第8話 決闘開始
「いやはや大変なことになってしまったねえ。我々はどこで道を誤ってしまったのか。悲しいかな見当が付かないよ」
「今日のホームルーム前におまえがケンカを売った事が原因だよ。あと道を誤ったのはおまえだけだ一緒にすんな!」
昼休みになって、決闘場の控え室でテオとゼロは決闘の最終調整を行っていた。
一応この学校では精霊剣を用いた私闘は禁止されているが、決闘場がその例外になっている。
魔法の腕試しだったり、鍛錬だったり、惚れた腫れたの色恋沙汰だったりと、決闘に至る理由は様々だが、精霊学園の名物であり、名勝負はそのまま記録されるとか何とか。
今朝急遽決まった俺とフィオナの決闘だが、やはり噂の伝播は早いもので、決闘場の観客席は満員御礼だった。
「やっちまえー!」
「ぶっ殺せー!」
なんて不穏な声援が聞こえてくるが、決闘場にはどんなダメージも無効化する高度な魔法が張り巡らされているため、死者が出ることはまずない。
「取り返しの付かない事になったぞコレ。どうしてくれるんだよゼロ」
この盛り上がりで、やっぱり決闘はありませーんなんてこと言ったら、あっという間に決闘からテオ・リーフの処刑ショーに早変わりだ。
「いやいや我が主。これはチャンスなのではないかな?」
「チャンスぅ?」
「この戦いで君の力を知らしめるのさ。精霊と契約出来なかった劣等生ではなく、一人前の魔法師になったことを証明するんだ。ついでに僕の力を制御できる人材であるという事もアピールできるかもね」
外を見てみると、大混雑の観客席の最前列には、教師陣がちゃっかり座っていた。
何やってんですかと言いたいけれど、彼らは教育者である以前に神秘を探求する研究者。
無の精霊の力を目の当たりにできるチャンスとあれば、仕事をほっぽりだして観戦するのも仕方ないのかもしれない。
「それとも、我が主は彼女とは戦いたくなかったというのかな?」
「いや、そう言う訳じゃないけど」
精霊と契約した暁には、フィオナと一戦交えたいとは思っていた。
けどそれは精霊の力をちゃんと使いこなせるようになってからの話で、契約して一日で戦うのはいくらなんでも蛮勇というものだ。
何せ相手はこのクラス――否、学園でも余裕で上位に食い込むレベルの魔法の使い手なんだから。
「どっちにしろ、必ず通らなくてはいけない道だったということさ。僕はそれをショートカットしてあげたという訳だ。お分かりかい?」
「ショートカットしすぎだろうが。あと、あれはいくらなんでも言い過ぎだ」
さすがに俺もあそこまでのことは思っていないぞ。
「じゃあ行こうか。すでにあちらさんは準備万端のようだしね」
既にフィオナは決闘場の中央に立っていた。
キャーと黄色い悲鳴が上がる。
中には恍惚の表情を浮かべてぶっ倒れる生徒もいた。
「……これ、完全アウェーな気がするんだけど」
「気のせいじゃないよ。正真正銘、君はアウェーだ。何せ精霊をけしかけて彼女を侮辱したんだからね」
「けしかけるどころか自発的にやってたよな?」
「端から見たらそう、という話だよ。本人がどう思っていたかなんて背景は関係ないのさ」
「ご高説ドーモ」
もうどうにでもなれ、と頬を叩き、俺達も決闘場へと向かう。
一気にブーイングの比率が上がった。
「おくたばりやがりなさいませー!」
「よくもお姉様を侮辱しましたわね平民が!」
特にフィオナのファンクラブ(実際にあるらしい)の会員と覚しき女子生徒の罵倒がすさまじい。
言葉遣いが無茶苦茶になってるし、お姉様とか言っているがそう言った生徒の制服のリボンを見る限り上級生だったりと、そこはかとなく関わってはいけない雰囲気がひしひしと感じられる。
「テオー! ぶちかませー!」
おお、俺にも声援が、と声の主を見ると、
「……何やってんだおまえ」
焼きそばを焼いてるロックの姿があった。
「見ての通りの屋台だよ。サンキューな! おまえらのおかげで大盛況だ!」
さすが大商会の御曹司。
こちらが苦笑いするしかないまでに逞しい商魂だ。
「先生の許可は取ったのか?」
この手の出店は学校の許可を取らないといけないというルールがうっすら存在していた気がするんだが。
「取ってねーけど、夜見センセーも買いに来てたし大丈夫だろ」
「あんな不良教師参考にすんな」
全ての元凶であるゼロは、満面の笑みで観客達に手を振っている。
呑気なやっちゃと思いながら、フィオナと相対する。
「……まさか来るとは思わなかったわ」
「尻尾巻いて逃げるとでも?」
「ええ、そうね」
そこは否定して欲しかったのだが。
「けど悪いのはどう考えたってゼロ――」
「やっかましいわ。遅かれ早かれ、あなたは潰すつもりだったからいい機会よ」
「だってよ我が主」
「同じ事考えていたってことか……」
「相思相愛というヤツだね」
「「絶対に違う」」
ハモった。
「勝利条件はどうする?」
決闘に勝利する条件は、生徒が自由に決めることが出来る。
一番メジャーなのは、実戦ならば致命傷になる部位にダメージを追わせるという条件だ。
「決まってるじゃない。どちらかが降参するまで、よ」
「……マジか」
その条件は、一歩間違えば泥沼の様相を呈することを意味している。
どちらかが参ったと言わなければずっと続く戦いだ。
技量の勝負に見せかけて、その実根比べと言ってもいい。
「ご不満?」
「いや、そっちの方が都合がいい」
純粋な技量を競うのは、正直不安が残る。
だが降参で決着が付くのならば話は別だ。
どれだけ不利だろうが、降参さえしなければ負けないってことだからな。
「おいおい、そこはどーんと構えてもバチは当たらんと思うがね」
「勿論勝つつもりだ。けど俺、これがデビュー戦なんだぞ?」
気分が高揚しているのと同時に、不安もかなりあるのだ。
「ま、それも否定できないか。けど安心したまえ。君には僕が付いている。僕が君を、勝利に導こう!」
そう言うゼロはとても頼もしく見えた。
よく考えてみればコイツが原因でこんなことになっているので、マッチポンプとも言えるけど。
フィオナは数歩後退して、精霊剣を抜いた。
暴風をイメージした装飾が施されたその剣は、荒々しくもどこか気品を感じられる。
俺も慌てて後退しつつ鞘に手を延ばすが、思いっ切り空を切った。
ゼロと契約してから、剣が鞘に収まっていないことをすっかり忘れていた。
ああ恥ずかしい。
「まったく慌てん坊だな君は。剣ならすぐ隣にいるだろう?」
くすくすと笑いながら、ゼロが手を差し伸べてきた。
「う、うるせ。ついクセでやっちまったんだよ」
その手を取った瞬間、ゼロの体は光に包まれ、剣へと姿を変えた。
「テオ・リーフ。精霊剣無式――零」
「フィオナ・ルザーク。精霊剣風式――
「いざ」
「尋常に」
「「勝負――!」」
同時に地面を蹴る。
フィオナは前に。
俺は後ろに――つまり逃げる選択をした。
「ちょっと、どう言うつもり!?」
「真っ正面からぶつかって勝てると思う程自惚れてないんだよこっちは!」
フィオナの精霊剣は、俺と同じ片手剣タイプ。
同じ武器タイプを使う場合、使い手の練度が如実に表れる。
年単位で研鑽を積んでいるであろうフィオナに、正々堂々剣技で勝とうなんて甘い考えは捨てている。
「まるで搦め手なら勝てると言わんばかりね――!」
狂飆の刀身が魔力を帯びる。
来る――!
フィオナが契約しているのは風のエレメンタル。
彼女の使う魔法がどのようなものかは頭に入れてある。
フィオナは狂飆を真一文字に薙ぎ、その軌道を模した魔力の刃を撃ち出した。
魔力の刃を飛ばす斬撃魔法。
全属性共通の基本魔法だ。
「こっちだって――!」
打ち消すべく、斬撃魔法を撃つ――が、何も起こらなかった。
「はい?」
しかし魔法はすぐそこまで迫っている。
慌てて地面を転がり回避した。
もう一度やってみる。
しかし結果は変わらない。
「おいゼロ!? どう言うことだよこれ!」
『落ち着きたまえよ。君は情緒を理解していないようで困る』
「情緒?」
『この場にいる人間の大半は、僕達の力を知りたがっている。それは君も理解しているだろう?』
「そりゃそうだけど」
『力をお披露目するには、もう少し待って焦らすんだ。それが最高潮に高まったところで解放する。するとどうだい、会場のフラストレーションが一転。ボルテージ最高潮ってわけさ』
「先達の契約者がおまえに散々苦労をかけさせられたことが理解できたよチクショウ!」
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