第2話 恐怖!第一異世界人発見!

 「いやー!なんて気持ちのいい風だろう!こんなのは生まれて初めてだよ!」


 靖男が楽しそうなので怪人クリーパーも嬉しそうである。靖男は快適な空の旅を楽しんでいるが、そこは怪人クリーパーの気の使い所、靖男が不快にならないように調節して飛んでいるのであった。怪人クリーパー、できる男である。

 あちらの方で何かトラブルが発生しているようですが、どうしますか?靖男の心に怪人クリーパーが問いかける。

 

 「待ってました!!すぐに行きましょう!!」


 ノリノリな靖男の要望に応えるべく、怪人クリーパーは靖男にダメージを与えないように気をつけて速度を上げた。


 「うわぁ!!早いぞクリーパーさん!!イケイケー!」


 子供の様に喜ぶ靖男と、それに満足して速度を上げる怪人クリーパー。まるで、親子のようである。

 そうして飛ぶことしばし、靖男の目にも怪人クリーパーが言うトラブルが見えて来る。

 平原を横切る土の道を疾走する荷馬車、そしてそれを追いかけ矢やら魔法やらを放っている馬に乗った男達。

 追うものの数は5人。

 さて、これはどちらに加勢すべきか、と靖男は考えた。

 追われている方が正義で追っている方が悪とは限らない、靖男は追っている男たちの風貌を良く見る。

 

 「うっひゃっひゃっひゃぁー-!!殺せ殺せー!!」


 「ぎひひひひ!大人しく止まれやぁ!!奪わせろ!破壊させろっ!!」


 毛皮を荒々しく着た男たちが、よだれを流して叫んでいる。まるでマッドマックスの敵じゃないかと靖男は思った。

 

 「うーん、さすがにこれはなあ。でも決めつけは良くないからな、ひとまず馬車の方に近づいてくれる?」


 靖男は慎重な性格だった。やはり、神的存在を持ってハズレばかり引かせてゴメンと言わしめた人生を送ってきただけの事はあった。

 怪人クリーパーにお願いし、ゆっくりと馬車の御者台に近付いてもらう靖男。


 「あのー、ちょいとお伺いしますが」


 「な、なんだ君は!!」


 お高そうなスーツを着た御者さんが靖男を見て慌てた。いや、正確には怪人クリーパーにぶら下がった靖男を見て、だ。


 「すいません、驚かせてしまったようで。どうして追われているのかお聞きしたくて」


 靖男はあくまで物腰柔らかく尋ねた。靖男は、後輩に対しても、店員に対しても、誰に対してもこの調子なのだ。靖男自身はこれが原因で、今まで友人や彼女や後輩などが自分を軽んじるようになるのかと思っていたのだが、どうも神らしき存在が言うには、友人や彼女や後輩などの人間関係も合わせたすべての運が悪かったとの事だったので、このままでも構わないなと納得したのだった。

 まあ、そうでなくても、他者に高圧的な態度などは取る気になれない靖男ではあったが。


 「そんな事は盗賊に聞いてくれ!!」


 御者の男は緊迫した状況にそぐわない靖男のとぼけた質問に面食らい、思わずとりとめもない事を言ってしまう。


 「やっぱり、後ろの人たちは盗賊でしたか。そうじゃないかなあと思ってはいたんですが。それではあなたたちは悪い人ではないんですね?」


 追う方が悪い奴だということはわかったが、逃げている方も悪い人な事もあるだろうと靖男は考えた。

 

 「当たり前だろう!!この馬車はナイアセン家の馬車だぞ!後ろにはお嬢様がお乗りになっているのだ!!」


 「あらあ、女性が乗ってられるのですか?荷馬車のようですが?」


 「嘘だと思うなら中に入って見てくれ!それで納得したならお嬢様のためだと思って助けて欲しい!!」


 御者の男が必死の形相で言う。どうやらこの男は悪い人ではなそうだなと靖男は思った。


 「それじゃあ、確認させていただきますね」


 靖男は怪人クリーパーに、荷馬車の上で待機して飛んで来る矢を防いで欲しい、とお願いした。

 怪物クリーパーはお安い御用ですとばかりに頷くと、御者台に靖男をそっと降ろし、足から出した鎖をしまうと上空へ飛んだ。


 「失礼しますね」


 靖男は声をかけて御者台から後ろの荷台へ入った。靖男が見たのは、荷台後ろに作られた木箱のバリケードと幌の至る所に矢が刺さった状態の中、肩寄せ合う二人の女性だった。

 ひとりは年長の女性、といっても靖男よりは年下か?その女性がもうひとりの女性をかばうようにしている。

 かばうように抱かれている女性、いや、女性と言うより娘さんと言うべきか?十代半ばから後半くらいの年齢で年長の女性よりも仕立ての良さそうな服を着ているのは、こちらが御者の言っていたお嬢様なのだろうか、と靖男は当たりをつけてみた。


 「えーっと、こんにちは。あなたはナイアセン家のお嬢様ですか?」


 ふたりの女性がポカンとした表情で靖男を見た。

 それもそうだろう、盗賊団に追われ命の危険を感じている最中、突然現れた男が挨拶をして素性を問うてきたのだ。それでも気丈に返事をしたのは年上の女性だった。


 「こちらは、ナイアセン男爵家のエリカ・ナイアセン様です!乱暴狼藉は許しません!」


 「いや、私は盗賊ではありません。あなたたちが、悪者でないならお力を貸しますよ」


 靖男は両手を胸の前でフルフル振って、否定の意思を全面的に示して言った。

 

 「どこのどなたか存じませんがお願いします。この馬車には領民のための薬が積んであります。どうか、これを無事に届けることができますように、お助け下さい!」


 守られるように抱かれていた娘、エリカ・ナイアセンは真っ直ぐに靖男の目を見つめて言った。その姿に靖男は感動を覚えた。

 自分を助けろと言わないのか、と靖男は衝撃を受けた。これまでに靖男が出会ったことのないタイプの人間だったのだ。それもそうだろう、なにしろ靖男の人間関係は神らしき存在がゴメンと謝るほどのハズレ続きだったのだから。


 「わかりました。お任せ下さい」


 靖男は軽く目を潤ませて言う。すっかり心を打たれてしまったのだった。

 私が盗賊を蹴散らしましょうか?と上空にいる怪人クリーパーが靖男の心に問いかけて来た。

 いや、大丈夫です。クリーパーさんは上で見ていて下さい、せっかくなので、他の仲間を呼んでみます。靖男は怪人クリーパーに言った。もう、呼び出せるホラー映画のキャラクターは、靖男にとってれっきとした仲間であった。

 靖男は荷台の後ろに積み上げられた木箱の隙間から盗賊の姿を確認した。


 「おーい!盗賊団やーい!」


 靖男は大きな声で追いかけて来る盗賊団に話しかけた。


 「なんだなんだ!おとなしく止まるのか!!」


 先頭を走る盗賊の男が靖男に答えた。


 「このまま大人しく逃げ去るなら命までは取りませんよー」


 「お前、上を飛んでる怪しい魔物の仲間だな!!面白れぇ、とっつかまえて売り飛ばしてくれる!!」


 盗賊の男はそう叫ぶとこちらに向けて魔法を使い、尖った石を放って来た。

 先の尖った石が木箱に当たり突き刺さる。


 「仕方ないなあ」


 靖男は意識を集中し検索をかける。クリスティーン、ヒット検索結果ありの文字が靖男の視界の端に見える。

 

 「お願いしまーす!」


 靖男が声に出すと、追ってきている盗賊団の後ろに突然、車が出現した。


 「なんだなんだ!!」

 「奇妙な魔物が現れたぞ!!」


 慌てふためく盗賊団の連中。

 現れたのは真っ赤に輝く古臭い外観のアメリカ車、正確には1958年型プリムス・フューリだ。


 「ビビるな!!殺せ!」

 「おおう!!」


 しかし、さすがと言うかなんと言うか、腕と度胸で生きている盗賊団だけのことはあり、すぐに持ち直してプリムス・フューリを攻撃しだした。

 馬を横付けし斧でぶっ叩く者、矢を射る者、棍棒で叩く者も現れ、プリムス・ヒューリーはボコボコになってしまう。

 加勢致しましょうか?と怪人クリーパーが靖男に問う。

 そっか、クリーパーさんはクリスティーンを観た事が無いんだね、大丈夫だよ彼女は普通の車じゃないから、と靖男は心の声で怪人クリーパーに答える。

 そう、この車、真っ赤な58年型プリムス・フューリこそが映画クリスティーンに登場するホラーヒーローなのである。ちなみに、靖男が彼女と言ったようにこの車の名前がクリスティーンなのだった。

 

 「な、なんだこいつ!!」

 「元に戻ってやがる!!」


 驚きが隠せない盗賊連中。それもそうだろう、今さっきまで、窓ガラスは割れ、フレームは曲がり、ボコボコになっていたプリムス・フューリ、クリスティーンが、見る見る間に元のピカピカな姿へと戻って行くのだから。


 「くそ!怖気づくな!!こいつを食らわしてやる!!」


 盗賊団の頭領か?ひときわ身体の大きな男が両手を天に上げる。するとその手の上に大きな火の塊が出現した。


 「離れろ!!」


 身体の大きな男は仲間たちにそう叫ぶと、火の塊をクリスティーンに投げつけた。


 「やった!!」


 男が叫びクリスティーンが火に包まれる。ところがクリスティーンは燃え盛ったまま、近くにいた盗賊を轢いた。普通、車は炎上すればガソリンに引火して爆発するし、これだけ炎に包まれればタイヤが溶けてしまうだろう。しかし、この車はただの車ではないのだ。

 火だるまになるのは盗賊団の方であった。

 その後も盗賊団は魔法を放ったり頑張ったが、クリスティーンは危なげなくひとり、またひとりと跳ね飛ばしていったのだった。

 お疲れ様クリスティーン、ありがとうね。靖男は心の中でクリスティーンに感謝を告げた。

 クリスティーンはまるで喜びの声を上げるかのようにクラクションを鳴らす。

 その音にビックリするエリカ・ナイアセンとその付き人らしき女性。


 「ああ、もう大丈夫ですよ。盗賊は全滅しましたから」


 後ろの木箱をずらし、後方の視界を確保しながら靖男は言った。

 

 「きゃあ!!」


 馬車の後ろについたクリスティーンと怪人クリーパーに驚いて声を上げる付き人女性。


 「マリエラ、失礼ですよ。あれは、あなたの召喚獣ですか?」


 驚いた付き人女性マリエラを嗜めながらエリカは靖男に尋ねた。


 「え?ああ。そう、そうでした召喚獣です」


 靖男は慌てて言った。ここに来る前に神らしき存在に言われていたのだ、その力は召喚術のカテゴリーに入るから、術を問われたら召喚術だと言いなさい、と。

 

 「助けて頂きありがとうございました。改めまして、エリカ・ナイアセンと申します。お名前をお伺いしても?」


 「相田靖男と申します」

 

 「アイーダ・ヤスオ様ですか。ご迷惑でないならば、お礼がしとうございます。よろしければ、このまま一緒に我が領まで来ては頂けませんでしょうか?」


 「ヤスオ様、私からもお願いします。どうか、道中の護衛をお願い致します」


 エリカに続いて付き人マリエラまでもが靖男に同行を願い出す。靖男にしてみても、なにも用事があるでもなし、彼女らについて行く事でこの世界を良く知ることが出来るかも知れないとも思い、喜んで同行させてもらう事にしたのだった。

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