第12話 恐怖!悪の包囲網!
「なに!!ストレイトマン子爵領の衛兵隊が!なぜだ!!」
ナイアセン男爵は憔悴した様子で報告する衛兵の男へ問うた。
「そ、それが、街道を騒がす盗賊団と我が領との癒着の罪と」
「バカな!!我が領が最も被害を被っていると言うのに!!それに、今、討伐隊を差し向けた所でもある!!」
「それも、グルである証拠であると!」
「何を言うのか!!途中、盗賊団との戦闘で負傷し戻った兵もおるというに!!討伐隊本体が帰ってくれば、そんな無法も、ごほっごほっ」
興奮のあまり男爵が咳き込んだ。
「あまり興奮されますと御身体に触りまする!」
エリカが男爵の背中をさすりながら言った。
「子爵領の兵が言うには、ナイアセンの兵なら今頃、盗賊と取り分で揉めて殺し合いでもしておる事だろう、今しばらくは待つが無駄な抵抗をせずに自ら街の門を開けるならば、男爵令嬢の命だけは助けようと子爵もおっしゃっている、と」
「ぐぅ、最初からそれが目的か。語るに落ちるとはこの事よ。しかし、この状況で何ができると言うのか」
「討伐隊へ早馬を飛ばしてございまする」
「なに早馬を?」
「そうでございます。討伐隊にはあのお方がおられます!」
「おお!ヤスオ殿か!!」
「そうですわお父様!ヤスオ様さえ来て頂ければ!」
「そうだ、それまでは何とか持ちこたえるのだ!さすれば、我らの正義が通るだろう!」
「はっ!」
男爵の言葉に力を得た衛兵は敬礼をすると、走って部屋を出て行った。
「クリーパーさん、ヤスオ様は大丈夫でしょうか?」
エリカは靖男が残して言った召喚獣であり、後ろで腕を組んで立っている怪人クリーパーに問いかけた。
怪人クリーパーは大きく頷き、窓の外を見た。
「もしやヤスオ様がこちらへ向かってられるのですか?」
その反応を見てエリカは怪人クリーパーに問うた。怪人クリーパーはまた大きく頷いた。
「ご主人がこちらに近付いているのを感じる」
怪人クリーパーは獣の唸りのような声でそう言う。
「クリーパーさん!どうかヤスオ様の元へ!あの方のお力になってあげて下さい!」
怪人クリーパーは、なぜ靖男がエリカの力になったのかがわかったような気がした。この娘は自分の心配よりも人の心配が出来る娘だ、そう怪人クリーパーは感じ、エリカに好感を抱くのであった。
「すぐ戻る」
怪人クリーパーはエリカにそう言い残し、窓から空へと羽ばたいたのだった。
一方その頃靖男はバイクを飛ばしていた。
「すげーな、もう100キロオーバーだぜ」
靖男は余裕でついて来る上空のカラスたちを見て呟いた。
途中、なにか魔物らしきものが後ろから追いかけて来たが、この速度にはついて来れずに追跡を諦める、という事が幾度かあった。靖男はせっかくの武器を試す機会が無くて残念に思ったが、今はとにかく男爵たちの元へ急ぐ時だと速度を緩めず走り続けた。
いくら街道が整備されているとは言え、前世界の様にアスファルトという訳ではない、ただの踏み固められた土の道である。前世界の林道などよりはマシとは言え、靖男が乗っているバイクの動力性能を十分に発揮するには、いささか危険な道であった。なにしろこのバイク、ノーマル状態で280キロまでメーターがふってあり、更にその速度まで余裕をもって出せるだけのエンジンを積んでいるのだ。とは言え、後ろに荷物は満載であるし、申し訳程度のビキニカウルにノーヘルでは、路面状況が良かったとしてもとてもその速度までは出せるものではないのだが。
そんな速度でバイクを飛ばしている靖男の心に怪人クリーパーの声が届く。靖男様、街は兵隊に囲まれております、と。
靖男は知らせてくれた怪人クリーパーに感謝を述べ、上空にいるカラスを使って門前の兵隊を散らすので、タイミングを見て門を開けてくれるよう男爵たちに伝えて欲しいと願った。
お安い御用です、すぐに知らせて来ましょう、と言うと怪人クリーパーは凄い速度で街へと飛んで行くのだった。
「うひゃー、クリーパーさん速いなー!!マジで200キロくらい出てんじゃねー?」
あっという間に見えなくなった怪人クリーパーに、靖男は感嘆の声を上げた。靖男は上空のカラスを見ながらジワジワと少しずつアクセルを開けていく。それでもカラス達は余裕でついてくるのだった。
そうして、130キロまで速度を上げた時、先の方に街を囲む小さな人の群れが見えて来た。
靖男は上空のカラスに願った、街の門を抜けるのに邪魔な兵隊を散らして欲しい、と。上空のカラスたちは、盛んに鳴くと、速度を上げて兵隊の元へ飛んで行った。そのカラスの飛行速度に靖男は驚いたが、驚いてばかりもいられぬとアクセルを吹かした。
どんどん近づく兵たち。カラスの攻撃により右往左往する兵たちは、カラスが一定の法則を持って攻撃している事に気づき、そこにいると攻撃されるという場所から退避しだした。
「ありがとう!!」
靖男は感染カラスたちに感謝をし、彼らが切り開いてくれた道を走った。
街の門が開き、靖男は身を縮めそこに滑り込むようにバイクを侵入させた。
「閉じろ!閉じろ!!」
大きな声が響き、門はすぐに閉じられた。
「ヤスオ様!!」
バイクを降りた靖男を真っ先に出迎えたのはエリカだった。
「エリカさん、皆さんはご無事ですか?」
「はい、大丈夫です」
靖男様、外を囲む者達の一部が街の中に侵入しています。いかがなされますか?空から降りて来た怪人クリーパーが、靖男の心に語り掛ける。
「エリカさん、外を囲む兵の一部が街に侵入したようです。どうしますか?」
「なんですって!早急に捕えなくては!!」
エリカの言葉を聞いた怪人クリーパーは大きく頷くと、靖男に私が一人で捕らえて来ましょうかと語りかけた。
「いや、私もついて行くよ」
靖男が答えると、ではお続きください、と怪人クリーパーが飛びあがった。
「それでは、クリーパーと一緒に侵入者を捕まえに行ってきます!」
再びバイクに跨り靖男は言う。上空でらせんを描いている感染カラスの群れに、なにかあったら街の人を守ってくれとお願いする靖男。
「お気を付けて!」
エリカの声を後にして、靖男はバイクを走らせてクリーパーの後に続いた。目抜き通りを過ぎて幾らかの路地を曲がる。場所は街の入り口の、ほぼ反対側だ。
上空で速度を落としたクリーパーは、その先の倉庫の中に4人、後、4人は更に先へと進んでおります、いかがいたしますか?と靖男に問うてきた。
「それじゃあ、先に進んだ4人を捕まえておくれ」
靖男はバイクから降りて言った。了解した、と短く答えてクリーパーは飛び去った。
「さてと、ここはやっぱりウージーの出番だよな」
ヤスオはストラップで肩から下げていたウージーサブマシンガンを構える。
「そこに隠れている事はわかっている。無駄な抵抗はやめて出て来い」
靖男は倉庫の中に向かって声を上げた。ゆっくりと倉庫の扉が開くと、中から声が聞こえて来る。
「お前、ひとりだけなのか?」
「もうひとりは先に行った4人を追っている。そっちもすぐに捕まるから、無駄な抵抗はやめて出てきなさい」
靖男は声を上げる。
「おい、あいつ馬鹿だぜ」
「そのようだな。おい、やるぞ」
声が聞こえて中から武器を持った男達が出て来た。
4人はサーベルのような湾曲した剣を腰から抜き、靖男を囲むようにじりじりと距離を縮めて来る。
「最後の警告だぞ」
靖男はそう言ってウージーの銃口を男たちに向けた。
「そんなもんで何ができんだよ!!」
靖男から見て右側に居た男がそう言って切りかかってくる。靖男は心の中で警告はしたからな、と弁解するように言って引き金を絞った。
「ダンッ!ダダダダダダダダダダダダッ!!」
靖男が考えていたよりも派手な音がした。靖男はそのまま、連中の足元を狙って横に銃口を動かした。
「ぐわっ!!」
「ぎゃあ!」
「いでぇぇぇぇぇ」
「なんだっ!!がぁっ!」
4人の足元の土が巻き上がり、男たちは足元を押さえるようにして前のめりに倒れた。
「だから警告したでしょ?」
靖男は前回撃ったセミオートのアサルトライフルとはまた違った衝撃に、手を痺れさせながら言った。
そして、銃口から立ち上る煙と陽炎を見て、弾が尽きないとはいえ無理な使い方をすれば熱でおかしくなりそうだなと靖男は思うのだった。
靖男様、お済になられましたか?と心に語り掛ける声を聞いた靖男が振り返ると、そこには首に枷をかけられ、そこから続いた鎖でクリーパーに引っ張られる男達の項垂れた姿が見えた。
「ああ、こっちも片付いたけど、さすがクリーパーさん!早いし手際良いし!最初から全部お願いすれば良かったね。こっちは、結局、足を撃ち抜いちゃったよ」
ふふ、このようなヤカラにはそれも致し方なしですが、これからはお任せになられて下さい、と怪人クリーパーに言われて靖男は面目ないと頭を掻くのであった。
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