第10話 恐怖!重要なお知らせ!

 「ぎゃぁぁぁぁぁ」

 「なんだ!こいつら!」

 「くそがぁ!撃っても撃っても死にゃあしねーぞ!!」

 「どーなってんだー!」

 「ぐおぉぉ!!痛てぇよぉー!」

 「ゴーリーの奴がおかしくなったぞ!!」

 「どーなってんだ!誰か!頭に!頭に伝えろ!うわぁぁぁぁ」


 砦の中は阿鼻叫喚の地獄絵図だった。まさに、映画の世界に入ったようだ!ホラーの住人ここにあり!!その様子を見て靖男は思った。

 砦を進むにつれ、盗賊ファッションのゾンビも目立ってくる。

 

 「あの人どこだ?おかしいなあ?」


 靖男はあるゾンビを探していた。この映画は靖男が小学生の頃初めてテレビで観て虜になり、中学生の時に家にビデオデッキがやって来てレンタルビデオを観られるようになってから、バージョン違いのDVD3つ、ブルーレイまで所持するようになった最近まで、何回観た事か。本人も覚えてない程、靖男は繰り返し繰り返し観たのだ。どんなゾンビが登場したかまで、しっかり覚えているのだった。


 「うーん、服装は地味だからなあ。あ!!いたいた!!」


 靖男が発見したのは青いワイシャツを着た背の高い男性ゾンビだった。


 「ウェディングドレスゾンビの近くに居ると思ったんだけど、結構、離れたトコに居たねえ」


 靖男は青いワイシャツを着たゾンビ男性に近付く。


 「これこれ、これが欲しかったんだ。それ、頂いても良いですか?」


 靖男は青シャツゾンビに尋ねる。青シャツゾンビはうんうんと頷いて右手に持っていた物を靖男に差しだした。

 

 「ありがとうございます。大事にされていたのに、すいません」


 靖男は感謝した。青シャツゾンビは頷くと、ゆっくり歩きだした。

 靖男が青シャツゾンビから受け取った物、それはアサルトライフルだった。M16A1に似たそのアサルトライフル、正確には映画内で使われていたのはジャガーAP74である。


 「こ、これがロジャーが持っていた銃かー!感激だなあ!!」


 靖男は頬ずりするようにそのアサルトライフルを抱きしめた。


 「これで、ゾンビの群れに紛れなくてもある程度動けるな。ふふふ、ロジャーの敵は俺が討つ!!」


 そう言って靖男はアサルトライフルを構えた。ライフル本体の上にとってのような形でついているリアサイトと銃口先端上についているフロントサイトをあわせて、離れた場所でゾンビ相手に奮闘している盗賊の胴体に照準を合わせる。勿論、映画内の登場人物ロジャーはゾンビにやられたのであって、盗賊団にやられたわけではないのだが。

 靖男はゆっくり絞り込むように引き金を引いた。鋭いが思っていたよりは軽い衝撃を靖男は肩に感じる。そして、視界の先で暴れていた盗賊は腹を押さえて崩れ落ちゾンビの群れに覆われたのだった。

 

 「よかった、プロップガンだったらどうしようと思ったけど、ちゃんと使えたぞ」


 靖男が心配したのは銃器が小道具だったらという事だったが、実は映画ゾンビ本編の撮影で使用された銃がジャガーAP74であり、使用される22ロングライフル弾は小さな発射音と軽い反動が特徴で、非常に扱いやすい事で知られており、初めて銃火器を扱った靖男にとって持って来いの銃なのであった。


 「後は弾数だよな」


 靖男はアサルトライフルの側面を見て言う。今は引き金を絞ったら一発出るセミオート使用になっている。現状、靖男はそれで必要十分だと考えているが、もしも、この銃が弾丸無制限なのであればフルオートでぶっぱなしたいとも思っていた。ところがこの銃、セレクターがどうも発射と停止しかないようで、フルオートを示す印は見当たらなかった。

 

 「確か、この銃はM16じゃなかったんだよな。それでも、装弾数にそれほど大きな開きはないだろう。とにかくバンバン撃って試してみよう」


 ちなみに通常マガジンでのM16の装弾数は20発と30発がある。ジャガーAP74は通常10発か15発となっているようである。

 さすが剣と魔法の世界の盗賊だ、ゾンビ相手でも剣を振るい、魔法を放ち果敢に立ち向かい戦っている。靖男はゾンビ相手に善戦している盗賊を見てはアサルトライフルを撃って行く。

 段々とこの銃に慣れて来た靖男は、引き金を連続して複数回引くことで手動連続撃ちをしていった。


 「ぼちぼち、弾切れ起こしても良い頃だぞ」

 

 靖男はざっと撃った弾を数えていたが、30発は越えたはずだった。


 「こりゃ、もしかして弾丸数無限か?」


 靖男は心の中で小躍りして喜んだ。これだけでも相当の力だぞ、と靖男は思った。と同時に靖男は、そんなうまい話もあるまい、何らかの制限はついているはずだろうとも推測した。

 その推測が当たっている事は、靖男にもすぐにわかるようになるのではあるが、今はやれるだけやろうという事で、靖男は暴れている盗賊を見つけてはセミオートで撃っていった。


 「しかし、砦の内部はかなり広いねこりゃ」


 靖男はゾンビの群れと共に砦内部へ内部へと移動していくが、内部の構造は複雑ですべての場所を確認するのは、かなり大変そうであった。

 

 「これじゃあ、ピーターとロジャーが最初に出会ったマンションだよ。あ!なんだかウーリーみたいな奴がいるぞ!!」


 「うおぉぉぉ!!!ひゃっはぁぁぁぁぁ!!!死ね死ね死ね死ねぇぇぇぇ!!!」


 髭モジャで身体の大きな男が片手で大きな斧を振り回し、片手からは火の玉を出して群がるゾンビを倒しているのを靖男は見つけた。ちなみにウーリーと言うのは映画ゾンビの冒頭に出て来る暴走SWAT隊員であった。


 「すげーなアイツ。もしかしてここのボスかね」


 靖男はそうつぶやきながら、アサルトライフルの照準を暴れる大男に合わせる。

 

 「ふふ、ここまで来たらこうだよな」


 靖男は一旦頭に定めた標準を肩にずらして、引き金を引いた。もんどりうってひっくり返る大男。

 

 「くそー!!ぐおぉぉぉぉ!!!があぁぁぁぁ!!!」


 ひっくり返りながらも周囲に火の玉を放つが、物量の前では無力でゾンビの群れに覆いつくされて断末魔の絶叫をあげる大男。実はこの大男、靖男の推測通り盗賊団の頭であった。


 「ラーラーラーラー、ラーラーラー、ラーラーラーラー、ラーラーラー」


 「うおっ!」


 急にドスの効いた唸り声が頭の中に響き、靖男は思わず声を上げてしまった。


 「なんだよサスペリアのメロディーじゃんか!同じゴブリンではあるけれど!!」


 靖男がつっこんだのは映画ゾンビの曲も映画サスペリアの曲も共にゴブリンというプログレッシブロックバンドの作品だからだ。

 

 「お?」


 靖男は視界の隅に、いつもホラーヒーローを呼び出す時に出る画面のようなものが出現したのを確認する。

 そこには、重要なお知らせ!と出ていた。


 「なになに」


 重要なお知らせ!と言う文字を心の中でクリックし、画面を進める靖男。

 

 「スキルレベルがアップしました、今後は映画内に登場したモンスター以外も呼び出せるようになりました。ただし、条件として必ずモンスターも呼び出す事、そして、そのモンスターから半径1キロメートル以上離れる、又はそのモンスターが元の場所に戻るとその呼び出したモノは元の場所に戻ります。また、現在のスキルにて映画内にてモンスターが持っていた物がそのまま呼び出されておりますが、それも条件は同じです。尚、呼び出された物の消耗品は上記条件下で存在する限り消耗いたしません。また、モンスター以外の人間に関しては呼び出せませんのでご注意下さい」


 そこには、そのように書かれてあった。


 「なるほどなるほど、やはり条件つきだったか。それにしても、これは更に凄い事になったぞ」


 靖男は自分の能力の可能性の広がりに心躍らせた。


 「でもモンスター以外の人を呼び出せないのはちょっぴり残念だったな」


 靖男は独り言ちた。できれば、ゾンビの主人公、特にSWAT隊員のピーターとは共闘したかった、きっと頼りになった事だろう、そう靖男は思ったのだった。

 大暴れしていた巨漢を退治してから、ゾンビの群れと共に砦内を歩くが抵抗らしい抵抗は見られず、すでにこの砦は死者の物となったようだった。


 「まさにドーンオブザデッド、死者の世界の幕開けだな」


 砦内を歩き回るゾンビの群れを見て、ひとり胸に熱いものがこみ上げる靖男だった。

 

 「っと、感慨にふけってる場合じゃないぞ捕らわれている人達を探さなきゃ、地下牢って言ってたよな」


 靖男はウロウロと所在なさげにぶらつくゾンビの間をかいくぐり走った。地下へ続く階段を見つけて降りると、下の方から悲鳴が聞こえて来る。


 「ひぃぃぃぃ」

 「いやぁぁぁぁぁ」

 「な、なんで、こんな事に!」

 「神よ!!」

 「あっちへ行けぇぇぇ!!」


 聞こえて来る悲鳴にまさかと思い走る靖男。


 「あー、やっぱりかあ」


 靖男が見たのは、牢屋の周りをウロウロするゾンビ達と、それを見て怯え悲鳴を上げる捕らわれ人の姿だった。

 

 「すいませんね、脅かしてしまって。彼らは皆、私の召喚獣です、今、元の場所へ帰って貰いますね」


 靖男は牢の中で怯える人たちにそう言うと、ゾンビたちに元の場所へと帰って貰うのだった。


 「ああ、なるほどね」


 肩に担いでいたアサルトライフルがゾンビたちと共に消えたのを見て、靖男は再度このスキルのルールについて納得するのだった。

 ゾンビが消えて後に残ったのは、さっきまでふらふらと歩いていたゾンビ化した盗賊たちの動かなくなった死体だった。

 

 「ちょっと失礼しますよ」


 靖男はそう言って倒れている盗賊の死体を漁る。


 「これでいいのかね?」


 盗賊の死体の腰についていた鍵の束を持ち首をひねる靖男。


 「やってみればわかるか」


 靖男は目の前で起きている出来事に思考がついていけなくなり、ポカンとした表情をしている牢の中の人達をよそに、手に持った鍵束から鍵を差してはひねり差してはひねりを繰り返し、ようやくすべての牢のカギを開けた。

 

 「さあ、皆さん。砦の外にナイアセンの衛兵隊さんがいますから、合流しましょう!ついて来て下さ、うわっつ!」


 靖男が最後まで言い切らぬうちに、牢に入っていた捕らわれの女性たちが、ワッ!と一斉に外に向かって走り出した。


 「ああ、そんなに走って転ばないように気を付けて下さいよー!ほら、転んだあ」


 靖男は我先にと走って行く女性たちに声をかける。

 

 「まあ、気を取り直して、行きましょう」


 牢の中で動かずにいる捕らわれの衛兵たちに靖男は声をかける。こういう時って女性の方が度胸があるよな、と靖男は思うのだった。

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