第6話 遠い場所へ
神坂はこの〝異世界〟という言葉に惹かれた。
それはまさに神坂が求めていた答えそのものだった。確かに生きる気力を失ってはいたが、自分で自分の命を断つほどかと言われるとそうではなかった。もし叶うのなら、不可抗力的に死を迎えたい。
それができないのであれば、消えてしまいたいと思った。どこまでも遠く、自分のことを誰一人として知らない世界。そんな場所に行きたかった。
もし、本当にそんなことができるのなら。
神坂はこの都市伝説を実践することにした。
異世界へ行くための手順は以下の通り。
1.エレベーターのある9階以上の建物へ行く
2.周りに誰も居ないことを確認してからエレベーターに乗る
※中に誰かが居たらやり直してください
3.フロアのボタンを4階、5階、2階、1階、9階の順に押す
※1階までに誰かが乗ってきたらやり直しです
※1階で誰かが乗ってきます。首から上は絶対に見ないでください
※もしやめるなら9階に到着する前に降りてください。9階に着いたら手遅れです
4.エレベーターが9階で止まったら降りる
5.電車に乗り、3駅目で降りる
6.ポケットに入っている切符で改札を出る
まず神坂は職場近くの街まで出て九階以上の建物を探した。幸い神坂の職場付近はそこそこ発展した街なので、候補は多かった。しかし、人がいないとなると範囲はかなり絞られる。
もうとっくに日も暮れて人出もほとんどなくなった頃、ちょうど良さそうな場所が見つかった。そこは神坂の職場から二駅離れたところにある繁華街の少し外れにある古びた雑居ビル。この時点で時刻はすでに深夜二時を過ぎていた。
雑居ビルには古いスナックや消費者金融、どこかの会社が倉庫代わりに使っているフロアなど、まともなテナントが見当たらなかった。ビル自体も老朽化が著しく、いつ取り壊されてもおかしくないような風貌をしていた。不気味な雰囲気が漂っていて少し嫌な予感がしたが、神坂は構わず中に入った。
神坂は周りに人が居ない事を確認してからエレベーターに乗り込んだ。中には誰も乗っていない。神坂が四階のボタンを押すと、エレベーターはゆっくりと動き出した。
そこから二階に着くまでは順調に進んだ。問題となるのは一階。神坂は自分の心臓の鼓動が速くなるのを感じた。
まさか、怖くなったのか?
それもあるが、神坂は同時に幼少期の都市伝説調査遊びで味わっていたスリルを思い出して高揚していた。
一階に到着したエレベーターの扉が開く。
咄嗟に神坂は下を向いた。
そこには人の足があった。
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