第4話 なんか一緒に住むことになったんだが…?
「はぁ…」
いつもより早く起床し、学園に行くための準備をする。
幸い、今日は始業式とクラス分けだけだからさほど時間はかからない。だが、やはりまたいつもの日々が始まるのかと思うと気が進まなくなる。
目覚ましを止めて、顔を洗って、制服に着替えて、朝食を作って食べる。それが終わったらその日に必要な物をバックに詰めたら終わりだ。
その後、いつも通り速度上げで秒で登校する。こういうときに速度上げは便利だと感じるところだ。
「久しぶりー」
「お、ロワじゃん。休みの間も一人だったのか?」
いつも通り数人、俺を認知してくれているクラスメイトが声をかけてくる。俺はそれに軽く応答して席についた。
学園にはあまり早くは来ない。かといって、遅すぎもダメだから、始まる10分前くらいにいつも来ている。
「クラス、どうなると思う?」
「今年も一緒だったらいいね!」
学期始めにはいつもこの話題で埋め尽くされる。多くの学校は一年に一回しかクラス替えがないらしいが、俺たちの学園は学期始めにそれぞれの前学期での成績や表現に応じて三段階の三つのクラスに分けられる。
「よーし、全員そろってるかー?」
先生が来た瞬間にみんな席についた。その後出席確認をして、アリーナまで移動する。学長の長い長いためになるのかわからないめんどい話を聞いた後、待望のクラス発表の前、俺にとんでもない話が降りかかった。
「ロワ、すまん。ちょっといいか」
生徒指導の先生に小声に呼ばれた。俺、何か悪いことしたか?いや、してないはずだが…
俺は列を抜けて、先生のところまで行った。
「今日、転校生が一人いてな…そいつがおまえの知り合い?らしいんだ。アリシアって子なんだが、知ってるか?」
俺の脳内が思考停止する。真っ白だ。まるで、俺の世界が静止したみたいに。
「…大丈夫か?」
先生の声で現実引き戻される。なにも考えていなかったせいで思わず、
「はい」
「じゃあすまんが、この後プリント類を全て渡すから、クラス発表が終わったらそのまま学校案内をしてくれないか。こちら側の予定がパンパンでな…」
面倒なことになってしまった、というのが素直な感想である。アリシアがまさか転校してくるとはな…
「はい」と言ったからにはここで断るわけにはいかない。
「わかりました。後でプリントを先生からもらえばいいですか?」
「寮のポストに入れておこう。案内が終わったらそれで多分今日は終わりだから」
俺は頷いて、そのまま先生にアリシアがいる個室へと案内された。
「それじゃ、少し気まずいとは思うが、よろしく」
全然気まずくないし、冒険者という立場からしたらパーティーメンバーなんですけどね?
「よう」
俺はドアを開けて中に入った。すると、
「わーい!」
アリシアが俺に抱きついてきた。普通に力加減が強すぎて体中が少し痛い…
「ほら、案内してやるから。行くぞ」
そう言って、俺たちは個室を出て一号館の廊下を歩いている。今はまだ始業式の途中で先生含めて誰もいないため、俺たちの足音だけが廊下に木霊していた。
「つれないなぁー。もうちょっと喜んでもいいじゃん?」
「むしろその逆かもしれないぞ?」
「えぇー、それはアリシア悲しいー」
「はいはい。で、ここが魔法実習室な」
「おぉー、薬とかいろいろ置いてあるー!危ないやつとかもあるの?」
「まあな。でも、そういうのはたいてい先生が触った瞬間にその者に電撃が走る魔法かけてるから問題ない」
「今度解析してそれ解こ」
「やめとけ?」
そんな感じで、学園案内はうまく進んだ。おそらく、先生も今誰もいないからこそ、いろいろ話せて案内しやすいと思ったのだろう。
普通に教室の前とか通るから結構恥ずかしいし…
「でさ、ロワはAクラス何組?」
「2組だな。アリシアは?」
「私も2!やったね!一緒のクラスー!」
普通にアリシアが喜んでいる。それには俺も思わず、クスッと笑ってしまった。
「あ、今私のことバカにしたでしょ」
「してないしてない」
「え?でもロワは先生に何組か言われてなかったよね?なんで?」
「実は裏技があるんだ」
その裏技というのが非常に単純で、段階の変動がない、かつクラスでの生徒番号があるのだが、それがAクラスは偶数、Bクラスは奇数、Cクラスは3の倍数の番号がクラス変動がないのである。
ちなみに、この法則はここ数年から始まったものらしく、先輩がいうにはこの法則が破れたのを見たことがないらしい。
俺がそれをアリシアに説明すると、
「へぇー。そんなのがあるんだー」
外の試験用グラウンドに興味津々だった。グラウンドは、外に2つ用意されており、一つがいつも使うグラウンドなのだが、もう一つが結界が入念に張り巡らされている。
「試験用グラウンドだな。結界が貼られているけど、俺でももう解き方を見つけてるから多分アリシアだと一瞬で解ける」
「今度それもやってみるね」
「やめとけやめとけ」
その後二号館、そしてグラウンドにも実際に行ってみて、アリーナに戻ったときにはすっかり空っぽになっていた。
「今日はも終わり?」
「そうみたいだな。まあ、明日から普通に授業あるからちゃんと家から来いよー」
「家はないよ?」
「は?」
家がない?まさか、引っ越してきてない…?
「この学園って、転校試験あるでしょ?それで私がまさかの満点取っちゃって、実技試験で試験官を完膚なきまでに倒したから、その…多少のこういうところが認められたんだよね」
「…」
相変わらず、なにをしてくるかわからない。その一言だ。
そもそも試験官を完膚なきまでって、それ入試でやったら普通に先生たちパニックだからな?
あと、倒したから多少至らないところがあっても認められるのはおかしいと思う。
「待てよ?じゃあアリシアはこれからどこに住むんだ?」
この瞬間、俺の体に激しい悪寒が走った。同時に、俺は
(一応アリシアもちゃんと年頃の女子だし…さすがにないよな。うんうん)
心の中でリピートを重ねる。そして、アリシアの答えは
「ロワの部屋、空いてたよね?」
「……」
予想通りすぎて自分が怖いくらいだ。ってことは、
「俺の部屋に住むつもりじゃないだろうな?」
「そのつもりだったけど」
「あーーーー」
これでも、一応俺の部屋はいろんな特権を持っている。普通に最上階だから見晴らしがいいとか、端だから部屋が普通のと比べて半分広いとか、こっそり魔法で外出しても警備員にバレないとか…あともう数個は出てくる。
「いい?」
「ダメだと言ったら?」
「これから道端で野宿生活…」
「いや、普通に冒険者ギルドで金稼げるだろ」
「それ全部学費に回るの…」
顔と目を見ただけでは、アリシアが言っていることが嘘ではなさそうだ。
だが、俺的にもいきなり同年代の女子といっしょに住むのはいろいろときつい部分がある。
「ダメ?」
アリシアが上目遣いで俺に再び問いてくる。俺はしばらく硬直状態だったが、どうすることもできないと判断した。
「わかったよ……住むときの注意点とかルールとかはまた後で決めるからな」
「はーい!」
あら、いい返事。今日で一番いい返事だったかもしれない。
こうして、親友がいきなり転校するという事態に巻き込まれて、俺の2年生としての学園、そして冒険者ギルドを回すいつもの生活が始まった。
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