第17話 結局こうなる
しばらくして、なんとか誤解を解くことに成功した俺は、ベッドの側の椅子にちょこんと座っていた。
「……そう、そう言うコトだったのね。寝起きで冷静さを欠いてたみたい。誤解しちゃったのは謝るわ。ごめんなさい」
素直に謝罪されて、俺は何を返せばいいのか分からず、
「お、おう」
と、実にマヌケた返答しかすることができなかった。
「なにがおかしいのよ」
「いや、てっきり難癖つけて謝らないんじゃねーかって思ってたから」
「私をなんだと思ってんのよ。自分に咎があればちゃんと謝るわよ。たとえあなたみたいな平民相手だったとしてもね」
「へいへい、どうせ俺は平民でございますよ……それで、体の方は大丈夫なのか?」
「ん、平気。前はこんなことばっかりだったから、慣れてるのよ。明日からはまた学校に行けるわ」
「そうか」
なぜか、そのことにホッとしている自分がいた。
けど、もし俺とフィオナとの関係に妙な噂が流れていて、クラスメイト共が殺気立ってることを知ったら、フィオナはどうするんだろう。
穏やかな結果に終わらないってことは分かるぞ。
そんな風に思っていると、セバスさんが紅茶とお茶菓子を持ってきた。
フィオナは、セバスさんをじろりと睨む。
「ちょっとセバス。あなたどこに言ってたのよ。あやうくとんでもないことになるところだったんだから」
とんでもないこと、というのは決して色気のあるものじゃなくて、俺のスプラッタショーってことなんだろうな……
セバスさんは、申し訳ありませんとばかりに小さく頭を下げた。
「え? そっちの方がいいと思ったって……大きなお世話よ!」
うがぁと食ってかかるフィオナに、セバスさんはごゆっくりとばかりに小さく微笑むと、部屋から出てった。
フィオナは少し怒っている……いや、あれは拗ねてると言うかじゃれついてるというか、そんな感じか。
「仲、いいんだな」
「そうかしら」
「貴族って、あーゆー使用人をいじめるのが日課だと思ってたからな。小説でもあるだろ? そういうの」
「前々から思ってたけど、あなた貴族への偏見がすぎない? 物心つく前からお世話になってるのに、そんな風に当たったら悪いでしょ」
なんか思ったより真っ当な答えが返ってきた。
「ほぼ、家族みたいなものってことか」
まるで姉妹みたいだと思ってると、フィオナは紅茶を口に含み、お茶菓子のスコーンを食べ始めた。
そう言えば、スコーンを最後に食ったのはいつからだっけと思っていると、
「食べないの?」
きょとんと首を傾げている。
改めてティーセットを確認してみる。
ティーカップは二つある。
「これ、俺も飲んでいいのか?」
「当たり前でしょ? 貴族たるもの、客人をもてなすのは当然のことでしょ。それとも、私が美味しそうに飲んだり食べたりしているのを見せびらかす趣向だとでも思ったの?」
思った、と言ったらスコーンナイフが飛んできそうだったので、大人しくいただく。
「……うまっ」
思わず声をあげてしまった。
「でしょう? お茶もスコーンも、いいのを選んでいるから当然なのだけれどね」
なんでおまえが自慢げなんだよ、という疑問はさておき、スコーンもいただく。
金欠になると、この手の嗜好品から諦めざるをえないので、お菓子を食べること自体、この学園に来て以来だ。
ゼロもここにいれば……いや、俺の取り分がなくなるからこれで正解かも知れない。
「しかし、改めて思うと奇妙な状況だなこりゃ。いつもおまえとはバチバしてばっかだったのに、今は一緒に茶を飲んでる」
俺とフィオナはいつもどんな会話をしていたんだろうと記憶をプレイバックしてみると、互いに罵詈雑言を交わし合った記憶しかない。
まあファーストコンタクトの時点で穏やかじゃなかったから、仕方ないといえば仕方ないのかも知れないが。
「別に私は難癖つけたい訳じゃないわよ。あなたが私の上にいるからいけないんじゃない」
「それを世間一般じゃ難癖つけるって言うんだよ」
それとも貴族と平民じゃ、言葉の意味が異なるのか?
「けどそれは勉学で負けてるって意味だろ。けど魔法師としてはおまえの方が上だ。昨日の決闘で分かっただろ?」
経緯はどうあれ、最終的に勝利したのはフィオナだ。
それに関しては文句のつけようがない。
が、文句を付ける人間がいた。
「何それ、皮肉?」
他ならぬフィオナ自身だった。
「別に。事実を言ったまでだ。それともアレはおまえの負けだとでも?」
「ぐっ……それは……」
何か言いたいけど言えないとばかりに口元をむにゃつかせていたフィオナだったが、やがて顔を上げて俺を睨み付けた。
「と・に・か・く! 私はあんな勝ち方認めない。貴族の勝利じゃないんだもの」
「貴族の勝利ぃ?」
「優雅で美しく、そして圧倒的に勝つ――それが貴族の勝利よ」
よく分からないが、それがフィオナのこだわりなのだろう。
「でもそれじゃ、昨日のアレはどうなんだよ。魔法を使いすぎて吐血とか、そのポリシーに反することなんじゃないのか?」
図星を突かれたのか、フィオナは目を逸らした。
「あ、あれは……仕方ないじゃない。使いすぎると、ああなっちゃうのよ」
「魔法師は身体が資本なんだぞ。あんな風に無茶したら、どうなるかなんてバカでも分かるだろうが。俺が回復魔法を使ってなかったら、間違いなく死んでた」
「大きなお世話よ! あれくらいなら全然平気だったんだから!」
「嘘つけ!」
結局ぶっ倒れた挙げ句、学校を休んでいるんだから、全然平気と言われても説得力皆無だ。
「本当に屈辱よ、勝利といい回復魔法といい、平民のあなたから施しを受けるなんて……!」
ガジガジと親指を噛むフィオナ。
その姿は、学校での毅然としたものではなく、年相応……いや、それ以上に幼く見える。
家の中だから、そこら辺が緩んでいるのか?
「大体何よあなたの剣技は。剣を握りたての幼子だって、もっとマシな動きをするってものよ」
こ、こいつ今度は自分じゃなくて俺に矛先向けてきやがった。
しかもよりによって一番痛いところ突きやがって!
「それこそ大きなお世話だ。ゼロと契約する前はダンジョン以外で剣使ったこと無かったんだから仕方ないだろ?」
「バカじゃないの? 精霊剣と魔法は密接にリンクしているのに、片方をおろそかにするなんて愚の骨頂もいいところよ。しかも片手剣を選んだ理由が一番安かったからだとか、とんだアンポンタンだわ!」
「こっちは財源に限りがあるんだよ! おまえの家みたいにポンポン金出してくれる訳じゃないんだ! むしろ、それだけ装備に金かけてもあの結果じゃ、そんなもん意味ないって証左だろうが!」
「大半はゼロの力でじゃない! しかも魔法も色々雑だったし!」
「テメッ、言っちゃならんことを!」
結局、見舞いに言ってもいつも通り言い争いを始めてしまう俺達なのだった。
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