第11話 恐怖!権力者の悪巧み!

 「た、た、た、大変でございますヤスオ殿!!」


 「な、な、な、何事ですかベンギウムさん!!」


 捕らわれていた衛兵さん達と一緒に砦を出て来た靖男に、ベンギウムが大慌てで駆け寄ってくる。


 「そ、それが!たった今!街から早馬が来まして!!」


 「うんうん」


 「ストレイトマン子爵の衛兵隊が街を取り囲んでいるそうです!!」


 「え!なぜです?」


 「盗賊団を裏で操り民を混乱に陥れた疑いあり、と」


 「ヤスオ殿、恐らくストレイトマン子爵は我々衛兵隊がこの砦で返り討ちにあうものと考えたのでしょう。そうすれば死人に口なし、盗賊団との繋がりを捏造して男爵領への侵略行為を正当化する算段だったのでしょう。実際、ヤスオ殿がおられなければ、そうなっていた可能性は高かったでしょう」


 ベンギウムの話を後からやって来た衛兵隊長さんが引き継いだ。

 

 「これからどうされるのですか?」


 「はい、我々はこのまま捕らわれていた人たちをつれて、ポレイス侯爵領へ現状を訴えに行きます」


 「その侯爵は信用できるのですか?」


 「侯爵はストレイトマン子爵の横暴で独善的なやり方をかねてから気にしておられ、ナイアセン男爵の相談にも良く乗って頂いた間柄。この窮状にもきっとお力をお貸し頂けるものと信じております。ただ」


 「ただ?」


 「けが人も抱え、すべての人に馬も行き届かぬ現状では、少なく見積もってもポレイス侯爵領まで一日半はかかりまする。そこで、誠に勝手なお願いですがヤスオ殿には街へ」

 

 「いいですよ」


 「え?いや、そんな即答されて、これは危険を伴うお願いなのですよ」


 「ええ、街へは急いで戻ります。私の召喚獣も残してありますので上手い事やれば街に入るのに、それほど苦労はせずにすむと思います。それに、皆さんの足の件ですが、そちらも私がご用意できるかと」


 「も、もしや、そちらの鋼の獣のようなモノをまだ召喚できると申されるか!!」


 衛兵隊長さんが悪魔の車を示してそう言った。


 「まあ、そんな感じですね。すいませんが大きな召喚獣を出しますんで場所を上げて下さいな」


 「あ、ああ。おい!場所を開けろ!!ヤスオ殿が召喚獣をお呼びになられるぞ!!」


 衛兵隊長さんが声を上げて場所を開けてくれる。


 「おおおお!!!」


 召喚された物を見て周囲の衛兵たちが声を上げる。現れたのはゴブリンの顔をつけた巨大なトレーラーと機関銃をつけたアメリカ軍用小型車両だった。

 この癖の強い車両こそが、映画地獄のデビルトラックに登場し人間を襲った車両なのであった。

 巨大トレーラーはハッピートイズと書かれた大きなコンテナを牽いており、この中ならばかなり多くの人が乗れるはずであった。もう一台の車両はM274トラックと呼ばれる軍用車両でただのフラットな台に飾りのような鉄の枠がついており、台の真ん中には一本の棒、その棒の上にはM60機関銃が備え付けてある。


 「この大きい方の召喚獣は後ろに人や荷物が沢山載せられます。もう一台の方はここから鉄の弾を発射して攻撃が出来ますので、何かの時の護衛にどうぞ。それからそちらの召喚獣も一緒に行って貰いますので、何かあれば彼に頼んでみて下さい。彼から他の召喚獣に指示を出して貰います」


 頼めるよね?靖男は悪魔の車に心の声で語り掛けた。ああ、勿論、構わないが、お前が死ぬと我らはすべて元の場所に戻る。それを踏まえて慎重に行動せよ。と悪魔の車は靖男に語り掛けた。さすがは悪魔が憑りついていると言われているだけの事はあり聡明な車である。

 

 「あ、ありがたい!!皆!早く!ヤスオ殿の召喚獣の中に!!」


 衛兵隊員達は手分けをしてデビルトラックの荷台へ、捕らわれていた人やケガをした衛兵達を載せていく。


 「それじゃあ、早速、レベルアップしたスキルの力を試させてもらいましょうかね。まずは、モンスターから!」


 靖男が映画名を検索し、更に呼び出すモンスターを入力する。


 「うわあ!!新手か!!」


 衛兵が陰った空を見て声を上げる。


 「いやいや、あれも私の召喚獣です!ご心配なく!!」


 空がかげるほど発生したのはカラスの大群。しかし、ただのカラスの大群ではない。靖男が呼び出したのは映画バイオハザード3に登場したモンスター、クロウである。T―ウィルスに感染した死体を食べミュータント化したカラスであった。


 「よーしよしよし!こっからが本番ですよー!出てこいや!!」


 靖男がウキウキしながら呼び出したモノ、それは、レベルアップしたスキルの能力を使ったものだった。

 ホラー映画に出ていたモノを召喚出来る力、人間は呼び出せない、つまりそれ以外なら可能という事だ。

 

 「ふひー!成功、成功!大成功!!おぉー!前世界では高嶺の花だったが・・・」


 靖男が愛おしそうにそう言って撫でたもの、それは一台のバイクだった。BMW K1200R、水冷直列4気筒エンジン163PSの高級長距離ツアラーバイクであった。バイクのリアシートには映画内と同じくポリタンクと布袋が括り付けてある。

 

 「こいつの中に何が入ってたんだか気になってたんだよな」

 

 靖男はそう言って布袋を開ける。


 「おっと、やっぱり物騒なもんが入っとったな」

 

 袋の中に入っていた物は、ククリナイフ二丁、ショットガン、モスバーグM590コンパクトクルーザー二丁、ハンドガン、パラオードナンスナイトタック二丁、そしてウージーサブマシンガンが二丁であった。

 靖男はひとまずウージーサブマシンガンを肩から下げハンドガン二丁は両脇の下にホルスターで装着、腰の両側にはククリナイフを装着してバイクに跨った。

 

 「なんか、こうした武器ってもっと重いと思ってたな。バイクも思っていたより扱いやすそうだ」

 

 靖男はバイクのサイドスタンドを蹴ってひっこめた。


 「それでは皆さん!ご武運を!!」


 「ヤスオ殿も!!!」


 ベンギウムが靖男の声に応える。靖男はバイクのアクセルをひねる。さあ、ついて来てくれ、どの位まで速度を出せるか?靖男はバイクを走らせながら考えた。上空のカラスが靖男の移動に合わせてついてくる。

 通常、カラスの飛行速度は70キロ程と言われているが、彼らは普通のカラスではない、なにしろT―ウィルスに感染しているのだ。

 靖男は街道を飛ばす。メーター表示はキロメートル表示なので靖男にもなじみがあった。ドイツ車はキロ表示なのである。


 「さすがT―ウィルス感染カラス。百キロでも余裕でついて来る」


 靖男は上空をチラリと見て、暗雲のように群れを成す感染カラスを確認して言いさらにアクセルを開けるのだった。

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