4.
これは、日本のどこかにある小さな田舎村で行われている奇妙なお祭りの風景。神官ふうの白い衣装を身に纏った若い男が木で組まれた大きな櫓からお菓子や餅、お金の入った小さな包みをばら撒いている。村人達は天から降る恵を掴み取ろうと歓声を上げながら手を伸ばす。続けて、魚や蛙、亀といった小さな生き物が櫓の上からばら撒かれ、村人達は狂騒状態に突入する。この奇妙なお祭りは
しかし、村が滅んだというのならこの動画の中で行われている祭りは一体なんなのか。
参加者達の表情をじっくり観察すると、その目は異様な光を宿しており、神官役の男に今にも喰らい付きそうだった……。
※ ※ ※
「なんか、説教臭くないか? オチも弱いしあまり面白くないな」
幽霊少年の明け透けな感想が僕達を馬鹿にしているようで、無性に腹が立った。
「うるさい黙ってろ」
僕の言葉に幽霊少年が肩を竦めた。
動画の再生が終わり、静かになった教室にまた風が強く吹き込んだ。
それは、夏なのにゾッとするくらい冷たい風だった。
首筋に濡れた手で撫でられたような不快感が襲ってくる。
窓のカーテンが大きく揺れ、カーテンに隠されていた空間があらわになる。
僕はそこに「何か」の影を見た。鳥なんかじゃない。人の形をした無数の影が窓の外で蠢いている。
「カケル、どうした?」
「窓の外に人影が!」
「人影? ここは、二階だぞ。鳥と見間違えたんじゃないか?」
「違う! 鳥なんかじゃない!!」
思わず大きな声が出た。
「待て!」
十兵衛の手が僕を制した。眼鏡のレンズが警戒を促すように光を放っている。
「……何?」
「声が聞こえなかったか? アレは、多分、悲鳴だ。それも、悠介の声……だった気がする……」
「お前らさ、何が楽しくてこんなことしてるんだ?」
質問を投げかける少年の声は心底不思議そうだった。僕達のことを馬鹿にしている様子はない。だけど、何故か、僕はそのことが許せなかった。
「部活のメンバーを集めるためにしてるんだよ! 部員の人数が足りなくて廃部寸前なんだ!!」
僕の怒声に十兵衛が驚きの表情を浮かべるが、幽霊少年の顔は長い前髪で隠されており、どんな感情を示しているのか判然としなかった。
「お前は一体何様のつもりなんだよ!? どんな権利があって僕達の【儀式】に難癖を付けるんだ!! ふざけるな!! 殺されたいのかクソが!!!」
僕の口から飛び出した暴言に十兵衛がギョッとしたような顔をする。
「死ね!! 死ね!! 死ねっ!!! お前はこの場で死んでしまえっ!!!」
僕は黒川先生やまわりのみんなが思っているような大人しい優等生ではない。
僕の中にはずっとこんなドス黒い感情が渦巻いていた。
さっきだって、卓也の不真面目な態度に拳を握った。
幽霊少年の言葉がなければ、きっと、卓也を殴っていたことだろう。
「ふあ……」
幽霊少年が退屈だと言わんばかりにあくびをした。
自分の大切なものを蔑ろにされたようで、どうしようもないくらいに腹が立つ。はらわたがグラグラ煮え繰り返るような気分だ。
僕が更なる暴言を吐こうと思い口を開きかけたときだった。階下から、はっきりと、大きな悲鳴が聞こえてきた。それは、卓也の声だった。
今は、あんなヤツの相手をしている場合じゃない。自分にそう言い聞かせて必死に怒りを抑える。
十兵衛の顔を無言で見る。互いに、頷く。
そして、二人で教室を飛び出した。
「いってらっしゃーい」
アルミホイルみたいに軽い声が僕と十兵衛を見送った。
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