第14話 自分じゃない誰か
こうしてルーカスと神坂は行動を共にすることになった。早速道に沿って、目の前に広がる草原へと入る。遠目から見えていたゾウみたいな巨大生物の足元が間近に迫ってきた。足だけで神坂の身長を優に超えている。神坂は巨大生物から少し距離を取って歩いた。
「こいつは草食だから平気だ」
ルーカスが神坂の反応を見て、フォローを入れる。巨大生物の顔の方を確認すると、ゆっくりと草を食べていた。
それから神坂たちはさらに道を辿って草原を抜け、平地に差し掛かった。道の脇には大きな川が流れている。川底まで見えるほど透明度の高い水が、ゆっくり下流へ向かって進んでいる。
「疲れただろ? ここで少し休んでいこう」
ルーカスに促され、神坂は川岸に腰を掛けた。砂埃や汗で汚れた顔を川の綺麗な水で洗い流す。神坂は水面に映る自分の顔を見て驚愕した。
「誰だ、これ」
川に浮かんでいたのは、知らない青年の顔だった。神坂は驚きのあまり、思わず後ろに飛び退いた。
「シン! どうした!?」
近くにいたルーカスが血相を変えて駆け寄ってきた。
「いえ、ちょっと体のバランスを崩しただけです」
神坂は必死に取り繕って、その場をやり過ごした。
神坂はもう一度、川の水面で自分の姿を確認してみる。そこには金色の髪に青色の瞳、目鼻がくっきりと整った顔の青年が映っていた。体つきもまるで違う。面影すらない、まったくの別人がそこにいた。
何もかもが違っていた。どうして今まで気がつかなったのか不思議なくらいに。
色々と思考を巡らせた結果、神坂は一つの結論に至った。
もしかして、生まれ変わったのか。
この世界に適応できるように。
そう考えると合点がいく。まずこの見た目だ。顔の特徴がルーカスと似ている。堀の深い顔立ちは、とても日本人である神坂と同じ人種とは思えなかった。それに瞳の色もルーカスと一致している。
次に言語だ。ルーカスの見た目はどう考えても日本人とはほど遠く、他の国の人間としか考えられない。それにそもそもここは異世界だ。なのに普通に彼の言っている言葉を理解できた。しかも自分の発した言葉も相手に通じている。
最後に空気だ。空や大地を見る限り、どこも自分の見知った普通の景色とは違う。なら大気も元の世界とは違うのではないだろうか。なぜ当たり前のように呼吸ができるのか。
夢で聞いたあの謎の声を思い出す。
(あなたはこの世界で新たな命を得ました)
あれは、そういう事だったのか。
「夢じゃなかったんだな……」
「おい、シン! これ見てみろよ!」
ルーカスが興奮気味に神坂を呼ぶ。その声で神坂は我に帰った。言われるがまま、神坂はルーカスが手に持っているものを見た。
「うわっ、でっかい魚ですね」
ルーカスの手には神坂が見たこともない色と形をした魚が握られていた。
「ほら、シンもやってみるか?」
ルーカスが神坂に何かを手渡す。木の棒のようなものに糸が垂れ下がっている。糸の先端には、浮きみたいな球体が付いていた。神坂はこの道具が何なのかを知っていた。
「これは、釣り竿ですか?」
「何だ知ってるのか」
「まぁ、やったことはないですけど」
「そうなのか。じゃあ、やってみるか」
ルーカスから丁寧なレクチャーを受け、神坂は生まれて初めて釣りをした。
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