第5話 幼馴染が俺の部屋に入ってきた
「お、めっちゃ入ってる…」
ポストを開けてみると、溢れてくるほどのプリントが入ったファイルが入っていた。ファイルを落とさないようにゆっくーり、慎重にポストから取り出す。
その後、さらにそのプリントが落ちないようにバランス感覚を駆使してどうにか部屋まで運ぶことができた。
「多くない?毎年こんな感じなの?」
隣にいるアリシアが俺のプリントを一枚一枚物凄いスピードで見ている。
「…絵面がやばいからやめてくれ」
「これの方が効率がいいの」
「だからって…」
本当に、やばい。こんなに高速でプリントをパラパラと見ていく少女を見たら人はどう思うのか。いや、アリシアは少女じゃないな。
「はぁ〜、内容が多すぎる…」
俺たちのこの学園では、行事日程からいつにどんなテストや小テストがあるのか、全てまとめて知らされる。この時期だ。もし、先生が休みだったり、用事の場合は代わりの先生が来て小テストなどのテストだけはするというテストだけはずらさない主義なのだ。
「さすがは王様が直々に作った学校だね。普通のと比べたらテストとかイベントとかも盛り沢山だよ」
「毎月のテスト日程と行事予定は貼っておくからそれで確認してくれ」
「わかったー。それでなんだけど…」
アリシアが改めて俺の部屋を見渡してから言った。
「私の部屋って、ないの?」
「はい?」
私の、部屋?つまり、自分の部屋という名のプライベート空間が欲しいと。そういうことですね!?
「ないけど。そもそも、ここ俺の部屋だし」
すると、アリシアが今度は二段ベットを指差してー
「でも二段ベットあるじゃん!」
「それはこの部屋が男子2人が住む用に作られているからだな」
「うう…」
思ったよりも現実が残酷だったのか。はたまた自分のプライベート空間を確保できず悩んでいるのか、アリシアは頭を抱えていた。
俺のベットに座って、そのまま考え込む。
話しかけてもなにも応じてこないため、俺は今日配られたプリントの整理を始める。
すると、しばらくしてアリシアが「わかったわ!」と言って両手を合わせた。
「なにをだ?とりあえず言ってみてくれ」
「この部屋に仕切りを作ればいいじゃない!」
「……」
この子は、この部屋を一刀両断でもするつもりなのだろうかと思ってしまったが、つまりはカーテンなどで仕切りを作るということだろう。
「悪くないんじゃないか?ただー」
女子にも一応寮はある。だけど、経済的な事情があって、あまり使う人はいない。逆に、男子には寮がAクラスが全額免除、Bクラスが半額、Cクラスが全額といろんな面から、この学校は実力主義な感じがする。
「女子寮は使わないの!」
数回提案してきたが、頑なにこんな風に押し通してくる。
「女子の方は一人一部屋らしいし、なにがよくないんだか。金も稼げるだろうに」
俺が呟くと、アリシアがさらに強く反発してきた。
「私がみんなの仕事取るのはダメなの!それじゃ、弱い始めたての冒険者さんたちが辞めてくでしょうがー!」
確かに、仕事をあまりしすぎるのもよくないというのが冒険者の実情だ。多くの冒険者は一ヶ所に留まらず、旅をしている。
だが、逆に留まっている者が依頼を全て受けるとその人たちにも迷惑だし、モンスター討伐もしすぎてこの辺りが絶滅してもらっては困る。聞いただけでは、簡単そうなんだけど実は結構頭使うんだよな。冒険者って。
でも、言うところそこか?どんだけ自分の実力信じてるんだよ。
「へいへい、じゃあそれで行くか。どうしてもプライベート空間が欲しいならな。ただ、ベットは流石に分割したらバレるからそのままでやるぞ」
「先生くるの?」
「たまにな。しかも抜き打ちで」
俺の言葉を聞いたアリシアが「あちゃー」という顔をしている。わかるぞ。俺もこれにはあまりいい思い出がない。
「どっちがいい?上か?下?」
俺がベットを指差して問うと、アリシアが即座に答えた。
「上!」
「じゃあアリシアは上で、俺は下。いつもと変わらないから助かる」
俺が冷却庫から冷やしていたジュース二人分をコップに注ぐと、片方をアリシアに差し出した。それを受け取ったアリシアがもう半分飲んでしまっている。
「にしても、よくロワも私がここに住むって言って追い出さなかったよね。追い出すと思ってた」
「追い出さねぇよ。これでも自分のパーティーメンバーかつ、これでも一応親友のおまえを追い出す理由がどこにある」
俺がジュースを飲みながら言うと、アリシアが急に笑い出した。
「っはは。私、これでも女なんだけど?」
危うく、口に含んでいたジュースごと吹き出しそうになり、俺は慌てて口を抑えた。そして、飲み込んでから言い放った。
「いいか?この生活がうまくいかなければ出てってもらうからな。つか、毎期成績トップだったらなにか特権得られるから。それで寮に住みたいってお願いすればいい」
「えぇーーやだーー」
アリシアがまるで駄々をこねる子供みたいに足をバタバタさせている。
「一応俺もおまえもなかなかのリスク背負ってるからな?なんとか一緒に住んでるって他の人にバレないようにしなきゃだぞ」
「はーい」
こうして、なにを仕出かすかわからない親友兼パーティーメンバーと、一緒に暮らす新生活が始まったのだった。いや、新生活は意味が違うか。
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