第11話 罰
体の痛みで目が覚めた。
足が痛いのは当然として、全身筋肉痛になった。
俺は運動はできても普段はやらないから筋肉痛になる。
今日は学校が休みなので曜が起こしにくるまで寝ていようと思っていたのに。
「すー、すー。」
隣から可愛い寝息が聞こえる。
「なんで曜が居るんだ?」
隣で曜が寝ている。
この寝顔を見て一日を過ごせるくらい可愛い。
なんでこんなご褒美が起こっているのか昨日のことを思い出す。
保健室を出て昇降口に行き、靴を右足だけ履き替え左の靴を手に持ち校門へ向かった。
鞄は沙耶が持ってくれている。
そして校門に着いた。
「じゃあ、僕こっちだから安静にしろよ。」
進藤が俺らとは逆の道を指さす。
「ん、ああ。」
「大丈夫、私が責任を持って送ってくし面倒見るから。」
沙耶が返事をする。
「お前、面倒ってなにする気だ?」
沙耶に嫌な予感がしたので質問する。
「え、おはようからおやすみまでお世話を。」
「いや、曜に頼むし、そういうのは曜に好かれてからにしろ。」
やってくれるかはわからないが、自分でどうしても出来ないことは曜に頼むつもりだ。
沙耶を家に入れるのは曜が絶対に嫌がるから入れない。
「酷い、私より曜ちゃんがいいのね。」
沙耶がそっぽを向きながら言う。
「なにを当たり前なことを。」
「このシスコン、いいもん、もう頼んでもやってあげない。」
頬を膨らませながら言ってくる。
「じゃあ私が妹さんの居ない時はお世話するね、沙耶はしたくないみたいだから。」
未来がそう言って俺の左の靴を取り、右腕に腕を絡めてきた。
「ありがとう、助かる。」
正直、学校では曜は居ないから誰かに頼む必要があった。
最悪一人で全部やる気だったが。
「な、私がやるって最初に言ったじゃん。」
沙耶が怒りながら顔を近づけてくる。
「でも、もうやらないんでしょ。」
「やるし、頼まれなくてもやるし。」
「そういうの迷惑だよ、要君は私にやってもらいたいんだから引かないと。」
「要はほんとは私がいいけど私が断ったからしょうがなく未来に頼んでるんだよ。」
また始まった。
「ほんと仲良いな。」
「ほんとね。」
ふと口から漏れた言葉に、進藤が言葉を返してきた。
「ていうか、未来いつまで腕にしがみついてんの。」
未来はこのやり取りの間ずっと俺の腕にしがみついている。
「ふん、要君が嫌と言うまで。」
「要、正直に言って、迷惑でしょ。」
沙耶が顔を近づけて圧をかけてくる。
未来は緊張した面持ちでこっちを見ている。
「別に未来なら迷惑じゃないだろ、役得って言うだろこれ。」
俺は未来を気に入っているから別に未来に腕をしがみつかれても嫌悪感はない。
「大好き。」
未来が俺の腕に顔を押し付けてなにかを言った。
なにを言ったかは聞き取れなかった。
「じゃあ、私は、私が同じことしても役得?」
沙耶が少し怒りながら聞いてくる。
「いや、ここで違うとか言えないだろ。」
実際沙耶に同じことをされても拒否はしないだろう。
ただ、いつも沙耶には軽口で答えてしまう。
「要、そんなの気にしないでしょ。」
沙耶が怒っている。
確かに人にどう思われても気にしないから俺は思ったことは隠さない。
「それより早く帰りたい。」
だんだん左足に感覚が戻ってきた。
「そうだね、清水の足も心配だし。」
空気が重くなってきたのを察して進藤がフォローを入れてきた。
「じゃあ、帰ろう。」
未来が何事もなかったように俺の腕を引く。
「いや、お前帰り道逆だろ。」
「要君が心配だから家まで、送りたい。」
未来が上目遣いで言ってくる。
「可愛く言ってもうちは教えないぞ、勝負は俺が勝ったんだから曜に合う可能性は減らす、それに沙耶がいるから大丈夫だろ。」
そう言うと未来が嬉しそうな残念そうな顔をした。
「ふん、今更なにさ私はいらないんでしょ。」
沙耶が拗ねている。
「つまりもう帰りは一緒に帰らないって訳か、じゃあしょうがない、未来、一緒に帰ってくれるか?」
なんかチラチラ見てくるので冗談で言ってみる。
「うん、喜んで。」
未来がそう言って腕を引く。
「駄目。」
沙耶が元気なく俺の制服をつまんできた。
「清水、あんまりいじめるなよ。」
進藤が残念な人を見るような目で見てくる。
「いじめてるつもりはないんだが、未来離してくれるか?」
さすがにやりすぎたので未来を離す。
未来も察してくれて素直に離れた。
「沙耶、帰ろう。」
「うん。」
沙耶に優しく言って、未来から靴を受け取り二人と別れる。
無言のまま進む。
そして無言のまま家の前を着いた。
沙耶がそのまま自分の家へ行く。
「沙耶。」
なんかこのままじゃ駄目な気がして沙耶を呼び止める。
「なに?」
沙耶が立ち止まって振り向いてくれた。
「そういえば、どっちの組が勝ったんだ?」
俺と沙耶のもうひとつの勝負、総合優勝したら沙耶の話を聞くという。
「ああ、要達の組だよ、でも私の言いたかったことは言えたから私はいいけど。」
沙耶の表情がずっと浮かない。
「じゃあ俺の勝ちだな、なら俺の話を聞いてくれるか?」
勝負に託けて沙耶と話をする。
「うん、私が言い出したことだし。」
「じゃあ、いつもごめんな、進藤に言われて気づいたが、俺は沙耶をいつも傷つけてたんだよな。」
何故か沙耶には他の人以上に対応が適当になる。
「そうだよ、未来にはあんなに優しいのに私はどうでもいいみたいに。」
沙耶が悲しい表情で言ってくる。
「そうじゃない、多分無意識でまだ未来には慣れてないんだと思う、だから未来にはまだ気を使ってるんだと思う、それと違って沙耶はある程度は許されると思ってるから対応が適当になってるんだと思う、知らんけど。」
正直自分でもわからない、俺からしたら全員対応は同じだと思っている。
「つまり、私は他より特別ってこと?」
沙耶が憂いを帯びた目をして聞いてくる。
「そりゃそうだろお前はこんな俺を初めて友達って言ってくれた物好きだしな。」
これは本心だ。
別に友達が欲しいと思ったことはなかったが、それでも沙耶と居た時間は楽しかった。
「こっちこそだけどね、私なんかと一緒に居てくれて嬉しかった。」
沙耶の表情が少し明るくなった。
「なんとなく伝わったか?」
正直なにを言いたいのか自分でもわからない。
でもこれで伝わると思うから沙耶への対応が他と変わる。
「うん、要のことは私が一番知ってるもん。」
沙耶がいつもの調子に戻った。
「そうか。」
「うん、だからそろそろ足が辛いのもわかるから早く家入って。」
確かにもう足の痛み止めが切れかかっている。
「沙耶のそういうとこ好き、じゃあ。」
そう一言言って家に入った。
「要のそういうとこ嫌い。」
顔を真っ赤にした沙耶を置いて。
家に入って曜に会った時、曜は駆け寄って来てくれた。
曜に今日のことを伝えた。
体育祭で転んで足を捻ったと。
その経緯は言わなかった。
「私のせい?」
曜が気を落としながら聞いてくる。
「違う、俺の自業自得だ。」
今日で何回目かの説明。
「それより、曜この足絶対安静で買い物付き合うの出来ないから治ってからにしてくれるか。」
曜との約束が最優先の俺は本気で謝る。
「それは、うん、そんなことよりも私が責任取ってお兄ちゃんの世話をする。」
「…。」
お兄ちゃんと言われて感慨にふけてしまった。
正直曜が世話をしてくれるのは助かる。
「どうしたの?」
曜が不安そうな顔で俺の顔を覗いてくる。
可愛い。
「いや、ありがたいなって、お願い出来るか。」
曜に優しい声で頼む。
「うん、おはようからおやすみまで私が世話する。」
なんか聞いたことあるフレーズがあるが、曜が世話をしてくれることの嬉しさが勝って考えることを止めた。
「ありがとう。」
「やっちゃん絡みじゃないよね。」
曜は何故かなにかにつけて沙耶のせいかどうか聞いてくる。
「ああ、俺が甘かっただけだ、むしろ沙耶は俺が暴走しそうになった時止めてくれたよ。」
曜には隠し事が出来ない、俺が妨害にあって怪我をしたことがバレた。
「ほら、やっぱり誰かにやられたんじゃん、私に嘘ついたってことは私のせいなんでしょ。」
違った、曜にかまをかけられた。
曜の表情が暗くなる。
「でも、やっちゃんが戻してくれたんだ。」
曜の表情が少し明るくなる。
曜は俺のガチギレを人伝に聞いたようだ。
「ああ、沙耶には今回色々助けられた。」
進藤のファンも沙耶が対応してくれたし俺の足を黙っててくれたし、俺が倒れた時、一番に来てくれた。
「そっか。」
曜がなにかを考えている。
「うん、じゃあお兄ちゃんがいいならやっちゃんと連絡先交換していいよ。」
どういう心境の変化なのか。
「ああ、わかった。」
別に連絡先交換してなにかあるのかわからないが。
「お兄ちゃん、私のせいで怪我したんだから、私になにか罰頂戴。」
曜が真剣な表情で言ってくる。
「じゃあ、これからもお兄ちゃんと呼んでくれ、たまにでいいから。」
曜にお兄ちゃんと言われると心が踊る。
「それは駄目、恥ずかしいし。」
曜が頬を少し染め目を逸らす。
可愛い。
「じゃあ、世話頼む。」
正直、曜が世話をしてくれるならずっと足を怪我していてもいい。
「それは、するけど、わかった全部私が世話する。」
曜が張り切っている。
(曜が楽しそうでよかった。)
「よし、じゃあまずお風呂行こ。」
(聞き間違いか?)
「風呂って言ったか?」
「うん、その足じゃお風呂大変でしょ。」
確かにこの足で風呂は大変だ、だけど曜と一緒に風呂なんて理性が保てるのか。
「兄妹なんだから大丈夫でしょ。」
俺の心を読んだように曜が聞いてくる。
「ま、曜がいいなら。」
「やった。」
曜が小声でなんか言ったが聞き取れなかった。
そして曜と一緒に風呂場へ向かった。
足を濡らさないようにして、浴室に入った。
少ししてタオルを体に巻いて入ってきた。
内心ほっとした、流石になにもないのは恥ずかしい。
曜が俺の体を洗ってくれる時の艶めかし吐息が理性を壊しにくる。
そういったことの全部に耐え浴室を出た。
曜はついでに風呂に入っている。
「ふー、やばかった。」
曜を悲しませたくない一心で心を沈めた。
「というか、別に一人でも風呂ぐらいなら入れるんじゃないか?」
なんて今更なことを思う。
「ま、別にいっか。」
そう言ってリビングへ向かった。
その後はいつも通り、曜が晩御飯を作ってくれて、片付けをしてくれた。
二階へ行く手伝いをしてもらい自室に入った。
それで、今日は疲れたからとベッドに入った。
そしてすぐに眠りについた。
お兄ちゃんが怪我をして帰ってきた。
どうやら私との約束を守る為に無理をしたようだ。
でもやっちゃんがお兄ちゃんを助けてくれたそうだ。
お兄ちゃんなら自分でなんとかできたろうけど、本気でキレたお兄ちゃんを止められるのは素直に凄いと思った。
お兄ちゃんが本気でキレたのを見たことはないけど、凄いらしい。
やっちゃんは昔とは違うことがわかったから、連絡先の交換を許した。
正直そんなの無視すればいいのに、お兄ちゃんは律儀に私の言うことを聞く。
そして私はお兄ちゃんに罰を求めた。
私のせいで怪我をしたんだから私が罰を受けなければいけない。
そしたらお兄ちゃんは、自分のことをお兄ちゃんと呼べと言ってきた。
私はその時お兄ちゃんって呼んでることに気づいた。
私は慌てたりするとお兄ちゃんと呼んでしまうようだ。
恥ずかしいから駄目と言ったら今度は世話をしてくれと言ってきた。
それは最初からやる気だったが、せっかく要が言ってくれたから私は思い切って、お風呂の世話をすると言った。
どうやら要は私とお風呂に入るのは恥ずかしいらしい、少しは意識してくれているようだ。
私も恥ずかしいが要とお風呂に入りたかったので無理やり押し切った。
流石に裸は恥ずかしいのでタオルを巻いた。
実はお風呂は一人でなんとかなると思うが要が気づいてないので私も気づいてないフリをする。
要のいる浴室に入り要の身体を見る。
少し興奮する。
要の体を洗っている時はずっと息が乱れていた。
要が浴室を出て浴室に一人になった。
「危なかった、後少しで要になにかするところだった。」
ギリギリ一線は越えなかった。
その後はご飯を食べて片付けて、要を二階に送り要をベッドに寝かせた。
要はすぐに眠りについた。
私は要の頭を撫でた。
「頑張ったね、頑張らせてごめんね。」
そう言って出ていこうとしたら。
「曜。」
要に呼ばれた。
(起きてたの?)
焦りながら振り向いた。
寝ていた、寝言のようだ。
「私の夢見てくれてるんだ。」
そう言ってまた腕を伸ばす。
そしたら要に腕を掴まれた。
「え?」
「曜。」
また私のことを呼んだ。
「離れるなってこと?そこまで言うならしょうがない。」
私は要のベッドに潜り込んだ。
そして私も眠気がきた。
私の意識はそこで途絶えた。
要と手を繋ぎながら。
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