第2章・ヌイグルミ魔法師

第4話・「少しばかり弟子に、師匠らしさを見せつけてやるっス」

 モフモフの【ヌクヌク島】──ヌギヌギは、切り株のヌイグルミの上に置かれた、ヌイグルミの金貨に向かって。

 師匠のプラプラが、拾ってきた枝葉付きの棒を振って叫び続けていた。

「ヌイグルミから金貨にもどれ! えい! えい!」


 弟子の様子を別の切り株ヌイグルミに座って、骨つき肉のヌイグルミをかじっていた、プラプラが言った。

「そのヌイグルミの金貨は、この間、町でヌイグルミを売るのを手伝ってくれた賃金っス……町で買い物や店で食事をしたかったら、根性でヌイグルミ魔法を解いて金貨にもどすっス……これも修行っス」

「えい、えい、金貨になれ!」

 棒を降り続けているヌギヌギに、プラプラは勝手に話し続ける。


「この異界大陸国レザリムスには【五大術師】と呼ばれている者がいるっス……一人目は西方地域の『大魔導師ナックラ・ビィビィ』二人目は北の『魔女皇女イザーヤ・ペンライト』

次に東方地域の『邪魔魔女レミファ』……四人目は和洋中華折衷せっちゅうの魔女『桜菓』この桜菓という魔女は現在、どこにいるかわからないっス……そして、五人目は、あっしヌイグルミ魔法師の『プラッシュ・トーイ』ことプラプラっス……なまらパネェ」


 棒を振るのに疲れた、ヌギヌギが師匠のプラプラに言った。

「師匠、この魔法のステックちっとも効果ありませんよ」

「当たり前っス、それは道で適当に拾った棒っス、そんな棒で魔法がかかったら大笑いっス」

「知っていてやらせたんですか! ヒドイです! そう言えば師匠って魔法のステックも、魔法の杖も使わずに指一本でヌイグルミ魔法をかけたり、解いたりしていますよね?」

「以前は、ステックや杖でやっていたっスが。試しに指でも魔法が使えるコトがわかって、ステックや杖はやめたっス」


 ヌイグルミの切り株に座ったヌギヌギが汗をタオルで拭きながら、さらにプラプラに質問する。

「最初に会った時から気になっていたんですが、師匠の片目のボタンと一部が毛糸になった髪……呪いか何かですか? あっ、気に障ったら答えなくてもいいです」

「自分で自分に魔法をかけたっス」

「えっ!?」

「ヌイグルミの気持ちを知るために……もどろうと思えばいつでも、もどせるっス……気に入っているから、片目と髪はもどすつもりはないっス」


 プラプラは、ヌギヌギにヌイグルミの炭酸飲料ビンを手渡して、話し続ける。

「ヌイグルミ魔法には、〝動かないヌイグルミ〟に変える魔法と〝動くヌイグルミ〟に変える魔法の二種類あるっス……この異なる魔法を獣に使い分けられるのが一流の、ヌイグルミ魔法師っス」

 ビンヌイグルミの中身を必死に飲もうとして飲めない、ヌギヌギにプラプラが言った。

「炭酸飲料、嫌いだったっスか……ぜんぜん、減ってないっスね……もっとも、ヌイグルミの飲物が飲めたら、なまらパネェ」


「師匠、普通の飲食をさせてくださいよ……この島に来てから、食べるのはヌイグルミの肉やパンだけ……飲料水は師匠の家にある本物の水瓶の中にある、湧き水だけですよ」

「贅沢言うんじゃないっス、ヌイグルミの野菜や果物も与えているはずっス……本物の水は生活用水で必死不可欠の貴重な水っス、今日の魔法練習は終了っス、家で雑用をするっス」

 ヌギヌギは、ヌイグルミの家に入ってプラプラの指示で、台所でヌイグルミの肉や魚や野菜の調理を指示した。

 ヌギヌギが、ヌイグルミの魚をフェルトの炎に近づけようとしていたのを見た、プラプラが慌てて怒鳴る。

「何をするつもりだったっスか!」

「ヌイグルミの魚を焼こうかと」

「ヌイグルミを焼く? 火事になるっス! ヌイグルミを調理する基本は煮るか蒸すっス、そんなコトもしらないっスか……もう料理はいいから、隣部屋の掃除をするっス」


 プラプラが台所に立って、鍋に入れたヌイグルミを煮ていると。隣の部屋で木彫りの像を磨いていた、ヌギヌギがプラプラに質問する。

「この木彫りの変わった木像何なんですか? サケがクマをくわえている?」

「うちのじっさまが、東方地域に旅行した時に、お土産で買ってきてくれた木彫りの像っス……子供の時から、大切にしているっス」

 光沢がある魚類が哺乳類を口でくわえている木像を棚にもどして、ヌギヌギがプラプラに訊ねる。

「師匠のおじいさんって、どんな人だったんですか?」

「そこの、棚の扉を開けてみればわかるっス」


 ヌギヌギが扉を開けると、中に老人のヌイグルミが座っていた。

 そのヌイグルミを手にするヌギヌギ。

「これが師匠のおじいさんですか」

 ひっくり返したヌイグルミの、ズボンを脱がそうとしていたヌギヌギの心の中に、ヌイグルミから声が聞こえてきた。

《このガキ! 儂をひっくり返して、ズボンを脱がしてどうするつもりだ!》

「わっ!?」

 床に祖父のヌイグルミを放り投げられたのを横目で見て、プラプラが呟く。

「やっぱり、ヌイグルミの声を聞くコトができたっスか」

「師匠、ヌイグルミが喋るって知っていたんですか?」

「当たり前っス、ヌイグルミ魔法師の素質があるのは、ヌイグルミの声が聞こえる者だけっス……声が聞こえない者は、いくら修行をしても。なまらパネェくらいムダムダムダっス……放り投げた、じっさまは棚にもどしておくっス……席につくっス、料理ができたっス」


 ヌギヌギがヌイグルミの椅子に座ると、ヌイグルミのテーブルに湯気がのぼる、煮たヌイグルミの魚が皿に乗って置かれた。

「甘味のソースを乗せたら完成っス」

 プラプラが、煮たヌイグルミ魚の上に、とろけた形の甘いソースを乗せた。

「さあ、目の前にあるナイフとフォークで食べるっス」


 茹であがったヌイグルミを前に、困惑しているヌギヌギにプラプラが言った。

「どうしたっス、普通の飲食をしたいと言うから、ヌイグルミを煮てみたっス……栄養と味は変わってないっス。食べないのなら」

 プラプラが人差し指を、ヌギヌギに向ける。

「一度、弟子をヌイグルミに変えて。ヌイグルミの気持ちを、味わわせるっス」

「うわっ、食べます、食べます!」

 ヌギヌギは、煮たヌイグルミを食べはじめた。


「それでいいっス、食べ物の好き嫌いはいけないっス」

 プラプラが「うんうん」と、うなづいていると開いていた窓から、丸めた手紙をくわえたヌイグルミの鳥が飛んできて、プラプラの肩にとまった。

「また、遠征仕事の依頼っスか」

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