第9話 体育祭③
黒崎さんの競技の番まで慰めて黒崎さんは自分の競技に向かった。
ちなみに黒崎さんの競技は借り物競争だ、理由は知らない。
私は運動神経の関係ない綱引きに出る。
黒崎さんが競技に出ている間に私は清水君のところに行った。
「清水君、ちょっといい?」
一組の応援席に向かい清水君を呼ぶ。
清水君が戻って来た時は一組の応援席は凄かった、清水君を称える声で溢れていた。
清水君は表面上は真顔で返していたが内心めんどくさがってたと思う。
「ああ、暇だったからちょうどいい。」
そう言って清水君は立ち上がった。
「じゃあ、人気のないところで逢い引きしようか。」
と、冗談交じりで言った。
「わかった、どこに行く?」
こっちが恥ずかしくなった。
「逢い引きを否定してよ。」
小声で聞こえるように言った。
「人が群ら群らして気分悪くなりそうだから、ここ離れたい。」
(ムラムラ?そんなみんな発情してんの?)
「まぁいいやじゃあ行こー。」
そう言って清水君を連れて待機場所に向かった。
「人増えてるが。」
清水君が文句を言ってきた。
「ふんだ、私を辱めた罰だもん。」
完全に自業自得だったけど清水君のせいにする。
「夏目はいちいち可愛いな。」
(くっ、耐えろ清水君はこういうことを普通に言うんだから。)
そう自分に言い聞かせて真顔を保つ。
「黒崎さんに言いつけるよ。」
清水君に反撃する。
「言って自分が後悔するなよ。」
絶対後悔する、黒崎さんに嫌われるまではいかなくてもまた拗ねられる。
「清水君に口で勝てない。」
「俺、口で負けたことないからな、勝てないと思ったら勝負しないから。」
勝てない勝負はしない、頭がいいな。
「で、なんでここ来たんだ?」
清水君が話を終えて質問をぶつけてきた。
「ん、ああ、黒崎さんに会いに。」
今黒崎さんに清水君を合わせたら化学反応起こしそうで面白そうだ。
「そういえばさっき、沙耶大丈夫だったか?」
やっぱり気づいていたようだ。
「黒崎さんは大丈夫だよ、私が慰めたから。」
そう言って慎ましやかな私の胸を張る。
「俺にバレたのそんなにきたのか。」
実際ほんの数分前まで私の胸に顔を押し付けていた。
至福の時間だった。
「どこから見てたの?」
「最後に夏目のところに戻ったとこ。」
(それだけでわかったのかよ。)
「じゃあなにしてたかは見てないの?」
黒崎さんは清水君に人を追い詰めてる姿を見られるのが嫌だと言っていた。
「角度的に見えないだろ。」
応援席はクラスごとに少し離して真隣に設置してある斎藤さん達は三組寄りに居たから確かに人で見えない。
「なんだ、それを先に言ってよ。」
「知るかよ。」
清水君に突っ込まれた。
「あ、黒崎さん居た。」
黒崎さんを見つけた。
さっき慰めたが複雑な表情をしている。
「な、二人でなにしてるの、ですか。」
黒崎さんが素が出そうになって周りに人が居るのを思い出しやまとなでしこモードに入った。
「逢い引き中。」
清水君には通じなかったから黒崎さんでリベンジする。
「あ、逢い引きって、どういうこと?」
素が出ている。
「騙された、人気のないところ連れてってくれるって言われたのに。」
清水君がやさぐれながら言っている。
「いや、それもそれでどうなの?」
黒崎さんが正論で返す。
「冗談はこれくらいにして、応援に来ただけ。」
これ以上やるとまた拗ねられる。
友達になって知ったが黒崎さんは拗ねるとめんどくさい、可愛いけどめんどくさい。
「後。」
さっき清水君と話したことを耳打ちする。
「ほんと?」
小首を傾げて聞いてくる。
(可愛い。)
「うん、ほんと。」
黒崎さんがとてもいい笑顔になった。
「じゃあ私達は逢い引き続けるね。」
競技が始まりそうだったので黒崎さんと別れる。
「ちょっ、待っ。」
黒崎さんの言葉を待たずに清水君と歩き出す。
「これの為に俺を呼んだのか?」
清水君が不思議そうな顔をして聞いてくる。
「うん、後デートしたいなって思って。」
私は清水君のことが好きみたいだ、でも清水君には黒崎さんと付き合ってほしい。
だからこうして黒崎さんがいない時ぐらいは清水君と一緒に居たい。
「そうか光栄だ。」
冗談なのはわかってるけど喜んでいる自分がいる。
「ここら辺でいいかな。」
校庭の隅っこの木陰で立ち止まる。
「座ろ。」
「ああ。」
二人並んで座る。
ほどよく風が吹き気持ちがいい。
なにも話さないが苦痛でもない。
このまま眠ったフリして肩にもたれかかったら駄目だよね。
私は黒崎さんを応援するって決めたんだから。
(でも。)
目を瞑り肩に近づく。
「おい、ほんとに逢い引きしてんじゃないよ。」
目が見開いた。
黒崎さんが怒った顔をしている。
「あ〜、てへっ。」
危なかった、黒崎さんが来なかったらなにをしてたかわからない。
「てへっ、じゃないほら未来行くよ。」
「どこに?」
黒崎さんが紙を持っていたから多分借り物競争のことについてだろうけど。
「俺はここ気に入ったからここに居るな。」
清水君が私達に言ってくる。
「うん、終わったら逢い引きの続きしようね。」
清水君に手を振りながら黒崎さんに引っ張られる。
「未来、私に気を使わなくていいんだよ。」
黒崎さんが前を向きながら私に告げる。
「え、なんのこと?」
「好きなんでしょ要のこと。」
(!バレてんだ。)
「いや、そんなこと。」
たとえバレたとしても認める訳にはいかない。
「いいよ、最後には私が選ばれるから。」
なんか、心がモヤッとした。
「そんなのわかんないじゃん、私初対面で可愛いって言われたし。」
売り言葉に買い言葉で反論してしまった。
「あれは私をおちょくる為に使われただけでしょ。」
「そんなことないもん、さっきだって可愛いって言ってくれたもん。」
完全に立ち止まって二人で言い合う。
「要は人をおちょくる時なら可愛いって普通に言うから。」
黒崎さんも引かないで反論してくる。
「別に好きでいいじゃん、最後に選ぶのは要なんだから。」
確かにそうだ、別に私が遠慮する必要はなかった、最後に選ぶのは清水君なんだから。
「そうだね、私も清水君が好き、だからもう黒崎さんを応援しない。」
心のモヤモヤが晴れた。
「おい、早く行けよ。」
清水君が後ろから声をかけてきた。
「な、いつから。」
「大丈夫、今来たとこだから。」
黒崎さんは清水君が来てることがわかってたようだ。
私の後ろから清水君が来て、黒崎さんは私の方を見てたから当たり前だけど。
「それより、ビリ確定じゃん。」
三人目の人が今ゴールした為ビリが確定した。
「未来が駄々こねるから。」
「違うでしょ沙耶のせいだもん。」
「沙耶?」
清水君が不思議そうにしている。
「私、沙耶とほんとの友達になったから。」
友達と書いてライバルと読むって意味だけど。
「そうか、じゃあさっさと行け、時間がない。」
清水君がゴールを指さす。
「うん、後でね要君。」
沙耶の手を取りゴールに向かう。
「なに要君って。」
「遠慮しなくていいんでしょ。」
沙耶への宣戦布告の意味も込めていた。
そして二人でゴールした。
「ところでなんで借り物競争にしたの?」
ずっと気になっていたことを沙耶に聞く。
「あ〜、お題で好きな人とかきたら要に内緒で連れてこうかと思って。」
思いのほか理由が酷かった。
「あ〜、で引いたのはなんだったの?」
沙耶が紙を向けてきた。
『ライバル』
ライバル、そう書いてあった、だから私を煽って要君のことを好きだって認めさせたのか。
「それ、どうやってOK判定だすの?」
「両者の合意だって。」
最近の借り物競争は随分めんどくさいみたいだ。
「まぁビリだから判定は適当みたいだけど。」
もう次の借り物競争の組が準備している。
「じゃあ私帰っていい?」
終わったなら要君のところに帰りたい。
「駄目、私が終わるまで待ってなさい。」
沙耶に手を拘束された。
「離せ、私は愛に生きると決めたんだ。」
周りが騒がしいのをいいことに二人でふざけ合う、
今回のことでまた仲良くなれた。
そんな気がする。
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