第三関門 青の鬼門

 玲太郎が次に足を踏み入れたのは、どう見てもただの家。長い長い廊下から覗くドアの先の光景は、どこの家庭にもあるキッチンや風呂場。ただその中に、図書室や座敷牢ざしきろうが見受けられるのは珍しいだろうか。


『アイテムを使用し窮地を脱した河井選手、第三関門ステージ“本館”へと足を踏み入れました‼』

『……この光景、既視感があるんですけど、ここの選手って、まさか……』

『その通り‼ 人間を追いかけさせたら右に出る者はいない‼ 第三関門に待ち受けますのは鬼ごっこ界の伝説レジェンド‼ 青鬼選手です‼』


 間も無くして、デン、デン、デンと不安を煽るようなBGMが掛かると、観客席の方から一斉に生唾を飲み込むかのような音が聞こえる。


 ざわめく会場。その半分は躊躇ためらい交じりの歓声へと変わるが、もう半分は畏怖いふ、そして人間への同情の念が込められていた。


『河井選手、開始早々懐から胡瓜を取り出し、細かく何度も後方を振り返る‼ それは決死‼ 正に競技者の表情‼ さぁこの局面、一体どう乗り切るのかぁ⁉』

『って言うか、もう五秒が経過しているのに誰も来ないんですけどー?』

『おぉっと青鬼選手、後ろから追走するのではなく、これは脇道から一気に襲い掛かる作戦かぁ⁉』


 そう実況がまくし立てるものの、未だステージを走る玲太郎に襲い掛かるモノの気配は無かった。


『……来ませんね』

『こ、これは一体どうしたことだぁ⁉ これではただ河井選手がゴールしてしまうぞぉ⁉ えっ、あ……こ、ここで運営サイドより会場の皆様にお知らせです。第三関門に出場予定の青鬼選手ですが、多忙の為、本大会にお呼びすることができなかった、とのことです……』


 ……。…………。


『ゴ、ゴールッ‼ か、河井選手、なんと第三関門も突破しましたぁッ‼』


 快活としたゴール宣言も虚しく、会場は白け、完全に静まり返っていた。


『うーん、これはイベント終了後、運営サイドにどんな罰が下るのかが楽しみですね♪』

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