第3話 なんか幼馴染と再会したんだが
咄嗟にあらかじめ隠し持っていた短剣を構え、いつでも攻撃できるように足元に魔力を込める。
「まあ、そうなるよね」
「おまえ、誰だよ…俺はおまえを知らない」
「けど、私は君のことを知ってる」
魔法で声を変えられていて、さらに黒いローブのせいで性別の判別すらできない。
「姿を見せたらどうだ?もしかしたら見たら思い出せるかもしれないぜ?」
「いいや。それはないね。だって…」
そいつはそう言って、黒いローブを脱いだ。中から現れたのは…
「久しぶりだね!ロワ!」
髪の長い、俺と同い年くらいに見える女だった。
だけど、どうしても思い出せない。
「どこかで会ったか?」
「いや、僕だよ僕!」
「…っ!」
声が一瞬でよくある僕っ子の少し高い声だけど、女の出す声には届かないような声に変わる。あいつだ。
俺の親友、アリシアだ。俺は構えていた剣をすぐに鞘の中にしまう。
親友との再会に俺は安堵を見せていたのだが、その安堵を押し退けてどんでもないことに今気がつく。
「って!おまえ女だったのかよ!?」
「そうだよ?でも、確かに男よりに見せる工夫はしたかな〜」
黒いのに微かな光に照らされて輝く髪の毛をいじりながら、アリシアが俺を見てくる。小さい頃には黒かった目も実は目を奪われるくらいに赤いものだった。
「それをいうならさ、ロワだって普通に名前が女の子よりじゃない?実際にいるかもしれないよ?ロワっていう子」
「とりあえず俺は会ったことがないからなしだな」
「それでもロワはよくあのとき気づかなかったものだよね」
「10年前、まだ6歳だったんだからそんなこと気にするか!」
依然、距離を取ったまま話続ける俺たち。しばらく経って、アリシアが俺に寄ってきた。
「な、なんだよ」
今までこんなに近くまで同い年の女が来たことがないため、俺はすっかりアリシアから視線を逸らしていた。
「見たよ!これ。ほんとにロワは変なところで大胆だよねー。もし失敗してたら人生終わってたよ」
そう言って、ギルドの配布される立体映像フォンで俺の復帰大会の動画を俺に見せてくる。
「気づいて、たのか?」
「そりゃわかるわよ。私くらいの魔術士にもなれば」
「そんなものなのか…」
結構、技などを隠していたつもりなのだが、アリシアには見抜かれていた。いくつかは見抜かれていないため、少し安心した。
「落ち込まないで。ロワが速度上げの魔法を基盤に解析鑑定で秒で相手の急所見つけて即叩く戦法だったなんてそんなの見えてないから」
「筒抜けじゃねぇか!」
アリシアはさらに自分の冒険者としての身分証と今使っている立体映像フォンを裏面にして見せる。
「ん?」
魔術士としてのランクが異常に高いのと、この立体映像フォンの本体のデザインも特別なものになっている。
「これって…」
「私、一番強いの」
「はい?」
「魔術士の中で」
「うん」
「一番強い」
「……」
俺はなにも言わず、ただただアリシアの冒険者としての身分証と立体映像フォンを確かめる。まるで時が止まったかのように俺とアリシアはその場に立ちつくし、風の音だけが耳に鮮明に入ってきた。
「嘘だろ…」
半ば信じられないような感じで呟く。
各職業でトップの冒険者には特別なデザインの立体映像フォンが支給される。もちろん、他にも俺みたいな大会優勝者にも景品の一環として裏に刻まれている星マークの中にもう一つ特別なデザインが施されている。
「ってことはさ」
「最強の魔術師、」
「最強の復帰者」
俺たちはお互いに顔を見合わせる。そして、
「俺たち、最強じゃね?」「私たち、最強じゃない?」
異口同音とはまさにこのこと。
そのあと、なぜかだんだんアリシアが俺と距離を縮めてきながら、休日があっという間に終わった。
その後、俺たちはパーティー登録をしに行って、終わると受付の人が「やばいパーティーの始まりの瞬間見ちゃったー!」と小声で呟いていたのを聞き逃さなかった。
「やばいパーティー、か」
確かに、やばいパーティーかもしれない。だが、パーティーの基本は四人だ。俺たちはまだ二人しかいない。
その後、お互いの実力を測るために少し難しいクエストを受けてみたり、未攻略ダンジョンに少し行ってみたり。
ここ数年で最も充実した一日になったかもしれない。そして俺たちは普通にレストランで食事をし終わったところだ。
「そういえば、ロワはここの王立の学園に通ってるんだっけ?」
アリシアがいちごの乗ったパフェを食べている。ふわふわしたクリームの上に唯一赤いいちごが乗せられている。下の部分にはクッキーやチョコチップが入っていて、チョコパフェなのかいちごパフェなのかよくわからないようなパフェだった。
「まあな。それがどうかしたか?」
「明日から新学期だよね?」
「だなぁ。また学園生活が始まる」
「寮に住んでるの?」
「ああ。その寮がさ、俺だけ一人部屋でしかも一番上の階の端っこっていうボッチを極めし部屋なんだよな…」
ちなみに今さらだが、俺は学園で冒険者であることを隠している。普段は、いつも絡んでくる友達じゃない友達を除けば、誰もいない。
もし仮に俺が冒険者で最近復帰者大会の優勝者だと知れ渡ればこの生活が破綻するどころか、尋常じゃないほどの生徒が俺と同じ班になろうするだろう。自己意識高すぎるかもしれないが。
「へぇ〜」
アリシアが妙に笑みを浮かべている。これは…
「なにか企んでるだろ」
「別に?」
アリシアがパフェに入っていたクッキーを食べる。「んん〜」となんともおいしいといわんばかりの声が飛び出る。
「頼むから俺の学園生活を崩すようなことだけはするな」
「だから、はにも企んでないって」
ちゃんと飲み込んでからしゃべりましょうねー?でも、顔は正直なんだけどなぁ。
特になにも考えず、俺はコップに入っている水を一気に飲む。アリシアも「変わってないね〜」と表情を変えずにいた。
「そんじゃ、また明日な〜」
「うん、また明日」
何年ぶりかの『また明日』を交わした後、俺はギルドで着替えて寮に戻った。
「なにされるんだろう…俺」
昔からアリシアはいつも想像もつかないようなことをしてくる。適当に詠唱してみたら実際に木を倒したこともあったし、かくれんぼをしていたときには広場のどこにもいないと思ったら空にいたこともあったし…
「まあ、いっか」
ちゃんと冒険者になってよかった。もし冒険者じゃなかったらアリシアと再会することもなかっただろうし、これからの想像もし難いわくわくするような日々を送ることができる。
そんなことを思いながら俺は二段ベットの下のベットに腰をかける。そして、2年生としての学園生活が始まったのだった。
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