第8話 体育祭②

夏目と別れてクラスの応援席に着いた。


一部の女子にどうしたのか聞かれた。


腹痛でトイレに行っていたと言った。


心配されたがすぐに解放された。


そしてすぐに俺の準備の時間になった。


(曜のご飯の為に頑張らなくては。)


そんなことを考えながら待機場所へ向かった。


待機場所に着いたら他の組の人がもう居た。


その中におそらく進藤が居た。


(そろそろ顔覚えないとな、ん。)


隣の二組の生徒が挙動不審になっている。


時たまこっちを見ている。


(まぁいいか。)


視線を無視してまた曜のことを考える。


曜のことを考えていたら俺の番になった。


相変わらず二組の奴は挙動不審で進藤もこちらを意識している。


(この組なんかやばいな。)


そんなことを思っていると係の人に準備してくれと言われた。


言われた通りスターティングポーズをする。


「位置について、よーいドン。」


スターターピストルが鳴り一歩目を踏み出す。


「ごめん。」


次の瞬間隣の奴が倒れてきた。


(は?)


ゴキっ


俺は即座に左足を軸にして回って体勢を取り戻した。


ぶつかってきた奴が驚いている。


「お前、後で殺す。」


少し殺気が漏れたようだ。


少し先を走っていて俺の方を意識していた進藤がうずくまった。


それを見て四組の人が足を止めた。


もちろんここでの殺すは社会的にという意味だ、この学校に居られなくするという。


ぶつかってきた奴は怯えて動けなくなっている。


その間に走り出した。


止まっていた進藤と四組の人を抜いて一位でゴールする。


ゴールして立ち止まる。


「あの、ゴールしたらこっちに。」


多分一年生の誘導員の男子が声をかけてきた。


無視して立ち尽くす。


「あの…。」


それでも声をかけてきた誘導員に。


「黙れよ。」


低い声が出て、睨みつけてしまった。


「ひっ、すいません。」


誘導員の子が頭を下げて一歩引く。


「清水さん駄目ですよ、後輩にそんな態度とったら、後で自分が後悔するんですから。」


沙耶が来た。


「すいませんね、清水さん一度怒ると我を失ってしまって、でも後で後悔して自分を責めるんですよ。」


沙耶がなにか訳のわからないことを言っている。


その間に四組の人がゴールした。


二組と進藤は途中リタイアしたみたいだ。


「ほら、行きますよ。」


沙耶に手を引かれてどこかに連れていかれる。


「ちょっとお借りします。」


誘導員の子に一言入れて歩いて行く。


それに抗わずついて行く。


昇降口前のところで立ち止まる。


「少し落ち着いた?」


「あいつは後で殺す。」


話を聞く程度には落ち着いた。


でもまだキレている。


「よし、ちょっと膝ついて。」


「なんで?」


「いいから。」


沙耶が少し恥ずかしそうな、喜んでいるような感じで肩を叩く。


それに従って膝をつく。


「じゃ、いくね。」


そう言われて頭に腕を回された。


「!なにしてんだ。」


いきなりの抱擁。


なにも考えられなくなった。


「大丈夫、一位なんだから曜ちゃんとの約束は果たしたでしょ。」


頭を撫でられる。


確かに曜との約束が果たされない可能性があったからあそこまでキレた。


「うん。」


心が落ち着いてきた。


二分ぐらいその状態が続いた。


「あの、もう落ち着いたんで離してください。」


だんだん恥ずかしくなり敬語になる。


「ん、ああ撫でてるのが楽しくて忘れてた。」


(こいつ。)


沙耶が腕を離した。


「どう?私の胸は落ち着くでしょ。」


沙耶がない胸を張る。


「とても、でももういい。」


そう言うと沙耶がこっちを見てきた。


顔を逸らす。


「なんで顔逸らすの?」


「別に。」


恥ずかしくて顔が見れないとは言えない。


「おいおい、恥ずかしいのかー、可愛いなー。」


沙耶が冷やかしてくる。


「ありがとうな。」


これ以上冷やかされたくないので、シンプルに感謝を伝える。


「うん。」


沙耶が笑顔で返事をする。


「でも、いいことがわかった、要は貧乳好きと、誰が貧乳だ。」


沙耶がなんか一人でなにか言っている。


「俺は貧乳が好きというより巨乳が好きじゃないだけだがな。」


昔アニメを見ていた時に巨乳キャラの性格が悪かった為巨乳が苦手になった。


ただの偏見だが。


「ふーん、でもどうせいざ巨乳の可愛い子がいたら好きになるんでしょ。」


「そりゃ可愛いなら。」


俺の可愛いの基準は性格がいいかどうか。


普通の男子は顔で決めるそうだが、それだからいざ付き合うことになったら思ってたのと違うってなって別れる訳だし。


「結局顔か。」


どうやら俺は普通の男子だと思われているらしい。


「確かに俺の周りって顔がいいのしか居ないから説得力ないな。」


曜も夏目も沙耶もみんな顔がいい。


「くっ、さりげなくやってくるな。」


沙耶が胸を押さえている。


「というか、今気づいたけど、お前髪まとめてんのな。」


今沙耶は髪を後ろでまとめている。


やまとなでしこ運動エディションになっている。


「そっか、要と体育一緒になったことないから見たことないのか。」


小学校の時は髪がそんなに長くなかったし、中学の時も体育が一緒ではなかった。


「どうよ、ギャップに萌えろ。」


沙耶が意味のわからないことを言っている。


「ああ、ものすごく可愛い。」


俺は普段髪を下ろしている子が髪をまとめるとそれだけで可愛いと思ってしまう。


二次元の話だが。


「くっ、初めて可愛いって言われたけど、結構くるなこれ。」


沙耶がまた胸を押さえている。


「ところでお前競技大丈夫なのか?」


沙耶がなんの競技にでるかは知らないが。


「うん私結構後のやつだから。」


だけどもう戻った方がいいだろう。


「でも、私やることあるから戻ろうか。」


「ああ。」


そう言って立ち上がる。


「!」


「要、それ。」


今まではアドレナリンが出て気づかなかったけど違和感がある。


「誰にも言うなよ、リレーもやんなくちゃいけない。」


夏目との勝負があるからリレーを棄権する訳にもいかない。


「うん、わかった、でも終わったら。」


「わかってる。」


そう言って沙耶と席に戻った。




要と戻る途中でさっきの誘導員の子が居たので要が謝った。


その子もあまり気にしてないようだった。


随分とハートが強い。


その後一組の席に着いたので要と別れた。


そして二組の応援席に着いた。


「未来、ただいま、見つかった?」


席の後ろの方で待機していた未来に声をかける。


「うん、見つかったけど、清水君大丈夫?」


未来が不安そうにしている。


怒っていたのはわからなかったろうけど。


「うん、大丈夫そうだったよ。」


とりあえず大丈夫なことを伝える。


「で、どれ。」


少し声のトーンを落として未来に聞く。


「そこの一角。」


席の後ろで纏まっている女子の一角を指さす。


「ありがと。」


お礼を言ってそこに向かう。


(要ほど上手く出来ないだろうけど、要にこれ以上ちょっかいはかけさせない。)


「あの、少しいいですか?」


やまとなでしこモードで話しかける。


「ん、黒崎さん?なに。」


第一印象はギャルだ確か名前は斎藤さんだったかな。


「いえ、さっきの百メートル走で事故があったじゃないですか、それについてなにか知らないですか?」


あくまで下手で聞いていく。


「なんでうちらに聞くの?」


当たり前の返しだ。


「いえ、さっきの事故は進藤君のファンがやらせたという噂を聞いたもので。」


斎藤さんが進藤さんファンなのは結構有名だ。


「ただの噂でしょ、それにそれならぶつかった男子に聞けばいいじゃん。」


そう、ぶつかった男子を問い詰めた方が多分早い。


でもその人が居ない、百メートルが終わってからどこかに行ったようだ。


「居たら聞きたいんですけど。」


「まぁあんなことしたら帰って来れないよね。」


(弱いか。)


「あんなことしたら?事故じゃないんですか?」


こんなんじゃまだ駄目だ、もっと言い返せないことを引き出さないと。


「あんな事故をって意味だよ、黒崎さんさうちらを犯人にしたいみたいだけど関係ないから。」


(さぁどう切り出すか)


「そんなことはないですよ、ただ進藤さんの為に自分の退学をかけるなんてすごいじゃないですか。」


普通にやっても私じゃ証拠を引き出せないからかまをかける。


「どういうこと?」


(乗ってきた。)


「だってそうじゃないですか、どれだけ隠したって人の口に戸は立てられないって言うじゃないですか。」


おそらく今回のことは少なくとも一組の人も関わっている。


だから別にあなた達が言わなくても他の人に聞くからいいと匂わせる。


「ちょっと待って、ちなみになんだけど今回のこと裏で指図してた人がいた場合、その人ってどうなるの?」


(釣れた。)


「おそらくですけど、良くて停学、普通に退学ですかね。」


「悪いと?」


「退学しながら進藤さん含めて色々な人に白い目を向けられるってところですかね。」


笑顔で答える。


正直なところは教師に叱られる程度だろうけど、私は優等生だから私の言葉は結構信じられるみたいだ。


白い目では見られるだろうけど。


「え、ちょっと、困るんだけど、進藤君の為にやったのに進藤君と離れるとか。」「どうすんの、斎藤の指示だから私達関係ないからね。」


斎藤さんの隣に居た女子二人が全部話してくれた。


「は、あんた達も乗り気だったろ。」


醜い擦り付け合いが始まった。


「じゃあ、あなた達がやったってことでいいんですね。」


斎藤さん達に最終勧告をする。


「ちょっと待って、お願い黙ってて。」


斎藤さんが頭を下げてきた。


(ほんと愚か。)


「頭を上げてください。」


「じゃあ。」


斎藤さんが希望を宿した目を向けてきた。


「清水さんに危害を加えたんですよ?なんで許されると思ったんですか?」


私が笑顔で伝える。


「ひっ。」


斎藤さんが怯えた。


(駄目だよ、下手に出ないと…?もういいか。)


「あなた達は清水さんを傷つけただから私はあなた達を許さない。」


笑顔のまま声のトーンを落として話しかける。


「あっ、あー。」


斎藤さんが叫んだ。


今までは周りが騒がしくて聞こえなかったみたいだが今のでこっちに視線が向く。


「何?」「なでしこさんに斎藤さんが泣かされてる。」なんていう声が聞こえてくる。


でもどうでもいい。


「それであなた達はまだ清水さんにちょっかいかける気ですか?」


笑顔は崩さず声のトーンを低くしたまま聞く。


「いえ、もうやめさせます。」


斎藤さんは泣いてしまった。


(目にゴミでも入ったのかな?)


「そうですか、それならよかったです、でももしまた清水さんに迷惑がかかったら。」


そこで止めて斎藤さんに近づき耳打ちする。


「わかりますよね?」


「ひっ、はい。」


斎藤さんは泣いて頭を振る。


「あなた達二人もですからね。」


隣で呆然としている二人にも耳打ちする。


「はい。」「はい。」


二人揃って返事をする。


そうして未来のところへ戻る。


「疲れた。」


「内容は聞こえなかったけど凄かったね。」


未来の顔が引きつっている。


「そんなだった?自覚ないんだよね。」


正直よく上手くいったと思う。


要はいつもこんなことをしていたのかと思うとほんとすごいと思う。


「でも、これで大丈夫なの?」


未来が不安そうに聞いてくる。


「後は本人達に任せる。」


そう言って三組の方を指さす。


進藤君が立っている。


「なるほど。」


進藤君がこっちに向かって来た。


「さっきの清水のは彼女達が?」


「はい、後で録音したので聞きます?」


もちろん、逃げられないようにさっきの会話は録音した。


「否定したらお願いするよ、もう清水になにもさせないようにするから。」


そう言って進藤さんが斎藤さんの方に向かった。


「これで本当に大丈夫かな。」


おそらくこれで要に対する嫌がらせは無くなるはずだ。


「あ、要には言わないでね。」


未来に口止めをする。


「う、うん。」


未来の様子がおかしい。


「どうしたの?」


「いやさ、ここって一組の隣じゃん、だから。」


未来がそう言って一組の席の方を指さす。


その先を見ると。


「!」


要がこっちを見ていた。


「バレてないよね。」


私は未来に確認を取る。


「多分、声は聞こえないだろうし。」


要に隠れてやりたかったのにバレたらなんかやだ。


「どんまい。」


未来に肩を叩かれた。


「も〜。」


変な鳴き声が出たが結果は変わらない。


それからしばらく未来に慰めてもらった。

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