第19話 覚悟
「シン、姿勢を低くしてこの下に入れ」
ルーカスが途端に険しい表情になり、神坂を庇いながらカウンターの下へ誘導する。
神坂の妙な感覚はまだ続いている。
間違いない。
すぐ近くに何かいる!
「ルーカスさん、転生者って?」
神坂は周りに聞こえないよう、声を潜めてルーカスに問う。
「そうか。知らないのか?」
「はい」
神坂がそう返事をした時、ルーカスがほんの一瞬だけ怪訝な顔をしたように見えた。それからすぐにルーカスはいつもの穏やか表情になった。
「転生者ってのは、神から力の一部を譲り受けた者のことだ。転生者達の力は、俺達が普段使っている魔法や魔術とは訳が違う。それはこの世界の理から外れた、万物を司る能力だと言われている」
万物を司る能力……?
この言葉に、神坂は引っかかった。
なんか似たような言葉を以前に聞いたことがある気がする。
「奴らの力は規格外だ。そういや一説によると、転生者は別の世界から来た存在なんじゃないかと学者達の間で囁かれてるみたいだな。だからなのか、俺たちとは思考や身体能力が根本的に違う。まぁ、それはともかく危険な連中であることは確かだってことだ」
爆破の音がさっきより近くなってきた。さらに、それに混ざって人の叫び声のようなものまで聞こえてくる。
外はどうなってるんだ?
想像しただけで吐き気がした。
神坂の額から嫌な汗が流れる。
「シン、俺は外の様子を見てくる。お前はここでじっとしてるんだ。それで音が止んだら少しでも遠くへ逃げろ。いいな」
「いや、でも」
そう言って引き止めようとした神坂は、ルーカスの目を見て思いとどまった。その目から伝わる気迫に圧された神坂は、それ以上何も言えなかった。不安で神坂の表情が曇る。
「そんな顔をするなって。大丈夫だ」
「ルーカスさん、戻ってきますよね?」
神坂がそう言うと、ルーカスは口元だけ微かに笑ったような不思議な表情をした。そしてその後、ゆっくりと立ち上がった。
「あぁ、後で必ず合流しよう。それと、ひとつ言い忘れてたんだが。転生者の特徴は眼だ。奴らは力を使う時、瞳が色鮮やかな赤色になる。それが転生者である証だ。いいか? 赤い眼を見たら、とにかくそいつからすぐに離れるんだ」
ルーカスは最後に神坂にそう言い残して、店を出ていった。
それから少しだけ外が静かになった。そう思ったのも束の間、爆発はより大きくなって、再び何度も鳴り響く。戦火は確実に激しさを増していた。
神坂はその場でただ頭を抱えてうずくまることしかできなかった。
爆発が起きてから、どれくらい経ったのかはわからない。
突然、外の音が止んだ。
店内に残っていた人達はみんな揃って、店の外へ飛び出していった。
神坂はカウンターから出て、店内に一人佇む。
ここで逃げるべき、なんだろうな。
「でも……」
神坂は店の外へ出る。
ついさっきまでの活気に溢れていた街の姿は、もうそこにはなかった。
目の前に広がるのは燃え盛る瓦礫の山。
これをたった一人がやったっていうのか……。
神坂は大きくため息をついた。
「……酷いな。これじゃまるで」
いや、やめよう。
これ以上は言いたくない。
また妙な感覚。
瓦礫を越えた先に何かいる。
さっきからずっと感じている、この気配。
その正体に神坂はなんとなく気づいていた。
わかってるんだ。
この先に居るのは、転生者なんだろ?
「よし、行くか」
神坂は気配のする方向へ走り出した。
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