第12話 今度はなぜか生徒会のヘルプに行くことになったんだが…
「ねえ…ロワ」
寮に着いた瞬間にアリシアが俺の服の端を右手で少しだけ掴んで下を向いていた。
俺はどうかしたか?と声をかけると、想定外の返事が返ってきた。
「ぎゅってしていい?」
「は、はぁ?」
さすがに俺でも思考が追いつかず、なにを言っているのかわからなくなってしまった。ぎゅっとって、まさか物理的に抱きしめる方じゃない、よな?
アリシアが小刻みに震えていたため、断りずらい状況になり、仕方なく”いいぞ”と答えてしまった。すると、アリシアは俺に体を寄せてくる。
「ちょっ!」
そのまま背後からアリシアの腕が俺の胴体あたりに絡んで、すっかり背後から抱きしめられた状態になってしまった。
俺はその場に硬直。しばらくして、アリシアが俺から離れた。
「ごめんね。急にこんなことしちゃって…」
「いや、別に」
少し緊張こそしたものの、途中からだんだんそれも薄れていった。初めて幼い時代の経験が役に立った気がする。
「私、上から見てて逆に恐怖感が出てきて…」
「恐怖感?」
アリシアはすぐに立体映像フォンの映像を俺に見せた。
俺の、下から見た視点ではただただ連携がうまく取れている人たち、という印象だった。
それなのにアリシア視点では彼らが目まぐるしく動いている。そして、あっという間にムーンベアを討伐。動画の時間も俺のは4分あるのに対し、アリシアのは2分弱といったところだ。
「アリシアの気持ちを理解した気がする」
アリシアも「そうだよね!」と納得して欲しいのか、はたまた同情して欲しかったのかはわからないが、またいつも通りに戻りつつある。
「でも、急にそういう……のをするのはやめてほしい」
ロワが悶絶する姿を見てアリシアは得意げな笑みを浮かべて言った。
「心配しなくても、これからはロワがして欲しいって言ってもやりませーん」
「ないほうがいいですよー」
俺の返しにアリシアが不服な表情を浮かべるが、しっかりスルー。俺は話題を変えた。
「でも、あんなに速いのに俺から見たら普通の動きしてたんだよなぁ。俺、もしかして認識阻害の魔法でもかけられたのか?」
「それはないと思う。もしそうならあの人たちは人間の領域超えてるし。結界張られてた感じしてたし」
「へ、へぇー」
「え!?もしかして結界すら見えてなかったの!?」
驚きと呆れの混じった視線が俺に向けられた。それでも、俺は首を縦に振った。
「ロワはもうちょっと魔法の訓練した方がいいんじゃない?こんな結界も見えないとこれから、冒険者やってけないと思うんだけど…」
「大丈夫ですよー俺には剣がありますもんねー」
「魔法だって日常生活でも役に立つんだから」
「今魔力がほぼない人に言われたくはないかな」
こんな、状況整理になってない状況整理ははここまでになった。
ムーンベア討伐の報酬は次、冒険者ギルドに行って受け取れば問題ないし、なんならそのついでにもう一件か二件の依頼をこなしてもいいかもしれない。
ロワたちは着替えて、配布物の確認をしながらその後の時間を過ごしたのだった。
ー次の日ー
朝、再び目覚ましの音で一日が始まる。昨日はいろいろあったが、今日はなにもないだろうと自分に言い聞かせつつ、テーブルに置いてあるメモに目を通して朝食を食べた。
そして、また時間が余ったため歩いて登校していると、昨日の道に迷っていた子に出会った。昨日と同じ場所にいるが、困っている様子はなかった。
「あの!」
通学路にあの子の声が響いた。同じ制服を着ているため、さすがに少し辺りを見回すことになったが、まだ朝早く、誰もいなかったのが不幸中の幸いといったところか。
「昨日は本当にありがとうございました!」
「あ、はい…」
その子は頭を下げると、俺は「たいしたことしてないから」と言ってなんとか頭を上げさせた。
誰もいなくてよかった。客観的に見るとすごく恥ずかしい気がする。
「私は一年A組のクリシャです!先輩は?」
「2年A組のロワだ。よろしく」
自己紹介を終えた後、俺とクリシャは一緒に今日、一緒に登校することになった。
「……」
「……」
ただ歩いているだけで、なにも話す話題がなく、気まずくなってしまった。
ここは俺が一つ話題を振ろう。そう決め、俺は少し深く息をする。
「にしても1年生で委員長ってすごいな。大変だろ」
「まだ始まって数日しか経ってないのに、やることがたくさんですよ…。もうヘトヘトです」
「そっか。俺は特にそういうことに首突っ込まないからよくわからない」
うまく話せているのではないだろうか。友達も少ないゆえに俺はコミュ力に自信がないため、心はガクガク震えていた。
「じゃあ、先輩ちょっとだけお仕事体験してみます?」
「ん?お仕事体験って…」
「だから、先輩が私の仕事、つまり生徒会のお手伝いをしてほしくて!」
「急に単刀直入にきたな…」
「今生徒会も役員が足りない状態で、少ない人数で頑張って運営してるところなんです!数回だけでいいので、お願いします!」
つくづく思う。誰も今ここにいなくてよかったー!
さすがに後輩から直に頭を下げられてお願いされたのを断るのは良くないと思う。
かといって、俺にできることなんてない気がするのだが…
「ダメ、ですか?」
頭を上げた後、クリシャが上目遣いで俺を見つめる。これにはさすがに耐えきれなくなった。
「わかったわかった。ヘルプする。だけど、」
俺はそう言って、クリシャの
「いて!」
「「ねえ…ロワ」
寮に着いた瞬間にアリシアが俺の服の端を右手で少しだけ掴んで下を向いていた。
俺はどうかしたか?と声をかけると、想定外の返事が返ってきた。
「ぎゅっとしていい?」
「は、はぁ?」
さすがに俺でも思考が追いつかず、なにを言っているのかわからなくなってしまった。ぎゅっとって、まさか物理的に抱きしめる方じゃない、よな?
アリシアが小刻みに震えていたため、断りずらい状況になり、仕方なく”いいぞ”と答えてしまった。すると、アリシアは俺に体を寄せてくる。
「ちょっ!」
そのまま背後からアリシアの腕が俺の胴体あたりに絡んで、すっかり背後から抱きしめられた状態になってしまった。
俺はその場に硬直。しばらくして、アリシアが俺から離れた。
「ごめんね。急にこんなことしちゃって…」
「いや、別に」
少し緊張こそしたものの、途中からだんだんそれも薄れていった。
「私、上から見てて逆に恐怖感が出てきて…」
「恐怖感?」
アリシアはすぐに立体映像フォンの映像を俺に見せた。
俺の、下から見た視点ではただただ連携がうまく取れている人たち、という印象だった。
それなのにアリシア視点では彼らが目まぐるしく動いている。そして、あっという間にムーンベアを討伐。動画の時間も俺のは5分あるのに対し、アリシアのは2分弱といったところだ。
「アリシアの気持ちを理解した気がする」
だってこの人たち、なんかめっちゃぬるぬる動いててそれなのにちゃんとあの凶暴化したクマを圧倒してるんだから。
アリシアも「そうだよね!」と納得して欲しいのか、はたまた同情して欲しかったのかはわからないが、またいつも通りに戻りつつある。
「でも、急にそういう……のをするのはやめてほしい」
ロワが悶絶する姿を見てアリシアは得意げな笑みを浮かべて言った。
「大丈夫。次はもしかしたらないかもしれないから」
「ないほうがいいですよー」
俺の返しにアリシアが不服な表情を浮かべるが、しっかりスルー。俺は話題を変えた。
「でも、あんなに速いのに俺から見たら普通の動きしてたんだよなぁ。俺、もしかして認識阻害の魔法でもかけられたのか?」
「それはないと思う。もしそうならあの人たちは人間の領域超えてるし。結界張られてた感じしてたし」
「へ、へぇー」
「え!?もしかして結界すら見えてなかったの!?」
驚きと呆れの混じった視線が俺に向けられた。それでも、俺は首を横に振った。
「ロワはもうちょっと魔法の訓練した方がいいんじゃない?こんな結界も見えないとこれから、冒険者やってけないと思うんだけど…」
「大丈夫ですよー俺には剣がありますもんねー」
こんな、状況整理になってない状況整理ははここまでになった。
ムーンベア討伐の報酬は明日にでも冒険者ギルドに行って受け取れば問題ないし、なんならもう一件か二件の依頼をこなしてもいいかもしれない。
ロワたちは着替えて、配布物の確認をしながらその後の時間を過ごしたのだった。
ー次の日ー
朝、再び目覚ましの音で一日が始まる。昨日はいろいろあったが、今日はなにもないだろうと自分に言い聞かせつつ、テーブルに置いてあるメモに目を通して朝食を食べた。
そして、また時間が余ったため歩いて登校していると、昨日の道に迷っていた子に出会った。昨日と同じ場所にいるが、困っている様子はなかった。
「あの!」
通学路にあの子の声が響いた。同じ制服を着ているため、さすがに少し辺りを見回すことになったが、まだ朝早く、誰もいなかったのが不幸中の幸いといったところか。
「昨日は本当にありがとうございました!」
「あ、はい…」
その子は頭を下げると、俺は「たいしたことしてないから」と言ってなんとか頭を上げさせた。
誰もいなくてよかった。客観的に見るとすごく恥ずかしい気がする。
「私は一年A組のクリシャです!先輩は?」
「2年A組のロワだ。よろしく」
自己紹介を終えた後、俺とクリシャは一緒に今日、一緒に登校することになった。
「……」
「……」
ただ歩いているだけで、なにも話す話題がなく、気まずくなってしまった。
ここは俺が一つ話題を振ろう。そう決め、俺は少し深く息をする。
「にしても1年生で委員長ってすごいな。大変だろ」
「まだ始まって数日しか経ってないのに、やることがたくさんですよ…。もうヘトヘトです」
「そっか。俺は特にそういうことに首突っ込まないからよくわからない」
うまく話せているのではないだろうか。友達も少ないゆえに俺はコミュ力に自信がないため、心はガクガク震えていた。
「じゃあ、先輩ちょっとだけお仕事体験してみます?」
「ん?お仕事体験って…」
「だから、先輩が私の仕事、つまり生徒会のお手伝いをしてほしくて!」
「急に単刀直入にきたな…」
「今生徒会も役員が足りない状態で、少ない人数で頑張って運営してるところなんです!数回だけでいいので、お願いします!」
つくづく思う。誰も今ここにいなくてよかったー!
さすがに後輩から直に頭を下げられてお願いされたのを断るのは良くないと思う。
かといって、俺にできることなんてない気がするのだが…
「ダメ、ですか?」
頭を上げた後、クリシャが上目遣いで俺を見つめる。これにはさすがに耐えきれなくなった。
「わかったわかった。ヘルプする。だけど、」
俺はそう言って、クリシャの
「いてっ!」
「だけど、今みたいに上目遣いでお願いするのはよくないからな。やめとけ」
「…はぁい」
クリシャは痛そうに額を抑えているが実際、まったく力を入れていないため、おそらくフリだろう。それでも危なっかしいように見えるが。
「放課後に4階の生徒会室前か、4階の階段近くにいてくれればオッケーです。私が行きますので」
「わかった」
そんなこんなで、俺は生徒会のお手伝いをすることになったのだった。
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