、さっきすれ違った人物を追いかける。


「あ、あの!すいません!?」


「……私ですか?」


声をかけられて振り返った彼女は、最初出会った時と同じように驚いた顔をしていた。

声も仕草も全てが日花里(ひかり)そのもので、他人の空似で片付けられるようなものではない。

ただ、違っていたのは短く切り揃えられた髪と彼女の背格好だ。

どう見ても同年代だと語っていた彼女よりも歳上にしか見えない。


驚いて続きの言葉が出て来ない俺に対して日花里(ひかり)の方はというと、頭に疑問符を浮かべている様子だった。

俺と日花里(ひかり)では、明らかに驚き方に温度差が存在する。

その疑問も日花里(ひかり)の次の言葉で消え去る。


「えーと、何処かでお会いしましたか?」


「…………え?」


”何処かでお会いしましたか?”ってなんだよ。

どういうことかわからない。

本来の暑さからくる汗を忘れるぐらい嫌な汗が止まらない。

俺の反応を見て、彼女の方は当てを探し始めている。

これがラストチャンス。

ゆっくりと喉を鳴らし、精一杯の声を、想いを彼女へと言葉にする。



「日花里(ひかり)さん、ちょっと時間いいですか?」

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