第5話 決着
テスト勉強しなきゃいけないのはわかってる、でもやる気が起きない。
そもそも中学の時からテスト勉強したことがないからやり方もわからない。
「曜に聞くか、でも曜もテスト勉強してないかもしれないよな。」
俺の中では曜は頭がいいと思っている。
「まぁいいや明日考えよう。」
そう言ってテスト前日になった。
テスト前の休み時間、周りからの視線がすごい。
(なんだ、こっち見て。)
おそらく、みんな俺となんとかってやつの勝負が気になるのだろう。
勝負だからしょうがない、本気を出す。
いつもはテスト前の休み時間で教科書とプリントを軽く読むだけだが。
今回はちゃんと読む。
そしてテストが始まる。
全てのテストをテスト前の休み時間本気で読むだけで済ませた。
(全部埋めたが、大丈夫か?)
いつもは七、八割ぐらい埋めて終わりにしてしまう。
(まぁ、なるようにしかならないか。)
そしてテスト順位の張り出しの日になった。
いつもは興味がないから行かないが今回はさすがに見に行く。
(行かなくても後で教えに来るか、なんとかってのが。)
張り出しの前がざわついている。
(いつもこんななのか、もう二度と来ない。)
そんなことを考えながら張り出しを見る。
(ん、なんで俺一位なんだ?)
もちろんいつも通り答え合わせなんてしていない。
返ってきたテストの点数もいつもの癖で見ないでしまった。
沙耶もテストの点数は聞いてこなかった。
(まぁこれでいいのか?)
そんなことを考えていると、沙耶と知らない男が来た。
(あれが、なんとかだったかな。)
あの時以来会ってないから顔を忘れた。
沙耶と男が驚いている。
「これでいいのか?」
男に声をかける。
「どういうことだ、お前なにをした。」
男が振り向いて叫んできた。
「?普通に本気出しただけだが。」
「そうか、黒崎さんが教えたのか、やっぱりあの噂は本当だったんだな。」
(うざっ。)
「そうか、負けた時の言い訳の為にお前がその噂流したのか、なんて狡い。」
おそらく違うだろうが煽ってみる。
「は、違う僕はそんなことしていない、お前こそ噂通り黒崎さんを脅して勉強を見させてたんだろ。」
興奮して唾を飛ばしながら叫ぶ。
(汚い。)
「お前、勉強出来る奴に勉強教われば誰でも一位取れるとか思ってんのか?こいつの努力はその程度でなんとかなる程度なのか?」
そう言って沙耶を指さす。
「それは…、でもお前は現に一位を取ってるじゃないか。」
「当たり前だろそいつとは頭の出来が違う、人類全員同じじゃないんだよ。」
元々目立ちたくないのもあり判定の時の点数を元に入試の点数を調整した。
今までのテストも点数調整していた。
「じゃあお前は今までテストで手を抜いていたとでも言うのか。」
(すごい小物感。)
「当たり前だろ、目立ちたくないし。」
(今回のことで目立ってしまうがこのアホが大人しくなるならいいだろう。)
「わかったろ、お前ごときじゃ俺にはテストじゃ勝てないんだよ。」
男が言葉を失って俯いている。
周りの視線も鬱陶しい。
「帰っていいか?」
ずっと黙っていた沙耶に聞く。
「ん、いいんじゃない?もう当分立ち直れないだろうし。」
「おい、口調。」
「あ、今のなし、いいんじゃないですか?もう立ち直れなさそうですし。」
遅いだろうが言い直している。
「じゃ、帰る。」
その場を後にして教室に帰る。
教室もざわついていた。
俺が教室に入ると視線が集まる。
無視して自分の席で帰りの準備をする。
「清水君。」
準備を始めてすぐクラスの女子に声をかけられた。
(ちっ、人の帰りの邪魔すんなよ。)
内心舌打ちをしながら呼ばれた方を見る。
「なにか?」
表に感情を出さないように返事をする。
「一位すごいなって思って、今回の勝負の為に頑張ったの?」
正直に言って人と話すのは嫌いだから話したくないんだが。
「まぁそれなりに。」
いつもよりかはしたから嘘は言っていない。
「すごいよね、それに比べて進藤君は自分の得意分野で勝負挑んで負けてその言い訳に清水君の悪い噂流してたんでしょ?進藤君いいなって思ってた人みんな幻滅したって言ってるよ。」
(手のひら返しでよく喋るな、進藤か名前。)
「いやその噂流したの進藤?じゃないと思うけど。」
進藤は猪突猛進型だと思うからそんな裏工作はしないと思う。
「清水君優しいんだね進藤君にあんなことされたのに。」
「いや、別に。」
優しいって言われるのが苦手だから返事が簡素になる。
別にいつも簡素ではあるが。
「それより、清水君黒崎さんと付き合うの?」
そういえば沙耶と勝手に好き合ってるってことになっていた。
「いや、ん、そうか。」
一人で自問自答する。
「どうしたの?」
「よし、ありがと。」
立ち上がり話しかけてきた女子に微笑みかける。
そして教室を出る。
その時にその女子が膝から崩れ落ちてた。
「それは、反則でしょ。」
教室がざわめき、その女子がなにか言った気がしたが聞こえなかった。
それを無視して沙耶のところへ向かう。
要と進藤君が話し終わって要が教室に戻った。
周りがざわついている。
「あの噂進藤君が流したの?」「ていうか自分で得意な勉強で勝負仕掛けといて普通に負けてんじゃん。」など今も項垂れている進藤君の陰口を言っている。
(聞こえてるよ、多分。)
そんなことを考えながら自分のミスはみんなにバレてなくてよかったと思う。
そんな陰口の中、「それより清水君すごいね。」「黒崎さんの為に頑張ったんだろ。」と、要の株が上がっている。
(そうだよ、要はすごいんだから。)
と内心思いながら薄い胸を張る
しばらく要を称える声を聞いていると。
「おい、沙耶。」
要が戻ってきた。
(要が名前を呼んでくれた、やばい顔に出ちゃう。)
「どうしたんですか、清水さん。」
内心は今すぐ飛び跳ねて喜びを全身で表したい。
「ああ、ここだとまずいからちょっと来い。」
周りの女子が黄色い声をあげ、男子が恨めしそうな目を向けている。
(え、要の方から告白?嘘ほんとに?)
なんて思っていると要が行ってしまう。
「あ、待ってください。」
進藤君がこっちを見ていたがもう興味はない。
(私のためにありがとう、あなたのおかげで要と付き合えるよ。)
と、最後に進藤君を心の内で感謝を伝えた。
階段をあがり屋上の扉の前で止まる。
「屋上入れればいいんだけどな。」
要が扉見ながら言う。
「それで、話って?」
多分顔は真っ赤だろう。
要はこっちを見てないけど、薄暗いから見られても多分見えない。
「ああ、俺勝負勝ったから忘れてたけどそもそもさ進藤?が鬱陶しいから俺が彼氏役したんだよな?」
要がこっちを向いて話し始めた。
(ん、なんかおかしな流れだぞ。)
「うん、そうだね。」
「じゃあもう、役しなくていいよな。」
(いや、まだだ、役が抜けるだけかもしれない。)
「うん。」
これは賭けだ、要はどっちを選ぶんだ。
「じゃあ今まで通りでいいよな。」
「今まで通りって?」
冷や汗が出てきた。
「ん、お前がいいならお前が離れる前に戻りたいってことだが。」
(それなら最悪ではないのか?)
「うん、わかったそれなら、友達ってことだよね。」
これを否定されたら多分三日は寝込む。
「ああ、そうだな。」
「ふー、まだよかった。」
息を吐きながら膝から落ちていく。
「汚れるぞ。」
要が手を出してきた。
「うん、ありがと。」
私も手を出して引いてもらう。
「じゃあ俺はもう帰る。」
そう言って要はさっさと行ってしまった。
その時、物音がしたような気がしたが今は要のことしか考えられない。
「要、好き。」
誰も居ない屋上の扉前で小さく想いを告げた。
沙耶と別れた俺は二組の教室へ向かった。
「清水君?どうしたの?黒崎さんと話してたんじゃないの?」
教室に一人だけ居た特徴のない女子が声をかけてきた。
「ああ、話は終わった。」
「じゃあ二組の教室になにか用?」
小首を傾げながら聞いてくる。
「ああ、お前に用がある。」
「ん、初対面だよね?」
確かに直接会ったことはない。
「お前だろ、俺の噂流したの。」
「!なんで私なの?」
一瞬目を見開いて驚いた表情をしたがすぐ元の特徴のない表情に戻る。
「お前、最近よく沙耶に話しかけてるんだろ?だから気になったんだよな、他の奴は沙耶のこと遠巻きに見てたまにしか話しかけないみたいなのにお前は毎日話しかけるって。」
沙耶に最近よく話しかけてくる奴がいないか聞いたら名前はわからないけど話しかけてくれる子がいると言っていた。
「それだけじゃ私が流したかわからないんじゃない?」
確かにそうだ確実な証拠もない。
「ああ、でもお前最近の帰り道やさっきの沙耶とのやり取り聞いてたろ。」
「!気づいてたの?」
誰かが聞いているのは気づいていたが、誰かまではわからなかった。
だから四組から教室を見て一人で居る奴を探した。
戻る速さから荷物は持ってないだろうから教室に戻った可能性が高かったから、かまをかけた。
「ああ、じゃあ認めるんだな。」
「うん、黒崎さんに言う?」
完全にしょげている。
少し可愛い。
「別に、お前は沙耶を傷つける気はないんだろ?」
「もちろん、私は黒崎さんのことが大好きだもん、だから黒崎さんを取ろうとする人を排除しようと思って。」
目がマジだ。
「そうか、じゃあ俺はもういいのか?」
さっきの話を聞いていたなら俺は沙耶のただの友達になる。
「うん、本当にごめんね。」
またしょげた。
「もしかしてだが、お前か沙耶にやまとなでしこってあだ名つけたの。」
ふと気になったことを聞いてみる。
「それもわかるの?」
「なんとなくな。」
(あいつをやまとなでしこってほんとに表面しか見てないんだな、いや隠すのが上手いのか。)
「お前名前なんて言うんだ?」
沙耶から名前は知らないと言われたので名前が気になった。
「私は、夏目 未来〈なつめ みらい〉です。」
(夏目か今度沙耶に教えないと。)
そんなことを考えていると。
「要?なにしてんの?」
沙耶が戻ってきた。
教室の入口で話しているため中に居る夏目は見えていない。
「ああ、お前と最近仲がいい夏目と話してた。」
さりげなく夏目の名前を教えた。
「え、あ、そうだったんですね、清水さん。」
人が居ることに気づいてやまとなでしこモードになった。
「今、要って。」
夏目が不思議そうな顔をしている。
「そんなことないですよ。」
沙耶が夏目に圧をかける。
「それより、清水さん随分楽しそうですね。」
沙耶がマジな目をして聞いてくる。
「ああ、夏目は可愛いからな、話してて楽しいさ。」
少し沙耶をからかってみる。
「な、かわ、私言ってもらったことないけど。」
沙耶が焦って素が出る。
「なかったっけ、まぁいいや、これがこいつの素な。」
夏目に声をかける。
「かわいいって、私がかわいいって。」
夏目には聞こえてないようだ。
「よかったな聞かれてなくて。」
沙耶に言う。
「いや、そんなのどうでもいい、なに夏目さんのこと好きなの?ねぇ。」
沙耶が興奮している、無視して帰りたい。
「まぁ夏目は結構気に入った。」
裏でコソコソやるのが親近感が湧くのかわからないが。
その後、十分ぐらい沙耶からの質問攻めを受けて飽きたから帰った。
その際周りで見ている生徒が居たがまぁ大丈夫だろう。
これを機に沙耶が普通に過ごせればいいと思いながら帰路に着く。
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