第13話 恐怖!籠城戦!
駆けつけた衛兵隊に侵入者を検分して貰うと、このタイミングでの侵入と狼藉は子爵の手の者と見てまず間違いは無いだろうが、わざわざこの辺りではあまり使われない剣、湾刀を用いている所と言い子爵との繋がりを示す証拠は持っていないだろうと靖男に伝えた。
また衛兵隊は、自白させたとしても物的証拠がない事を理由に、子爵は知らぬ存ぜぬを通し抜くだろう、そして、それが通るだけの力を子爵は持っているのだと靖男に言うのだった。
「なんて事だ。正義は何処にあるんだ」
靖男はつぶやいた。
「ここにあるではありませんか」
怪人クリーパーは唸るように言い、靖男の心臓を指さした。靖男は怪人クリーパーの気持ちに思わず目が潤んだ。
「そうだね、私が諦めてはいけないよね。神的存在より授かったこの力、正義のために使わずしてなんとする!!」
靖男は拳を握り意志を強く持つのだった。すると、視界の隅に画面が現れ、お知らせと言う文字が点滅する。
「お?今回は音なしか、前回は重要なお知らせだったけど、今回はただのお知らせか。重要度が低いという事かな」
靖男はそうつぶやいて、心の中で点滅する文字をクリックする。
画面が変わり文章が現れるの。そこにはこう書いてあった。
おめでとうございます、怪人クリーパーの忠誠度がアップしました、会話能力、顕現時間が向上します。
「え?何?顕現時間?もしかして、この世界に姿を現すのに時間の制限があったの?」
靖男は疑問を口にする。すると、画面に更に文章が現れた。
基本的な連続召喚時間は24時間です。24時間、顕現させ続けた場合、強制的に元の世界に戻ります。強制的送還が行われた場合、その召喚獣を再召喚するためには12時間のクールタイムが必要になります。
「なるほどね。それは気をつけなきゃいけないな、それ以外で再召喚にクールタイムが必要になる事ってあるの?」
召喚獣が許容を越えるダメージを受けた場合も強制的送還が行われクールタイムが必要になります。各召喚獣のダメージ許容量に関しては、召喚者と召喚獣の距離が近い場合は目視で、離れている場合はこの画面にて確認可能です。顕現時間についても同様のやり方で確認できますので、是非、お試しください。尚、召喚獣は一旦元の場所に戻る事でダメージ、時間、共にリセットされます。
靖男は画面に描かれたことを意識して怪人クリーパーを見た。すると、クリーパーの頭上にふたつのゲージが見えた。ひとつは残顕現時間とあり、今一つは許容ダメージ量と書いてあった。更に意識を集中させると、残顕現時間の所には34時間46分と、許容ダメージの所には1000/1000と書いてあるのが見えた。
「おおー!!こりゃすげー!!」
靖男は現在顕現中のモンスター達のデータを画面で確認する。
クロウ、残時間22時間35分、許容ダメージ985/1000。
BMW K1200R、残時間22時間35分、許容ダメージ1000/1000。
「バイクにもダメージあんのね、普通に走ってるだけならノーダメージか。クロウは子爵のとこの衛兵隊に突っ込ませたときのダメージかね」
靖男は更に続きを見る。
悪魔の車、残時間17時間11分、残ダメージ904/1000。
デビルトラック、残時間22時間47分、残ダメージ1000/1000。
M274ミュール、残時間22時間47分、残ダメージ968/1000。
「ん?悪魔の車のダメージは盗賊団との戦闘だろうけど、M274ミュールって、機関銃積んでるやつだよな?え?なんでダメージ受けてんだ?」
ステータス画面を見ながら首をひねる靖男。
「まさか、何者かと戦ったのか?」
靖男が考えたのは、街道を通るに際して幾度が遭遇した魔物だった。バイクの速度にはついて来れなかったようで、途中で追跡を諦めた魔物たち。靖男が前世界で見た、森で熊に遭遇!危機一髪!みたいな動画を思い出した、例の魔物たち、馬とトレーラーでは速度に任せて撒く事は出来なかったのだろうか?。
そうなってくると、悪魔の車のダメージも、盗賊との戦いだけではなく、その後に負ったダメージがあるのかも知れない、そう靖男は考える。
更に靖男は、だとしても現在進行形で数字が減っている訳ではないし、この減り方から推測するに、戦闘は被害少なく無事に終了したのではないかと考えた。
その靖男の考えは間違っていないのだが、現在の靖男にわかるのは彼の推測内の話であった。
「ありゃ?クロウの許容ダメージが減ってるぞ」
画面上のクロウの許容ダメージ欄が点滅しているのを靖男は発見した。ゆっくりと数字が減るクロウの許容ダメージ。
「ヤスオ殿!!街を囲んでいた兵たちが攻めてきました!!現在、我が領の衛兵隊とヤスオ殿の召喚獣が戦っておりますが、このままでは幾らもしないうちに正門は破られてしまいます!!」
「わかりました!すぐに行きます!!」
靖男はバイクに跨り怪人クリーパーと共に街の正門に急いだ。
「ヤスオ殿!!こちらです!!」
正門に着くと門の左右に作られた櫓の上にいる衛兵が靖男を呼ぶ。
靖男様、私がお連れ致しましょう。怪人クリーパーが言う。
「ちょっと待ってて」
靖男はバイクから降りて後ろに積んである袋を探る。袋の中からもう一丁のウージーサブマシンガンを出し肩から吊るし、ショットガン、モスバーグM590コンパクトクルーザーを手に取った。
「オッケー!お願い!」
怪人クリーパーは大きく頷き飛ぶ。靖男の前に浮かび以前のように足から鎖を出すので、靖男はそこに腰を掛ける。では、行きます、とクリーパー。靖男はお願いと心の中で語り掛ける。
滑らかな動きでクリーパーは櫓の上に靖男を送り届けた。靖男はクリーパーに感謝し、眼下の風景を見る。
クロウに襲われ槍や刀を振り回す子爵領衛兵隊達の姿と、大きな荷車に括り付けられた丸太が見える。
「ヤスオ様!」
「エリカさん!こんな所にいては危険です!」
靖男はまさかこんな前線に男爵令嬢であるエリカがいるとは思わず驚いてしまった。
「私も男爵家のひとりです!こうした時に民の前に立たずして為政者は名乗れません!!」
靖男と怪人クリーパーは、エリカの覚悟に感じ入るのだった。
「では、エリカさん。現状はどうなっていますか?」
気を取り直して靖男は聞いた。
「はい、子爵領の兵たちは破城槌を持ち出し、正門を破ろうとしましたが、ヤスオ様の召喚獣達がああして戦ってくれたため、未だ破られるには至っていません」
「彼らは他の門を破ろうとはしないのですか?」
「表向きは我が領と盗賊団の癒着を問いただす、という理由をつけており侵略ではないと体裁をとっていますので、複数個所からの攻撃には出られません。それをすれば、侵略行為とみなされますからね。ただし、先ほどヤスオ様とクリーパーさんが捕らえてくれたような、騎士道に反した不法なやり方は、また話が別になってきます。一応、兵を割いて、そうした者が侵入して来ないよう巡回しては貰っています」
「わかりました。クリーパーさん、巡回の方に力を貸してもらって良いですか?」
「わかりました靖男様」
以前より幾分スムーズな受け答えをしてクリーパーは飛んで行った。
「それで、下にいる兵たちなのですが、このままだとクロウ達も撃退されてしまいそうです。どうしますか?」
靖男は兵隊から弓や魔法で攻撃を受けジリジリと数を減らしているクロウを見て言った。
「ここまで来てしまったら、こちらも無抵抗という訳にはいきませんね。ポレイス侯爵からの援軍が来るまで、奴らを街へは入れてはなりません!ヤスオ様、協力していただけますか?」
「勿論ですよ、ではこちらも遠慮なく奴らを蹴散らしますね。クロウ達!ありがとう!街の中の警護に行っておくれ!」
靖男が声を上げるとクロウ達は一斉に街へと飛んで行った。
「い、今だ!!門を破れ!!」
子爵領兵の指導的立場らしき男が馬の上から叫ぶ。と、その時、子爵領兵を囲むように鉄のコンテナが6台、忽然と姿を現した。
「な、なんだこれは!!また異形の物か!魔法隊!弓兵隊!攻撃を仕掛けろ!!」
指導者の男が叫び、各コンテナに火炎玉、石の槍、氷の矢、通常の矢が雨あられと降り注ぐ。
「や、やったか!」
「それはフラグなんだよなあ」。
指導者の男の声に靖男は思わずそう口にしてしまう。そして、すべてのコンテナの側面の板がバタンと倒れる
「ゆ、油断をするな!」
「そう、油断はしない方が良い」
指導者の言葉にまたもや答える靖男。兵隊たちがかたずをのんで見守る中、側面の開いたコンテナから出て来たのは、灰色のつなぎを着た悪魔のような形相のスキンヘッドの男達だった。真っ黒な目をした、その異形の集団は子爵領の兵を見ると猛烈な勢いで走って襲い掛かって行った。
「ぐわぁぁぁ!!」
「なんなんだ!こいつらは!!」
「攻撃の手を緩めるなぁぁぁ!」
「ダメだ!圧が強すぎる!!」
猛烈な勢いで子爵領の兵に襲い掛かる異形の集団、それこそは映画バイオハザード3にて登場し、主人公たちを苦しめたスーパーアンデッドであった。変質し強力になったT―ウィルスに感染したスーパーアンデッドは、通常のアンデットよりも凶暴で敏捷なのだ。
「街だ!街の中に入れ!!」
一部の兵たちがハシゴを持ってこちらに駆けて来る。
「そうはさせないよ」
靖男はそう言ってウージーサブマシンガンを乱射する。櫓にいる兵たちも、矢を打ち込む。
それでも大盾を持ちハシゴをかけ登ってくる剛の者がいる。靖男はそうした剛の者には近くでショットガンを撃ち込むのだった。
「何をもたついてやがる!!道を開けろ!!」
「おお!タケリゴだ!」
「タケリゴが来たぞ!」
「これで形勢逆転だ!!」
巨大なメイスを持った大男が兵をかき分けて出て来た。
「うぉらっ!!」
大男がメイスを振り回すとスーパーアンデッドが三体吹っ飛ばされる。
「どけどけ!!」
大男は周囲に仲間の兵がいるのにお構いなしで巨大メイスを振り回す。周りにいた兵士もスーパーアンデッドも共にぶっ飛ばされる。
「なんだい、あれは。無茶苦茶だよ」
「ヤスオ様の召喚獣が!」
エリカがスーパーアンデッドの心配をする。
「うん、そうだね。ちょっと援軍を呼びますよ」
暴れまわる大男の前に出現したのは、醜悪な外見をしたクリーチャーであった。右手が触手のようになっているクリーチャー、映画バイオハザード3に出て来る、タイラント、スーパーアンデッドに噛まれ抗ウィルス剤を大量投与した事で突然変異を起こしクリーチャー化したアイザック博士その人であった。
「この野郎!ぶちのめしてやる!!」
大男が叫びタイラントに突進する。
「グルルルル」
タイラントは大型獣のような唸り声をあげ、右手の触手を伸ばし大男の首に巻き付けた。
「うおらっ!!」
大男はひるむことなく巨大メイスでその触手をぶっ叩き引きちぎった。そのまま大男は雄たけびを上げタイラントに打ちかかる。
「ガァァァァァ!!!」
タイラントは大男に向かって獣のように吠えた。地面が土煙をあげ大男は凄い勢いで後方へ飛ばされる。タイラントの衝撃波であった。
「か、加勢に入れ!!」
近くにいた兵隊がタイラントに切りかかる。剣で切られ、槍で突かれたタイラントは身体を震わせ雄たけびを上げるが、つけられた傷はすぐに塞がっていく。タイラントご自慢の驚異の再生能力であった。
タイラントは触手を振るい衝撃波を放ち、周囲に群がる兵たちを蹴散らしていく。
「プワァァァァァァァァァァァ」
遠方に見える土煙と共に、大型トレーラーのホーンの音が聞こえて来る。。
「どうやら援軍到着のようですね」
靖男はエリカに言う。
「今の音は?」
「ポレイス侯爵領まで負傷者を運ぶように頼んだ私の召喚獣の音です」
「という事はポレイス侯爵領兵も」
「恐らくは一緒でしょう」
「街は守れたのですね」
「ええ、もう安心して下さい」
靖男が声をかけるとエリカは弓を持ったままへたり込むのであった。
いくら、男爵家の娘で貴族的な教育を受け、強い責任感があったとしても、エリカはまだ年若い娘である。安心して緊張の糸がほぐれたのであろう。
靖男はへたり込んだエリカに肩を貸して、眼下の勝ち戦を見せるのであった。
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