第7話 恐怖!盗賊団!

 男爵の部屋の入り口付近では凄惨な暴力の嵐が吹き荒れていた。

 

 「なんなんだこいつは不死身か!ふげー!」


 ジェイソンの肩口に山刀のような刃物をぶち込んだ男は、肩に食い込んだ山刀をチラっと見るだけで意にも返さないジェイソンの強烈なパンチを食らって吹っ飛んだ。

 ジェイソンは肩に食い込んだ山刀を無造作に取ると、向かってくる男に向けて振り下ろす。


 「こなくそ!げっ!」


 持っていた鉄の棒でそれを受け止めようとした男だったが、鉄の棒にあたった山刀が砕け散り、残り少ない刃部分をそのままジェイソンに肩に突き立てられて声を上げて後ろへぶっ飛んだ。


 「いいよ!ジェイソン!私の可愛い子!そいつらはあんたが溺れていても気づかなかった、欲望を果たす事にかまけてあんたを見殺しにした悪い人たちだよ!!」


 パメラがバッキバキに決まった目をして叫ぶ。叫びながらも、トビラで暴れるジェイソンの暴力の嵐を潜り抜けたラッキーな者に素早く近づき、転がっている棍棒を手にしてその男の頭を叩き割る。その男のラッキーはそこで尽きるのだった。

 

 「どけどけどけ!!俺に任せろ!!」


 廊下から大きな声がして、ジェイソンよりも頭ふたつ分は大きな男がこれまたデカイ斧を持って現れた。


 「この野郎!!仲間が世話になったな!!」


 巨漢の男が斧を持っていきり立つが、ジェイソンはそれを不思議な物でも見るように小首をかしげるのだった。


 「どうした?ビビったか?俺様はこの斧でシルバーグリズリーを倒した事もあるんだぜ?へへへ、お前は魔獣よりも楽しませてくれるかな?」


 巨漢の男はそう言って大斧を振り上げた。ジェイソンは奪い取った山刀で振り上げた両手を横殴りに切りつける。


 「うどだろ・・・?」


 大男の肘から先は斧と共に地面に落下した。大男はそのまま泡を吹いて後ろに倒れトビラを塞いでしまう。

 ジェイソンは無造作に倒れた男の足をつかみ室内に引きずり込むと、廊下に足を踏み入れた。


 「ぎゃああっぁぁ」

 「ナッダケさんがやられたぞー――!!」

「ふざけんな!こんなバケモンとやれるか!!」

 「ぐべぇぇぇぇぇ」

 「撤収!!撤収だああああ!!」


 廊下から男たちの叫び声が聞こえて来る。


 「曲者だ!ひっとらえろ!!」

 「すぐにご領主様の安否を確かめろ!!」


 窓の外から聞こえる声にエリカは即座に反応し、窓に駆け寄り外の衛兵に向けて、自分たちは無事である事、そして曲者を逃がさぬようにと叫んだ。

 

 「なんとかしのげたようですね。パメラさんありがとう、ジェイソン君にも、お疲れ様とお伝えください」


 靖男はパメラにそう告げると、彼女は手に持った鉄棒を降ろして廊下に出てジェイソンを呼んだ。そして、ふたりは元の場所へと帰って行くのだった。


 「大丈夫でありますか!」


 それからすぐに衛兵が駆けつけ領主の安否を確認する。

 ナイアセン男爵は事態を説明する。靖男の事は娘を助けてくれた旅の召喚術師で、今回も靖男の術により危うい所を助けられたのだと、男爵のみならずエリカとエドモンも口をそろえて言ってくれたので、靖男は衛兵から感謝されるのだった。

 男爵一家が無事であったことを喜ぶ衛兵達の姿を見て、靖男はこの領が善政によって治められているのだなと感じるのだった。

 衛兵隊は両手を切られ倒れていた大男を見ると、最近、街道を騒がせているデンガル盗賊団の副頭領首切りナッダケで間違いないと言った。

 馬車を襲ったのも、街の入り口でお嬢様を襲ったのもデンガル盗賊団で間違いないだろうとの事だった。

 カッフージ執事長が持っていた薬についても、恐らくはヒ素であろう事、エドモンの健康状態はそれによる可能性が大きく、今後は安静にして栄養を摂る事、特にニンニクを一日ひとかけら食すように医師から言われたとの事、今後はヒ素の購入先を追い関係性を調べる旨が報告された。

 屋敷の周囲に警護を残して衛兵隊は引き上げていく。

 すっかり夜も更けてしまったので、男爵、エリカ、エドモン、靖男はひとまず眠る事にした。靖男は元の部屋ではなく男爵の近くの部屋を用意して貰い、念のために召喚獣に屋敷の中を警護してもらう事を皆に告げ、就寝するのだった。

 

 そして翌日。

 

 「きゃああああ!!」


 女性の叫び声で目を覚ます靖男。


 「いっけね!」


 靖男は飛び起きて男爵の部屋へ向かう。

 すぐ近くにある男爵の部屋の前、そこでは一人の女性が腰を抜かして倒れこんでおり、彼女の目の前で人形が手を上げて怒っているのが見える。


 「おい!こら!なんで蹴ったんだよ!!いきなり蹴り飛ばすなんてひでぇーじゃねーか!!」


 30センチほどの大きさの子供の外見をした人形がへたり込んだ女性に抗議をしている。

 

 「お!靖男!いい所に来た!なんとか言ってやってくれよ!!こっちは寝ないで番をしてたってのによ!」


 「おはようチャッキー、ご苦労だったね」


 靖男が挨拶をした人形、彼こそが映画チャイルドプレイに出て来る殺人鬼人形チャッキーその人なのであった。


 「あわあわ、に、人形が、喋ってあわあわ」


 「ごめんなさいね。このお人形さんは私の召喚獣でしてね、夜の警備をお願いしていたんですよ」


 「しょ、召喚獣ですか?」


 「そうです」


 「なあ靖男?もういいか帰っても?」


 チャッキーが言う。


 「ああ、お疲れさまでした。また、なにかあったらお願いしますね」


 「ふぁ~あ、今度は俺を見かけても蹴らないように言っといてくれよな、それじゃ、おやすみー」


 チャッキーはそう言って姿を消した。元の場所へ戻って行ったのだろう。腰を抜かしたままの女性に手を貸した靖男は、女性と一緒に男爵の部屋へ入る。

 男爵も女性の悲鳴で目を覚ましたようで既にベッドから出てイスに座っていた。


 「おはようございます男爵。お身体の具合はいかがですか?」


 「ああヤスオ殿、一晩寝てだいぶ良くなったよ。エドモンの体調不良の原因がわかって、心のつかえがひとつ取れたのも、体調良好の原因だろうね」


 「おはようございます旦那様。扉は傷だらけですし、壁や天井に穴も開いておりますし、挙句の果てにはお人形に怒鳴られましたが、いったい昨晩なにがあったのですか?」


 「おはようケイト。そう言えば君たちは眠りの魔法をかけられていたのだったね。昨晩の事を説明するから、皆の者に広間に集まるように伝えてはくれないか?」

 

 「わかりました旦那様」


 ケイトと呼ばれた女性は一礼すると部屋を出た。

 

 「どうしましたケイト?」


 廊下からエリカの声がする。そして、エリカに、いかに自分が驚いたのかを訴えるケイトの声が男爵と靖男の耳に聞こえて来る。


 「ふふふ、真面目な人なのだがお喋りなのが玉に瑕なのだよ」


 「真面目なのは良い特質ですね」


 靖男は笑う男爵に答えた。部屋にやって来たエリカとエドモンに事情を説明した男爵は、皆の者に昨晩の事を説明するので着替えてから広間へ集まるように言う。

 そうして広間に集まった面々の前で、ナイアセン男爵は昨晩の事を説明したのだった。


 「何という事でしょう!」

 「エドモン様の食事は必ず執事長が運んでいたが、よもやそんな事であったとは!」

 「まさか一晩のうちに二度までもそのような狼藉が」

 「召喚術師殿のおかげだったのか!」

 

 広間がざわつく。


 「皆の者、心配かけて済まなかった。衛兵からも皆の者へ事情を尋ねる事があると思うが、協力を頼む」


 「「「はい、旦那様」」」

 

 広間に集まった人達が声を合せて返事をする。靖男は、もし執事長のような人物がいたら、何らかの形で挙動に不審なものが現れるのではないかと考え、集まった人たちのリアクションをじっと観察したが、皆、説明にざわつき、不安気な顔をし、義憤に駆られ、といった感じに不審なものは感じられないのであった。

 そうして、男爵は皆を解散させて朝の食事を摂った。そして朝食後、衛兵が昨日の事について新たに判明したことがあると報告にやって来た。

 

 「あの後すぐに、デンガル盗賊団のアジトと思われる場所に衛兵隊を出したのですが、そのうちの一部隊が消息を絶ちまして。そのご報告に上がりました」


 「うむ、ご苦労であった。それで、どうするつもりだ」


 「はっ!消息を絶った部隊の捜索も含め、新たな部隊を編成し向かう予定なのですが、そこに召喚術師殿もご一緒願えないかと」


 報告に来た衛兵が男爵に頭を下げた。

 

 「ふむ、しかしヤスオ殿にはこれまでも随分助けて頂いた、これ以上危険な事をお願いするのは甚だ忍びない」


 男爵が苦しそうに言う。


 「構わないですよ」


 「ヤスオ殿!」


 即答する靖男に思わず声を上げてしまう男爵。


 「男爵の安全のためにこの屋敷に召喚獣を置かせてもらえるならば、ですけど」


 「おお!来て頂けるか!!」


 衛兵の男が喜びの声を上げる。


 「召喚獣の件、構いませんね?」


 「あいわかった、そちらは他の衛兵にも声をかけて周知させておきまする故に、出発するならば一刻も早く願いたい。外で待ちますので、お頼み申し上げる!」


 衛兵はそう言うと喜び勇んで外へ出て行った。


 「良いのですかヤスオ殿、恐らく危険な事になるかと思われるが」


 男爵が済まなさそうに言う。


 「大丈夫です男爵、それよりも子爵の動きが心配です。お屋敷の警護に私の召喚獣を置いて行きますので、もしものことがあったら彼に言って下さい」


 「彼とは?」


 「エリカさんはご存知だと思いますが、クリーパーさんお願いします」


 黒いトレンチコートに黒帽子、身の丈2メートルはある大男、真っ黒く不気味な光沢を放つ肌にランランと光る大きな目、まるで悪魔のような風貌、靖男がこの世界に来て最初に呼び出した、怪人クリーパーが部屋の中に出現した。


 「うおっ!こ、この方が」


 突然現れた異形の者に男爵が思わず息をのんだ。


 「ええ、クリーパーさんです。見た目はちょっと強面ですが、かなりの実力者ですのでお任せ下さい。クリーパーさん、留守を任せて良いですか?」


 怪人クリーパーは部屋の中を見て頷いた。彼らを守ればよろしいのですな?と靖男の心に問いかけるので、靖男はそうだ、と答えた。そして、敵に洗脳されるなどの事が無い限りは、男爵、エドモン、エリカのいう事を聞いて欲しいと靖男はお願いする。

 心得たと大きく頷く怪人クリーパー。

 

 「彼が警護に当たってくれますのでご安心ください。それでは、衛兵さんの所に行ってまいります」


 「わかりましたが、くれぐれもご無理はされぬように」


 「ええ、心得ましてございます」


 「ヤスオ様、お気を付け下さいまし」


 エリカがつつましげに言い目を伏せた。靖男はそれを、自分を危険な地へと向かわせてしまう事への責任感や罪悪感から来る仕草だと思った。


 「エリカさん、心配しないで下さい。私には頼りになる召喚獣達が沢山いますから!」


 エリカを元気づけようとして靖男はそう力強く言った。エドモンはそれを隣で見ながら、おや?おやおやおやおや?もしかしてエリカ、春の訪れですか?と思うのだった。マリエラと似たような所のあるエドモンであった。

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