第18話 転生者
それから数日間、神坂はルーカスとサバイバル生活をしながら、街を目指して旅をした。
そして、遂に……。
「シン、着いたぞ」
その街は周囲が山や丘に囲まれた平地、いわゆる盆地という場所にあった。
「ここが交易の街、ランテスだ」
「ここが……」
石畳の広い大通りの路が目の前に真っ直ぐ伸び、その両脇に石造りの家が立ち並んでいる。それぞれの家の前にはテントのようなものが設置され、その下には野菜や果物などが箱一杯に詰めて並べられている。
そこは、屋外にある大規模な市場だった。
「よし、ちょっと見ていくか」
ルーカスに連れられ神坂は市場の中へと進む。
市場には他にも魚のような物や鳥らしき食材、衣服や工芸品まで何でも売っていた。それらを目当てに多くの人が市場の中を忙しなく行き来している。
「まずは、服だ。流石にこの恰好じゃあな」
神坂の服は汚れや傷みが酷く、とても見栄えの良いものとは言えなかった。すれ違う人たちから時折奇異の視線が神坂に向けられる。
「シン! こんなのはどうだ?」
ルーカスが適当な服屋に入り、神坂に似合いそうな服をいくつか見積もって持ってきた。
「ありがとうございます。でも、俺お金持ってないです」
神坂は周りの客に聞こえないように、小声で申し訳なさそうに言う。
「金なら俺が出すから、シンは好きなのを選べ」
ルーカスにそう押し切られ、神坂はその中で一番地味で安そうな服を選んだ。
「次はメシだ」
そう言いながらルーカスは、通りの奥へどんどん進んでいく。神坂は人混みを避けながらルーカスの後を追った。
「ここにしよう」
ルーカスはある店の前で立ち止まった。レンガ造りの建屋に、大きな煙突がトレードマークのおしゃれな外観の店。入口の上には大きな看板がある。看板にはどこの国のものとも違う異界の文字で何か記されている。
「レッドバード亭……?」
あれ? 文字が読める。
「なんだよ。シン、この店知ってたのか?」
「いえ、初めてです」
看板には相変わらず謎の文字が羅列されている。しかし、何が書いてあるかははっきりと読み取れる。神坂はなんともいえない不思議な気分になった。
「カウンターでいいか?」
「はい」
ルーカスと神坂はそのまま店に入り、奥のカウンター席へ腰掛けた。店内は多くの客で賑わっている。ルーカスがウェイターを呼んで、手早く注文を済ませた。
「お待たせしました」
運ばれてきたのは鳥の丸焼きだった。こんがりときつね色になるまでじっくり焼いてある。全体にはソースのようなものがたっぷりとかかっていて、ハーブの効いた良い香りが漂っている。
「ほら、遠慮せず食え」
「いただきます」
神坂はナイフとフォークで丁寧にひと口に切り分けて食べた。
「どうだ?」
「美味しいです!」
お世辞ではなく心の底から出た、美味しい。隠し味のスパイスが鳥の旨味を存分に引き出している。歯ごたえも良く、噛めば噛むほど味が濃く深くなっていく。
神坂がもうひと口食べようとした時だった。
ん? なんだ、この感覚?
何かが近づいてきているような気配を感じる。
それからすぐに何かが爆発したような、けたたましい音が外から聞こえた。
店内が一気ににざわつく。
そこから間髪入れず、また外から同じような音が何度も聞こえた。
「転生者だ! 転生者が駐屯地を襲ってる。この辺も危ないぞ!」
店のドアが勢いよく開き、通行人の男性が顔を覗かせながら、中の人々に向かって大声で呼びかける。
それを皮切りに怒号や悲鳴のようなものが一斉に店内を飛び交った。それぞれ慌ててテーブルの下に潜ったり、外へ駆け出したりして店のあらゆるものが散乱する。店内は一気に地獄と化した。
今、何が起きてるんだ?
この中で唯一、神坂だけが状況を理解できていなかった。
「転生……者?」
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