第6話 また勝負

テストの一件から少し経ち今度は体育祭が近づいてきた。


今回は勝負がないから気が楽だ。


結局あの後沙耶は勝負のせいで疲れていたということになり今もやまとなでしことして生活している。


夏目は沙耶と仲良くなった。


そのせいなのか、夏目が俺にも絡んでくるようになった。


何故か二人と昼を一緒に過ごすようになった。


夏目と帰り道が違うから帰りは沙耶とだけだが。


俺と沙耶が一緒に居るのはなにも言われなくなった。


進藤はあれ以来会ってない、噂では数日学校を休んだようだが。


まぁどうでもいい。


「め、起きて、また寝たフリしたらもう起こさないよ。」


曜が起こしに来てくれた。


前にまたお兄ちゃんと呼んでくれないかと寝たフリをしたらバレてその日は口を聞いてくれなかった。


「起きます、曜と話せないのは辛い。」


眠いが無理やり起きた。


「そ、じゃあ早く降りてきて。」


曜が少し嬉しそうにして出ていった。


最近は曜がたまにご飯を作ってくれる。


「曜、いつもありがとな。」


曜のいるリビングに向かって聞こえないだろうが感謝を言う。


がた


階段の方で音がした。


(なにか落ちたか?)


そんなことを思いながら下へ向かう。


曜の雰囲気が明らかにいい。


(朝ごはん上手くできたのか?)


「そうだ、め、最近新しい女でも出来たの?」


味噌汁を飲もうとした時に曜が変なことを聞いてきた。


「ん、沙耶に女友達なら出来たぞ。」


夏目のことは曜には言ってなかった。


「やっちゃんに友達?人?」


曜が失礼なことを言っている。


言いたいことはわかるが。


「人だよ、そいつと今昼を一緒に食べてるぞ。」


「ふーん両手に花ってか。」


正確には真ん中が沙耶だから片手だが。


「そうそう、曜の作った弁当綺麗だって好評だぞ、絶対に食わせないが。」


曜の手作りと言ったら沙耶が頂戴と言っていたがせっかくの曜の手作りをあげたくなかったので人睨みで終わらせた。


「ふーん、そ。」


曜が嬉しそうに味噌汁を啜る。


(音を立てないで飲むの上手いよな。)


俺も音はあまり出ないが曜は無音だ。


そう思って曜を見ていると。


「なに?」


疑問に思った曜が声をかけてきた。


「いや、可愛いなって。」


軽口で答える。


「くっ、いきなりそういうこと言うな。」


味噌汁を置いたのを見てから言ったが怒られた。


「ごめんごめん。」


謝ってご飯に戻る。


片付けは怒った曜にやれと言われたので俺がやっている。


「機嫌直った?」


椅子に座ってそっぽを向いてスマホをいじっている曜に話しかける。


「ふんだ。」


(反応はしてくれるんだよな、可愛い奴め。)


「なにすれば許してくれる?」


返事のない曜にはなにを言ってもその日は許してくれない。


返事があればなにかで許してくれる。


ここ数日毎日怒らせているからよくわかる。


「次の休み買い物行きたい。」


曜が不貞腐れながら答えてくれた。


「荷物持ちか、いいぞ。」


ここ数日なにか買ってと言うことはあったが一緒に買い物は初めてだ。


「デートだし。」


「ん?なに?」


水の音もあり小声で聞こえなかった。


「なんでもない、もう行く。」


拗ねた曜が家を出た。


「可愛い奴め」


本人の前で言うと怒られるから居ない時に言うようにする。


「気がつくと言っちゃうんだよな。」


水を止め片付けを終える。


学校の準備をして出る時間なので家を出た。


「だからいつも遅い。」


沙耶が会ってそうそう文句を言われた。


「俺は俺の時間で行くから一人で行けって言ったろ。」


テストの一件から沙耶は毎日朝俺を待って一緒に学校に行っている。


「今日こそ頂戴。」


いきなりスマホを出してきた。


「なにを。」


「連絡先、なんでくれないの。」


沙耶が少し怒りながら聞いてくる。


「欲しいのか?」


あげても構わないが曜にあげるなと言われている。


何故かはわからないが。


「欲しいよ、未来にはあげたんでしょ。」


別に夏目は駄目と言われてないからあげた。


「お前、曜になにかしたのか?」


明らかに曜は沙耶を嫌っている。


「曜ちゃんにはなにもしてない、でも曜ちゃんから許可貰えばいいのね。」


(曜にはって誰にしたんだよ。)


「よし明日頑張る。」


そんな話をしてる内に学校に着いた。


「そういえば、体育祭なにでんの?」


沙耶が話を切り替えた。


「クラス対抗リレーと百メートル。」


「結構目立つの出るんだ。」


去年は目立たないように綱引きに出た。


「俺が外を見てぼーっとしてたら勝手に決められてた。」


多分、俺のことが嫌いな奴らが勝手に決めたんだろう。


「まぁ要運動神経いいもんね。」


別に運動は好きじゃない、だからやりたくないが意見するのがめんどくさかったから引き受けた。


「まぁ別に今回は適当に流して平気だからな。」


別にクラスの奴らも俺に期待してないだろうから適当に流す。


「あ、そうだ、じゃあ百メートルで一位じゃなかったら連絡先頂戴。」


なんかめんどくさいことを言い出した。


「なんで?」


「一位取ったらもう連絡先頂戴って言わない。」


「乗った。」


毎回断るのも面倒なのでそれはありがたい。


「なんか少し傷ついた。」


沙耶がわかりやすく項垂れる。


「じゃ。」


教室に着いたので沙耶に別れを告げる。




「最近要、私に淡白すぎない?」


休み時間に私のところに来た未来に愚痴をこぼす。


未来には素で対応することにした。


「ここ教室だからやまとなでしこ崩さないようにして。」


最近は未来も淡白だった。


「うん、で、どう思います?」


やまとなでしこモードに切り替える。


「清水君は元から淡白な気がするけど。」


確かに要は人に興味がないからみんなに淡白だが。


「でも夏目さんには最初から親しくしていたじゃないですか。」


「仲良くなり初めだからじゃない、黒崎さんぐらい仲良くなるとまた淡白になるんじゃない?」


なるほど、でも。


「曜ちゃんには優しいもん。」


また口調が素に戻る。


「妹と比べないでよ、それに清水君重度のシスコンだし。」


確かに要は曜ちゃんが大好きだ。


「でも…。」


曜ちゃんも要のことが大好きだからそれもそれで嫌だ。


「それより、清水君また進藤君絡みでまたなにかされるみたいですよ、体育祭。」


話を切り替えられたがこっちの方が大事な話だ。


「どういうこと?」


「進藤君ファンが清水君を辱めたいからわざと百メートルと対抗リレーにエントリーさせて進藤君とぶつけて恥をかかせようって。」


要ファンも不本意ながら増えているがそれを言いくるめたのか。


「ちなみに清水君ファンの人にはテストの時みたいに運動も実力を隠してるとか言って言いくるめたみたい。」


「なるほど、可哀想ですね。」


「はい、進藤君は運動神経も抜群だし、清水君は体育の成績普通だよね?」


要の体育の成績は四から六を行ったり来たりしているみたいだ。


体育は一、四組と二、三組でやっているため要がどのぐらい手を抜いているのかもわからない。


体育祭の色の組み合わせもその組み合わせでやる。


この組み合わせは一番最初の体育でくじ引きで決まる。


「ああ、可哀想って進藤君がですよ?また恥をかいてしまうんですから。」


朝に要に本気を出させてよかった。


「清水君って勉強タイプじゃないの?」


「清水さんは文武両道どころではないですよ、文字通りなんでもできます、やろうと思えば。」


そう、要はやろうとすればなんでも出来る、だが面倒くさがりだ。


「まぁ本番になればわかりますよ。」


そう言って休み時間終了のチャイムが鳴ったので未来が自分の席に戻った。


そしてお昼になった。


「黒崎さん、行こ。」


いつもこうして未来が私を誘ってくれる。


「はい。」


私から誘うのはやまとなでしこっぽくないと言うことらしい。


そういうことで要を誘うのも未来だ。


「清水君、行こ。」


一組の教室に入り要の席についたので未来が声をかける。


「ん、ちょい待ち。」


要が鞄からお弁当箱を出した。


なんか、すごい一部から視線を感じる。


要の準備が終わり教室を出る。


中庭に行きいつもの通り私を真ん中にして座る。


「今日は曜ちゃんの?」


「ああ、楽しみだ。」


要が笑顔になる。


未来から聞いた話だけどこの微笑みを見て一部の要のクラスの女子が崩れ落ちたらしい。


(確かに破壊力がやばいんだよね。)


普段笑わないからそのギャップでやられる。


「清水君その笑顔を普段からしたら敵もいなくなるんじゃないの?」


未来が大変なことを言っている。


(そんなことしたらみんな要に惚れちゃうじゃん。)


「俺が笑顔になるって相当のことだぞ、曜の手料理に並ぶことなんてそうそうないだろ。」


これも未来から聞いた話だけど前微笑んだのは私と付き合わなくていいってわかった時らしい。


すごい傷ついた。


「ほんとシスコンだよね。」


「まぁ曜のことは好きだからな。」


要はそういうことを隠さず言う。


別にバレても相手を言い負かせられるから気にならないのだろう。


「ほんと清水君って煽れないよね。」


「要は心強いから。」


というより興味がないのが一番だろうけど。


「そうな。」


「じゃあ話変えるけど体育祭大丈夫?」


未来がずっと聞きたかったであろうことを聞いている。


「なにが?」


未来がさっき私に話したことを要に話した。


「なるほど、別に今回は進藤に譲ってもいいんだが、今回も勝負があるからな。」


「勝負?」


そうして要が未来に今朝の勝負の内容を教える。


「だから黒崎さん元気なかったんだ、連絡先ぐらいあげればいいのに。」


「もっと言ってやってって言いたいけど曜ちゃんに止められてるならしょうがない。」


私は曜ちゃんには逆らえない。


「清水君って妹に頭が上がらないの?」


「違うよ、大事な妹の言うことを全部聞きたい系お兄ちゃんなだけ。」


要は曜ちゃんのことをすごく大事にしている。


なにか理由があるのかはわからないが。


「まぁでも、対抗リレーは進藤に勝ちを譲っていいよな。」


「いや、対抗リレーの方が後なんだから手抜いたってバレない?」


未来が当たり前な疑問をぶつける。


「そんなの知らん、俺は百メートルで勝てばいいって言われたし。」


そう言って要が残ったお弁当を平らげた。


「ごちそうさまでした。」


「毎回偉いね、自分のには手を合わせるだけなのに。」


要は自分で作ったお弁当の時は手を合わせる、曜ちゃんの時はちゃんとごちそうさまを言う。


「いや普通言うだろ。」


いただきますは私達が話してる間にいつも言っているらしい聞いたことないが。


「そうだ、私とも勝負しよ。」


未来が要に提案をする。


「やだ。」


要が即断る。


「えー、いいじゃん、黒崎さんだけずるいよ。」


なんかよくわからない理屈を捏ねている。


「話だけなら聞こう。」


なんだかんだ言って要は優しい。


「やったー、じゃあリレーで進藤君に負けたら妹さんに会わせて、妹さんには内緒で、勝ったらなにか言うこと聞くね。」


(上手い。)


要は曜ちゃんの嫌がることは絶対にしない。


だけど。


「別にお前にやって欲しいことがない。」


(やっぱり。)


「修学旅行の班ってクラス関係ないんだって。」


未来が唐突に修学旅行の話を始めた。


「わかった、勝負を受ける。」


「え、なんで?」


私が信じられないといった感じで声が出る。


「いずれわかるよ。」


要は教えてくれない。


「未来なんで。」


「内緒。」


未来も教えてくれない。


「なに二人だけの秘密みたいにしてんの。」


「すぐわかるから。」


未来にそう言われたが納得がいかない、でもこの二人に口じゃ勝てないから諦めるしかない。


「ふんだ、もう知らないもん。」


だから拗ねる。


「可愛いね黒崎さん。」


「そうだなー。」


拗ねても二人には勝てない。


「どうせ言うなら要はもうちょっとお感情込めろ。」


「そだねー。」


すごい馬鹿にされた。


「昼休み終わるからもう行く。」


立ち上がり教室へ向かう。


「ちょい待ち。」


要に呼び止められる。


「今更なに言っても許さないもん、頭撫でるくらいしてくれないと。」


ぽん


頭に手を乗せられた。


「はいはい。」


要に頭を撫でられた。


「ヒューヒュー。」


未来が冷やかしてきたが頭に入らない。


「どうしたの、急に。」


疑問を要にぶつける。


「撫でろって言ったのお前だろ。」


「そうだけど。」


その間もずっと撫でてくれた。


そこで昼休み終了のチャイムが鳴る。


「じゃあおしまいだな。」


要が手を離す。


「あ。」


正直に言うならもっとやってて欲しい。


でも、これ以上やられると頬の色が授業中も治らない。


「俺は戻るな。」


そう言って要は戻っていった。


「熱々ですねー。」


未来が冷やかしできたが、まだ話が入ってこない。


「これだめだ、お手を拝借。」


その後聞いた話では私は未来に手を引かれて教室に戻ったそうだ。


頭を撫でなれるのは当分控えようと思った。

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