第4話 噂
次の日の朝
いつも通り起きれない。
いつもは曜が起こしてくれるが昨日の曜は気まずそうにしていたから今日は来ないかな。
そんなことを考えていると。
カチャ
ゆっくり扉が開く。
(来てくれた、さすが自慢の妹。)
毎朝起こしてもらうとか情けないが。
曜が音を立てないように近づいてくる。
(起こしに来た訳じゃないのか?)
「起きてないよね。」
曜の声がすぐ隣から聞こえる。
「お兄ちゃんの寝顔♪」
(そんなの見に来たのかよ。)
カシャ
スマホで写真を撮られた。
(音を消せ。)
「今日もいただきました、毎朝一枚ずつ増えてくお兄ちゃん♪」
(毎朝、俺を起こす前に撮ってるのか。)
どこに需要があるのかわからない。
「もう、やっちゃんにはあげない。」
「いや、あいつにあげたのかよ。」
「え。」
(あ、やば。)
静かに目を瞑る。
「いや、起きてたでしょ。」
焦った曜に肩を揺すられる。
「おは。」
俺はなにも聞いてないと挨拶をする。
「違うよ、今日は魔が差したというか、その。」
曜が焦って上手く言葉が出てきてない。
(頑張って言い訳して可愛いな。)
ずっと見ていたいと思ったが、曜がそろそろ耐えられなそうなので。
「いいよ、俺も昨日お前の可愛い寝顔見たからこれでおあいこな。」
「かわっ、とか、というか見たの寝顔、じゃないここで寝てたの。」
(寝顔はいいのか。)
「ああ、前もあったから俺の部屋に居るかなって思って。」
曜の顔がみるみる赤くなる。
「あ、いや、その、ごめんなさい。」
曜が俯いてしまう。
「いや、役得だろ、お前みたいな可愛い子が俺のベッドで寝てるとか。」
変態くさいが事実だしこれ以上曜が悪く思う必要もない。
「ほんと?」
上目遣いで聞いてくる。
「ああ。」
(可愛いな。)
そう思いつつ曜の頭を撫でる。
曜が嬉しそうにしている。
「それより、今日の朝ごはん作ってくれたのか?」
もうこの話は終わりと話を変える。
「うん、おにい、めのお弁当も用意したよ。」
お兄ちゃんと呼んでくれなくて少しガッカリしたが、弁当まで用意してくれたのは素直に嬉しい。
「ありがとう。」
そう言って曜の頭を撫でる。
手を離し部屋を出る。
曜が少し残念そうだったがしょうがない。
(撫でられるの嫌じゃないんだな。)
今度また撫でようと決意した。
朝食は曜が照れてずっと無言だった。
メニューはご飯に味噌汁、だし巻き玉子、ちくわの磯辺焼き、とても美味しかった。
「ごちそうさま、美味しかったよ。」
曜に感想を伝える。
「め、なんでも美味しいって言うじゃん。」
俺は貧乏舌らしい。
もちろん自覚はない。
「俺はなんでも美味しいって言うんじゃない、なんでも美味しく食べれるだけだ。」
本当に美味しいと思わなければ美味しいと口に出すことはない。
「まぁいいけど。」
曜が頬を少し染めそっぽを向く。
「片付けるから学校行く準備していいよ。」
至れり尽くせりだ。
「ありがとな。」
曜にお礼を言って学校の準備を始める。
のんびりしていたら、家を出る時間の十五分前になっていた。
曜は気がついたら家を出ていた。
曜はいつも気がついたら家を出ている。
(俺も出るかな。)
荷物を持ち一階に降りた。
靴を履き外に出た。
「なんでいる。」
外に出たら沙耶が待っていた。
「さすが兄妹、一緒に行こうと思って。」
沙耶が意味深なことを言ってきた。
「一人で行けよ。」
俺と沙耶は別にまだ付き合ってる訳ではない。
そんな中一緒に登校なんかしたらまためんどくさいことになる。
「お願い、人が多くなるところからは一人で行くから。」
そう言って両手を合わせて頭を下げてくる。
「それなら別にいいが。」
「やった。」
小声で喜びながら小さくガッツポーズをしている。
「行くぞ。」
そう言って歩き出す。
「待ってよ。」
沙耶が後ろをついてくる。
「で、なんのようだ。」
「うーんと、あ、テスト大丈夫?」
明らかに今思いついた感じで聞いてくる。
「ん、わからん、まぁ頑張るよ。」
頑張ると言いつつ別に勉強する気がない。
「私が勉強教えようか?」
沙耶は中学までは勉強が出来なかった、だから高校に入って一位の名前が黒崎沙耶だと聞いても誰だかわからなかった。
「いいよ、お前の力借りたら一位の力だとか言われそうだし。」
勉強しない言い訳でもあるが実際そう言われそうではある。
「わかった、頑張って。」
沙耶が両手を握りしめ応援してくる。
「ん。」
(別に俺負けても最悪口で潰すからいいんだが。)
進藤ぐらいなら口で負ける気がしない。
そんなこんなで学校の人が増えてくるあたりになってきた。
「じゃあ私先に行くね。」
「ああ。」
そう言って沙耶が早足で前を行った。
「ま、少しは本気だすけど。」
そう決意して学校へ向かう。
今日はお母さんになにか言われる前に家を出た。
今日こそは要と一緒に学校に行く。
「要いつ学校行ってんだろ?」
いつもは始業の一時間前に家を出ている。
今日も同じ時間に出てきたがどのぐらい待つのか。
「要を待つと思ったら時間なんてすぐだよね。」
と、独り言を言う。
二十分ぐらいしたら玄関が開いた。
玄関の方に目線を向ける。
「曜ちゃんだ、おはよう。」
「なんでいんの。」
明らかに不機嫌な目を向けられた。
「要と一緒に学校行きたいなって。」
曜ちゃんに答えたらより不機嫌になった。
「そうやってまた要に迷惑かけるの?」
「迷惑?」
確かに要にはなにも言ってない、でも要は別に私のことを嫌いという訳でもないはずだ。
「やっちゃんさ学校で人気者なんでしょ、そんなのと要が一緒に行ったら馬鹿どもが変な勘ぐり入れるでしょ。」
そうだ、昨日の帰りも要が色々考えてくれたからなにもなかった。
私のことだけ考えるんじゃだめだ。
「そうだよね、私の都合に合わせちゃ駄目だよね。」
「やっぱりやっちゃんには要は任せられない、でも今日は機嫌がいいから許してあげる。」
私の顔を見た時に明らかに不機嫌そうな顔をしてたけど、機嫌がよかったみたいだ。
普段だったら、私話してももらえないのかな。
「じゃあ私行くから、要と一緒に行きたいなら人目のないところまでにしてよ。」
「うん、ありがと。」
曜ちゃんからアドバイスを受け、曜ちゃんにお礼を言った。
(さすが兄妹、なんだかんだ言って優しいんだよねあの二人、ほんと大好き。)
それから十分ぐらいして要が出てきた。
それで要と一緒に登校した、途中で別れたけど。
教室に入っていつも通り挨拶をした、でも反応が悪い。
(なんだろ。)
疑問に思いながら自分の席に向かう。
「黒崎さん。」
昨日話しかけてきた人が話しかけてきた。
「はい、なんですか?」
やまとなでしこモードで対応する。
「黒崎さんって中学生の時、昨日言ってた清水君?に付きまとわれてたんですか?」
(なんのことを言ってるんだ?)
「いえ、そんなことはないですけど、誰がそんなことを?」
この学校には私達と同じ学校の人は居ないはずだ。
「風の噂で、今も付きまとわれて黒崎さんが脅されてるとかも。」
(怒っちゃだめだ、ここで怒ったら要が疑われる。)
「それはただの噂です、そんな事実はないので大丈夫ですよ。」
あくまで噂というのを伝えられただろうか。
要に迷惑がかからなければいいけど。
「そうなんですか、ならよかったです。」
そう言って自分の席に戻って行った。
それから一日その噂を言う人はいなかった。
その日の帰り道
「っていうことがあったんだけど、知ってる?」
沙耶に待ち伏せされて、一緒に帰っている。
「ふーん、今日は昼のことしか考えてなかったから知らないな。」
今日は曜の作った弁当だったからそれが楽しみすぎて周りが視界に入らなかった。
「なんかあったの?」
「教えないが、それより同じ学校の奴じゃないのかそれ。」
曜のことをなんとなく隠して、話を戻す。
「いや、うちの高校レベル高くて同じ中学の人居ないんだよ。」
そういえばそうだった気がする。
「俺は近いからあそこにしたけど、お前もだろ。」
「いや、要が行くって言うから頑張、いやなんでもない。」
ほとんど言ってる気がするが、聞かなかったことにする。
「まぁ別にその程度ならいいだろ。」
「私と違って要なら大概のこと自分でなんとかしちゃうもんね。」
なんとかするというより、興味がないから無視してるだけなんだが。
「まぁでも、ちょっとウザイな。」
多分沙耶ファンの俺に対するやっかみだろうが。
「なんとか出来るの?」
沙耶が不安そうに聞いてくる。
「今回の勝負を使う。」
ようは進藤と同じで沙耶と不釣り合いって言いたいんだろう。
だから釣り合うようにすればいい。
「要が出来るって言うなら大丈夫だね。」
沙耶からの絶対の信頼を受けた。
「やるだけやるよ。」
そう言って、家の前に着いた。
「じゃあな。」
沙耶に別れを告げる。
「うん、バイバイ。」
沙耶が手を振りながら帰って行く。
家に入り靴を脱ぐ。
最近は曜が下の階に居ることが多いので挨拶をしない。
「おか。」
曜がリビングから出てきた。
「ただいま。」
曜に挨拶されたらさすがに返す。
「お昼どうだった?」
ずっと気になってたんだろう、不安そうに聞いてきた。
「美味しかった、授業中も気になって話が入らなかったからな。」
事実を隠すことなく答える。
「そ、ならよかった。」
少し嬉しそうだ。
「また気が向いたら作ってくれ。」
「うん、気が向いたらね。」
嬉しそうにしながら自室へ向かう。
俺は手洗いうがいを済ませ、自室に向かった。
勉強しようと思ったが教科書を持ってきてなかった。
「じゃあしょうがない、ラノベ読も。」
いつも通りラノベを読み始めた。
そしてテストが終わった。
その間、また噂が流れることはなかった。
要は結局ろくに勉強をしなかったようだ。
いつも通りバイトもしてたようだし。
でも私要のことを信じて張り出されたテストの順位を見に行く。
「やあ黒崎さん、結果を見に行くのかい。」
進藤君が声をかけてきた。
(めんどくさいのが来た。)
「はい、私は一位キープしたいので。」
私は二人の勝負をまだ知らないことになっている。
「そうかい、僕は自分の順位以外に気になることがあってね。」
喋り方がいちいち鬱陶しい。
「そうなんですか。」
内容に興味がないので話を終わりにする。
そのまま進藤君が一人で話しながらテストの張り出しに向かう。
ざわざわ
張り出しの前がざわついている。
「ん、なにかあったのかな。」
進藤君が不思議そうにしている。
二人で張り出しの前に着く。
「なんなんだ?」
七位 進藤 直哉〈しんどう なおや〉
二位 黒崎 沙耶〈くろさき さや〉
一位 清水 要 〈しみず かなめ〉
「は?」
進藤君が腑抜けた声を出した。
正直私も同じ気持ちだ。
「これでいいのか?」
後ろから声をかけられ、後ろを振り向く。
要が立っていた。
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