第10話 体育祭④

沙耶と夏目が帰ってきた。


いつもは沙耶を真ん中にして座るのになぜか今日は俺が真ん中になっている。


「どうした、喧嘩か?」


おそらく違うだろうけど一応確認する。


「違うよ、むしろ仲良くなった。」


「うん、本音を隠さないくらい仲良くなった。」


沙耶が答えて、それに夏目が言葉を付け足す。


「ならいい、お前らが仲違いしたら俺リレーで頑張る必要なくなるし。」


なんかもう頑張る必要ない気もするが夏目の嫌がらせが始まるかもしれないから頑張らざるをえない。


「だからリレーの勝った条件ってなに?」


沙耶が不思議そうに聞いてくる。


「俺が勝ったら教える。」


今教えて負けたら多分沙耶が悲しむ。


「なんでよ。」


沙耶が怒った。


「応援してほしいんだよ。」


俺が冗談でそんなことを言う。


「だったら先にそれを言いなさいよ。」


すぐご機嫌になった。


(ちょろいな。)


「ちょっろ。」


夏目が言葉に出した。


「うるさい。」


「事実だし。」


俺の伸ばした足の間に片手をついて背中側にもう片方の手をついて俺の前で顔を合わせて言い合う。


「のどかだ。」


俺はそれを無視して風に揺れる木の枝を見る。


そんな風に時間を過ごしていたらお昼の時間になった。


お昼はいつも通り中庭で食べる。


だけど座り順はさっきと同じで俺が真ん中だ。


昼の間も俺を挟んで色々なことを話している。


俺は足を伸ばしのんびり曜の作った弁当を食べる。


(ほんと、おいしいな、百メートル本気でやってよかった。)


なんてことを考えながら食べ終わった弁当を片付ける。


「お前らも早く食べろよ、時間なくなるぞ。」


ずっと言い合いをしていた沙耶と夏目に注意を入れる。


「要私達の話なにも聞いてなかったでしょ。」


沙耶がジト目で聞いてくる。


「うん、のんびりしてた。」


「ぶー、内容は聞いてほしくなかったからいいけど、全無視はなんか嫌なんだけど。」


「ほんとめんどくさいね、私は気にしないよ要君は疲れてるもんね、ゆっくり休んでいいんだよ。」


そう言って手を握ってきた。


俺は女の子の好きな体のパーツが鎖骨周りと手が好きだ。


だからこうして手を握られるのはとても落ち着く。


体のパーツではないが頭を撫でるのも好きだ。


「こら、どさくさ紛れになにしてんの。」


沙耶が繋いだ手を離した。


ちょっと残念。


「もう、なんですか、私は要君の為にやってるのに。」


「ただの自己満でしょうが。」


また言い合いが始まってしまった。


でも今度はご飯を食べながらだ。


(ほんと仲良いな。)


ずっと言い合いながら、咀嚼するときは言い合いをやめてを繰り返し食べ終わらせた。


昼休みが終わりまたさっきの木陰に戻った。


お昼の後最初の競技が綱引きなので夏目は行った。


沙耶と二人になった。


「やっと二人だね。」


「そうな。」


ご飯を食べて木陰に居るため眠くなってきた。


「要、未来のことどう思う?」


沙耶の言葉が朧げに聞こえる。


(未来?将来のことか。)


「なるようにしかならないだろ。」


「それって、未来と付き合うこともあるってこと?」


「すー。」


そこで意識が途絶えた。


「要、リレーまで後三十分だよ。」


沙耶の声が左から聞こえる。


目を開ける。


左を向くと沙耶の顔がある。


「おはよう。」


「おは。」


挨拶をして体を起こす。


「要君、私の感触覚えてます?」


(夏目の感触?)


夏目に抱きつく。


「!な、いきなりそんな、嫌じゃないですけど。」


夏目がなんか言っているが頭が起きない。


「こらー、離れろー。」


沙耶が大声を出して体を剥がす。


「顔洗ってくる。」


そう行って水道に向かう。


顔を洗って頭が起きた、なので沙耶と夏目のところを戻る。


また言い合いをしている。


「またやってんのか。」


「未来が悪いでしょ抱きつくなんて。」


「それは要君が求めてくれただけ、沙耶だって私より膝枕してたでしょ。」


「私の後に膝枕したでしょ。」


「その後に膝枕取ったじゃん。」


なんか言い合っているから待機場所に向かう。


(なんかとてもよく眠れたな。)


膝枕とか言っていたが効果があるようだ。


(今度曜に頼もうかな。)


そんなことを考えながら待機場所に着いた。


一緒にリレーを走るクラスメイトは名前がわからない。


まぁどうでもいいが。


頭を切り替えて曜の膝枕に頭がいった。


それを考えていたら第一走者が準備いていた。


俺はアンカーなのでまだ時間がある。

なのでまた曜のことを考えようとしたら。


「清水、ちょっといいか。」


キレそうになったが声の主が進藤だったのでとりあえず話を聞く。


百メートル走の時間違って殺気をあててしまったから。


「なんだ?」


「すまなかった、僕のせいで清水に迷惑をかけた。」


進藤が頭を下げてきた。


「別に、それなんとかしてくれたんだろ?」


沙耶がなにかした後に進藤が来たのは見えた、多分進藤もなにかしてくれたんだろう。


「ああ、とりあえずリレーではちょっかいはかけられないと思う。」


「それは助かる。」


正直リレーで同じようなことをされたら勝ち目はなかった。


他のメンバーが全員転んだり、バトンミスをして俺が走り出した時に他がゴールしていたら勝てないから。


「それより、足大丈夫か。」


「気づいてたのか。」


百メートルでぶつかられた時足を挫いた。


多分捻挫している。


これまでの時間はのんびりして足はずっと伸ばしていたが。


ずっと痛かった、今も痛い。


「まぁ、トラック一周くらいなら無理して頑張るよ。」


三走まででリードがあればいいが。


今二走が走っているが、三位だ。


このままだと相当無理をしなくてはいけない。


「棄権は出来ないのか?」


進藤が心配をかけてくる。


「出来ない、沙耶も見逃してくれたんだ、終わったらすぐ保健室行くよ。」


(行ければ。)


「わかった。」


「ちゃんと本気でやれよ。」


手加減されるのが嫌だから釘を刺す。


「わかってる。」


そう言って自分のところに戻って行った。


そして俺の番が来た。


順番は二組、三組、一組、四組だ。


俺の隣に進藤がいる。


「あんまり、無理するなよ。」


進藤が声をかけてきた。


「もち、適当にやっても勝てるし。」


進藤を煽っておく。


進藤が笑って前を向く。


進藤が先に出た。


その二秒後ぐらいで俺も出た。


(やばいな。)


足が痛い、無理やり走る、進藤が一位になった。


俺も二位になった。


進藤の後ろにつく。


そのまま後ろをついていく。


半分を行ったところで進藤の真後ろについた。


進藤もこちらに気づく。


最後のカーブの直前で足に痛みが走った。


「くっ。」


前に倒れそうになるが右足でギリギリ踏みとどまる。


そしてカーブに入る。


カーブのラストで進藤の横についた。


最後の直線、無理やりラストスパートをかける。


進藤もラストスパートをかける。


そしてゴールテープを切る。


勝った、時間で言ってコンマの差だった。


「やばいな。」


ゴールと同時に倒れた。


「清水!」


進藤の声が聞こえる。


周りもざわついている。


さすがに足が動かない。


「行くよ。」


沙耶の声が聞こえた気がした。


「進藤君、手伝って。」


「ああ。」


そこで意識が途絶えた。




目が覚めた。


(知らない天井だってか。)


時計を見たらだいたい三十分くらい寝ていたようだ。


「起きた?」


保健室の先生が声をかけてきた。


まともに見るのは初めてだ、髪を後ろでまとめ、眼鏡をかけている、歳はぱっと見二十代中盤ぐらいだ。


「はい。」


まさか足の痛みで気を失うとは。


「嫁と旦那に感謝しとけ、ここまで運んでくれたんだから。」


(嫁と旦那ってだれだよ。)


「はぁ。」


「それより、足な、相当やばいから、まぁ俺の腕がいいから病院は行かなくていいが。」


(俺っ子、初めて見た。)


「そすか。」


なんかすごい癖が強い先生だ。


「ただ安静にしろよそれ以上悪化したら病院にぶっこむからな。」


「どこまでならいいんですか。」


次の休みは曜と出かける約束がある。


「自宅で安静がいいが、それだと俺が診れないから学校には出来れば車で来い、後極力歩くな、外出も歩くならやめろ。」


曜との約束が守れなくなった。


「どうしても車が用意出来ないなら俺が自宅診療するが。」


それは曜が嫌がるだろうから駄目だな。


「車はなんとかします。」


「どうしても用意出来ないなら学校休め、三日に一回診れればなんとかなんだろ。」


この人は何者なのか。


「わかりました。」


そう言って立ち上がろうとしたら。


「馬鹿か一人で行こうとすんな、安静だって言ってんだろ。」


そう言って入口に向かった。


「うわ。」


扉を開けたら沙耶と夏目と進藤がいた。


「なにしてんの?」


「いや、先生が話終わるまで入るなって、なぜか耳当てても声聞こえないし。」


沙耶が説明してきた。


周りに誰も居ないからなんだかんだ言って俺は嫌われているのかと思った。


「ここ防音だから。」


ただの保健室に防音って。


「もう、体育祭終わったの?」


競技的にはリレーが最後だからもう終わっていてもおかしくない。


「うん、今は片付けしてるとこ。」


「お前らはサボりか。」


別に平気だと思わせる為に軽口を叩く。


「要を手助けするのが私達の仕事。」


沙耶が優しい表情で言ってくる。


「そっか、夏目、来い。」


さっきからずっと俯いている夏目を呼ぶ。


「うん。」


元気のない返事が返ってきた。


夏目との勝負があるから俺が無理をしたと自分を責めているんだと思う。


(違ったら恥ずいな。)


夏目が俯きながら俺の前に来た。


(どうしよう、なにも考えてなかった。)


「未来、俺のこと気にしてるなら筋違いだからな、ただの自業自得だから、これ。」


そう言って、未来の頭に手を伸ばし頭を撫でる。


「!未来って、しかも頭。」


未来の顔が真っ赤になる。


「なんで未来って呼んでんの、私の時は数年かかったのに。」


沙耶が文句を言っているが無視する。


ちなみに未来と呼んだのは未来が俺のことを名前で呼んだので俺も名前にしようとふと思ったからだ。


「わかった?」


頭を撫でながら優しく問う。


「でも、もしも足に後遺症が残ったりしたら…。」


未来がさらに俯く。


(撫でやすくなったな。)


「じゃあ、その時は責任取って養ってな。」


と、冗談を言う。


「わかった、私が一生養う。」


未来が頭を上げてマジな目で言ってくる。


頭を上げたので手が外れた。


(撫でる時間終了か、てか、養ってくれんのか。)


「ちょっと待て、それはずるい、私も要を止めなかったから同罪だから私が養う。」


沙耶が近づきながら言ってくる。


(ずるいってなんだよ。)


「要君は私に養ってほしいって言ったんだよ、沙耶は駄目。」


「そんなの要にちゃんと聞いてみないとわからないでしょ。」


「要君は私に養ってくれって言ったんだからもう結果は出てるでしょ。」


「ただの冗談を真に受けないで。」


また沙耶と未来が言い合っている。


「進藤、俺の荷物って持ってきてくれたのか?」


二人を無視して進藤を呼ぶ。


「ん、ああ、取りに行くのも辛いだろうと思って。」


そう言って廊下から俺の荷物を取る。


「ありがとう。」


そう言って鞄から制服を出す。


沙耶達もだが未だに体育着なので制服に着替えたかった。


なので、体育着を脱ぐ。


「いや、ここで着替えるなよ。」


進藤に突っ込まれた。


「なんで?」


「いや女子が居るだろ。」


そう言われたので沙耶と未来を見る。


言い合いながらこっちをちらちら見ている。


「別にいいだろ、嫌なら見なきゃいい。」


そう言って着替えを続ける。


ちなみに先生は我関せずという感じで煙草を吸っている。


(校内禁煙だろ。)


そんなことを思いながら着替えを終える。


「もう帰っていいんですよね。」


先生に確認を取る。


「ん、ああ痴話喧嘩鬱陶しいからさっさと行け。」


そう言って手で追い払われる。


「待って、私達も着替えてくるから。」


いつの間にか言い合いを終えた沙耶が言ってくる。


「着替えとけよ。」


文句をたれる。


「だって。」


心配だったと言いたかったのだろう、ありがたいことだが。


「じゃあ早く着替えてこい。」


「うん。」


「じゃあ。」


沙耶と進藤がそう言って出ていった。


「じゃあ私はここで。」


未来がおかしなことを言って制服を取り出した。


「おいこら、お前も来い。」


沙耶に腕を捕まれ連れて行かれた。


「ほんと騒がしいな。」


先生がめんどくさそうに言ってくる。


「そうですね、でも最近あれが落ち着くんですよね。」


沙耶と未来の言い合いは心地よいと感じるようになった。


(まぁ今日から始まったことだが。)


「お前父親に似たんだな、可哀想に。」


(俺の父親を知っているのか?)


「俺の父親を知ってるんですか?」


気になったので素直に聞いてみる。


「ああ、同級生だからな、この仕事だって、嫌なんでもない。」


なにか意味深なことを言ったがそれより。


「同級生ってじゃあ歳四十前後なんですか?」


この人は見た目が二十代にしか見えない。


俺の父親の年齢は覚えてない、多分四十前後だったはずだ。


「ああ、そうだが。」


「あ、そすか。」


人は見かけによらないということか。


「要ー、帰るよー。」


そこで沙耶が保健室に入ってきた。


「ん、ああ。」


ベッドから降りようとすると。


「おい、馬鹿、安静って言ったろ。」


煙草を消して松葉杖を持ってきた。


(なんで松葉杖なんてあんだよ。)


松葉杖を受け取り立ち上がる。


「でも、もう痛くないですよ?」


今足に痛みはない。


「そりゃ痛み止め打ってるからな。」


(なんでもあるなここ。)


「だから、しばらくしたら痛みだすから楽しみにしとけ。」


笑いながらそう言って戻って行った。


「楽しみって、まぁいいか、失礼しました。」


そう告げて、保健室を出る。




「清水の息子か、ほんとに来やがったよ。」


煙草にまた火をつけ煙を吐く。


「あの、親バカ、息子の為にこの俺をこんなとこに務めさせやがって。」


俺は元々結構いい病院に務めていたが清水父に。


『俺の息子が入る高校の保健室の先生になってくれ。』


と言われた。


もちろん断ったが、高校の時の弱味を使って脅してきた。


そのせいで俺は仕方なくこの学校の養護教諭になった。


なるのに必要なことは清水父が全部やった。


昔からあいつはなんでも出来た。


そんなあいつが、俺に頼み事をしてきた、何事かと思ったら。


『俺の息子、多分女の為に無料して大怪我するからその時は頼む。』


なんて荒唐無稽なことを言ってきた。


「まさか、ほんとになるとはね。」


あいつの言うことだから、もしもの時の為に色々準備しておいてよかった。


清水の息子の怪我は正直やばかった、俺が色々やっとかなければほんとに病院送りだった、病院までもったかもわからない。


「あいつ、ここまでわかってたのかよ。」


そんなことを思いながら、煙草の火を消した。

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